夢魔
MIN:作

■ 第1章 淫夢7

 弥生が足早に校門を出るのを、一人の少年がじっと見詰める。
 姿が見えなく成ると、興味を無くして、教科書に視線を戻す。
 数学の授業が淡々と進む中、その少年をじっと見詰める少女が居た。
(なんで…私は、あの人が恐いんだろ…見詰められると…引き込まれそうに成るから…ううん…違う…どうしてかしら…近づいちゃいけない気がする…何でだろう…)
 少年を見詰めているのは美紀で、どうして自分が稔を嫌うか、自己分析中であった。

(でも、こんな事相談して良いのかな…教えてくれるかな…今までよそよそしく、避けてたのに…ふぅ…どうしよう…)
 美紀は稔の持つ、夢に対する専門知識を、どうしても知りたかった。
 その為に自分が何故避けていたかを、自己分析してみたが、一向に理由が分からない。
 美紀の中で只漠然と[近付いては、いけない]としか、答えが出てこなかったのだった。
 美紀の答えが出ないまま、授業の終了を告げるチャイムが鳴り、昼休みに入っていった。

 美紀の目の隅で、稔が立ち上がり本を片手に、教室を出ようとする。
 美紀は慌てて立ち上がり、思い切って稔の背中に向かって、声を掛ける。
「あの…柳井君…少し良いですか…」
 美紀は俯いて稔の返事を待つと
「何…手短に頼めるかな…」
 低い静かな声で、短く答えた。
 美紀は慌てて、用件を伝えようとすると、沙希が飛び出してきて
「ど、どうしたの美紀…こいつに、何かされたの?」
 美紀の肩を掴み、稔を睨み付けて、問いただす。

 そんな、沙希の言葉を聞いて、稔は興味を無くしたように、背中を向けると歩き出そうとする。
 美紀は慌てて沙希を押さえ、稔の背中に言葉を掛ける。
「あ、あの…柳井君…夢の話を教えて欲しいの…。今日持ってた…そう、今も抱えてる本って、夢について書いてるんでしょ…」
 美紀が言った言葉に、沙希が驚いた表情を見せる。
「え、な、何…詳しいの…? 夢の話…」
 沙希は目を大きく見開き、美紀に問いかける。

 稔は足を止め、ユックリと振り返ると
「出来れば、僕は食事を採りたい…その間だけで良いなら、時間を作るよ…」
 美紀に向かって答えた。
 美紀はパッと明るい表情になり
「お願いします…じゃぁ、私もお弁当持ってきますね」
 そう言って踵を返して、机に向かった。

 沙希はジッと稔を見詰め、プイッと顔を振ると、自分の机に行き弁当を持って、後を追い掛けた。
「待って…私も聞く…、変な事言ったら、只じゃおかないからね…」
 沙希はそう言って、稔の後ろを付いて行った。
 稔は沙希の言葉をまるで無視し、スタスタと食堂に向かって歩く。
 美紀は小声で沙希に
「お願いだから…柳井君を怒らせないでね…私スッゴク、真剣な話なの…」
 耳打ちして釘を刺す。

 実際は沙希も美紀同様、専門的な話を聞きたかったのだが、相手が稔とあって、強い警戒心を持っていた。
 そう、沙希の警戒心も、一切理由が分からない類の物で、どうして自分が其処まで嫌うのか理解出来無かった。
 沙希は強い嫌悪感を抱きながら、稔達に同行した。
 食堂に入った美紀と沙希は生徒でごった返す、状態を見て溜息を吐いた。
「これじゃ、何処に座れって言うのよ…無理じゃん…」
 沙希が呟くと、稔はそのまま、列に並ぶ事無く食堂の受け取り口に行き、食事を受け取ると両手にトレイを持って奥に進む。

 食堂の奥にはパーテーションで区切られた、[特別奨学生席]と書かれたブースが有った。
 中に入ると一般性徒用の食堂の20人分程のスペースに、ゆったりと配置された10席が有った。
「ここを使うのは、僕と工藤だけだから、好きな所に座って…」
 そう言うと、稔は真ん中の席に座り、手に持ったトレーをテーブルに置いた。
 トレーの上の物を見て、美紀と沙希が驚く。
 稔が昼食として持ってきた物は、ラーメン・チャーハン・カツ丼・サラダ全て大盛りだった。

 稔は箸を割ると、本を片手に持って
「良いよ…質問して…」
 そう言って黙々と食べ始める。
 美紀と沙希は、その姿を呆然と眺める。
 見る見る、その食料が無く成り、美紀が我に返ると
「あ、あの…すみません…人って自分の経験した事が無い事って、夢に見るんですか?」
 美紀は思いきって、質問をした。

「ああ、有るよ…」
 稔がカツ丼を頬張りながら、本を読みつつ端的に答える。
 稔の答えに、驚きながら美紀が質問しようとすると
「あのさーどうでも良いけど、相談に乗るつもり有るの…何なのその態度!」
 沙希が稔の態度を、批難する。
 稔は、沙希の言葉をまるで無視し、黙々と本を読みながら、食事を進める。

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