夢魔
MIN:作

■ 第1章 淫夢12

 決心が付かぬまま6時限目の授業が終わると、沙希が荷物をまとめて美紀の元へやってくる。
「さあ、美紀行こう…」
 そう言って差し出される、親友の手を美紀は怖ず怖ずと握る。
 二人は揃って教室を後にすると、職員室へ向かう。
 職員室に入ると沙希は、小室を捜すがどうやら居ないようだった。
 隣の席の数学教師に沙希が尋ねると
「この時間帯、小室先生は準備室じゃないかな…科学部の顧問だから。そっち探してみて…」
 微笑みながら、沙希に答える。
 沙希は数学教師に礼を言うと、テニス部の顧問の英語教師に[相談事で部活に遅れる]と話して、美紀の元に戻ってくる。

 美紀と沙希は職員室を出ると、準備室に向かう。
 廊下を進むにつれて、美紀の足取りが重くなる。
(だめ…ここから先は…あそこを通る…あそこを通るのは…駄目!)
 美紀は踵を返して、逃げようとするが沙希が一瞬早く、美紀の腕を掴む
「ど、どうしたの美紀…急に逃げ出すなんて…」
 沙希は驚いた表情で、美紀に問いかける。
 美紀は廊下の進行方向を指さすと
「あ、あそこを…通りたくないの…」
 10m程先の消火栓を指し示す。

 沙希は頷くと
「じゃぁ…道を変えましょ…」
 そう言って来た道を戻り、別の階段を使って上に行き、3階の廊下を進む。
 そして、3階の廊下のトイレの前を通った時、沙希の足が止まった。
(こ、ここ…私の…小屋…私が…待機する場所…一番奥の…個室が…私の小屋…入って準備しなきゃ…)
 沙希の足が、フラフラと数少ない、男子便所に進み始める。
 その異変を美紀が気づき、沙希の腕を掴むと
「沙希ちゃん! 駄目」
 強く引き寄せ、耳元に鋭く囁いた。
 沙希はハッと我に返り、青ざめた表情を浮かべる。

(さ、沙希ちゃんも…妄想が出始めてる…大変だわ…どうしよう…)
 美紀は青ざめる沙希の顔を見詰め、焦りを感じ始めた。
 美紀は沙希の腕を掴み、トイレの前を駆け足で抜けて行く。
 二人は自分の身体が、おかしく成っている事を、お互いに理解する。
 そして、二人は寄り添うように廊下を歩き始めると、今度は美紀の様子がおかしく成って来た。
(あ、ああ…この廊下…いつも通る…大切な方へ会いに行く道…いやだ、もう濡れて来ちゃった…あ〜…リードを…)
 それを見つけた沙希が、慌てて美紀を捕まえる。

「美紀! 美紀! 大丈夫? ここの道も駄目?」
 沙希が美紀に問いかけると、美紀は首を振り
「準備室が…駄目…みたい…」
 強ばった表情で、震える。
「分かったわ…先生は私が呼んでくる。美紀はここで待ってて…」
 沙希は強い視線で、美紀に言うと、美紀もそれに頷いた。
 暫くして、準備室から小室と沙希が現れ、美紀の元にやって来る。

 美紀と沙希は小室に向かい、いくつかの質問を始めると
「はぁ〜ん…夢か〜…。先生は専門外だから、ハッキリとは言えないけど、彼なら解ると思うよ…」
 直ぐに降参して、頭を掻きながらその名前を告げる。
「君達と同じクラスの柳井君…彼は心理学から脳生理学まで学んだ、スペシャリストだ…博士号も幾つか取ってるよ…。ここだけの話、彼はこの学校に来る必要なんか全く無いんだ。だって、彼はアメリカの学校をスキップして卒業してるんだから…」
 小室の話を聞いて、目が点になる二人。
 そして、小室にその稔が不在だと言う話をすると
「あ〜…多分どこかの、学校に呼ばれたんだろう…彼、良く時間単位で居なく成るけど、殆どどこかの学校の講師をしてるんだ。勿論学校って言っても、高校なんかじゃないよ…」
 そう言って肩を竦め、準備室に戻っていった。

 小室の言葉を聞いて、愕然とする二人。
(えっ…え〜っ…どうしよう…じゃぁ…彼の言った事は、事実で…それ以上詳しい人は、居ないって言う事…)
(う、うそ…そんな…私、あいつに酷い態度ばっかり…どうしよう…こんなんじゃ…助けて貰えない…)
 二人は廊下の片隅で、肩を落とし溜息を吐く。
 そして、お互い顔を見合わせると、同じ事を考えていた事に気づき、頷き合う。
「美紀…二人で柳井を落とすわよ…これは、是が非でも、親身に成って貰わなくちゃ、いけないんだから…」
「う、うん…でもどうするの? 柳井君を落とすって…色仕掛け?」
 美紀は頬を染めながら、沙希に問いかける。

 沙希も顔を赤く染め、頷くと
「それが必要なら、何でも使うわ…このままじゃ…おかしく成っちゃうから…」
 美紀の瞳を見詰め、そう呟く。
「じゃぁ…沙希はまず柳井君に謝らなきゃね…彼、相当怒ってたわ…」
 美紀が言うと
「う、うん解ってる…土下座でも何でもするわ…。あの夢から抜け出す為には…」
 沙希は固い決心を、美紀に告げた。
 こうして、二人は仲良く、罠に向かって、自ら飛び込んで行く。

 そして、残りの5人目の犠牲者森下美香(もりした みか)は、淫夢に侵されるも、未だその発露が少なかった。
 これは本人の意志の強さの表れと、経験の無さから来る物で、男達の不快感を煽った。
「何とかこいつを切り崩す、方法は無いものですかね…」
 白衣の男がモニターを見詰め、呟くと
「全然駄目だね…歯が立たない…こいつ、性欲無いのかよ…」
 もう一人がキーボードから手を放し、頭の後ろで手を組む。
「そうなのかも…、もっと具体的な行動で、性を意識させるべきか…」
 白衣の男は顎に手を持って行き、思案を始めた。

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