夢魔
MIN:作

■ 第4章 主人2

 弥生はその笑顔にドキリと、胸を高鳴らせた。
(えっ…と言う事は、この人はご主人様の嗜好の理解者…? ううん、それだけじゃない…私この人にも仕えるんだわ…)
 弥生は真の顔を、マジマジと見詰め、頬を赤く染める。
「まぁ、ここで話をしていても理解しにくいでしょうから、柳井君を交えましょう。彼は今貴女の家ですか?」
 真は笑顔の形の目の奥から、鋭い視線を弥生に向け、温厚な物言いとは裏腹に、逆らえない威圧感を含ませ弥生に告げた。
「は、はい…そうです…」
 弥生はその場に、膝から崩れ落ち平伏して、真に答えた。
 弥生の身体が、真の事を新しい主人と認めたのだった。
 真は踵を返すと
「早退の準備をしなさい。柳井君の所へ行きますよ」
 そう言って保健室の扉を開けて、出て行った。
 弥生は直ぐに立ち上がり、荷物をまとめ身なりを整えると、真の後を追い掛ける。

 教頭に早退の許可を求めると、[またか]というような表情で
「この学校も決してゆとりが有る訳じゃありません…いつも居ない養護員を雇う余裕なんか、無いんですがね…」
 嫌味を言われ、弥生は小さくなり頭を下げる。
 この教頭は事ある毎に、毒のある言葉で人に叱責するのを、趣味としているような人間で、皆の嫌われ者だった。
 淫夢に侵されるように成ってからの弥生は、この教頭の良いターゲットになり、ネチネチと虐められていた。
「まあ、貴女のような方でしたら、どんな仕事でも出来るでしょうから、学校の養護員の仕事なんて、どうでも良いんでしょうがね…。呉々も言って置きますが、次の職場でこの学校の名前は出さないで下さい、評判が落ちると困りますんでね…」
 教頭は睨め上げるような視線で、弥生の全身を見ると下卑た笑い顔を浮かべる。
 弥生は俯いて、教頭の言葉に耐えながら、頭を下げて机の前を離れていった。
 職員室を出ると、弥生は悔し涙を浮かべ、職員用出入り口に向かう。

 職員用出入り口に着くと、真が既に帰り支度を整え、待っていた。
「お、遅くなりました…申し訳ございません…」
 弥生が涙を拭いて、深々と頭を下げると
「どうせ、教頭にネチネチやられたんでしょ…構いませんよ…」
 真は優しい声で、弥生を許した。
「あぁ…有り難う御座います…」
 弥生は真に再び頭を下げて、感謝した。
「それより、こんな所でそう言う態度を取ると、宜しく有りませんから、先に行って校門で待っていなさい」
 真は弥生の腰に手を当て、送り出すように促した。
「はい、解りました。それでは、お待ち致します」
 弥生はそう言って頭を、ペコリと下げ出入り口を出て行った。

 真は携帯を取りだしダイヤルする。
「もしもし、私ですが…少し計画より早く、私も参加します。どうにも、君のやり方は酷すぎるから…」
『そうですか…実は、僕も真さんには早く参加して欲しかったんです。僕たちの中では…一番まともですからね…』
 電話の相手は稔だった、真の電話を稔はリビングで取っていた。
「それなら話は早い、今からそちらに弥生と向かうから、調教のバランスを取りましょう」
『そうですか、解りました…それと、今もう一人居るんですが、どうします?』
「構わないよ、多分その人も見ておいた方が良いだろうし…」
『解りました…。でわ、お待ちしています』
 短い会話のやりとりで、携帯を切ると真は校門に向かって歩き始めた。

 源真はサディストでは無い、嗜好的には至ってノーマルだが、彼の持つ特殊な技術によって稔の仲間に加わっている。
 真は今ではその伝承が、途絶えられたと言われる、真言密教立川流を継承する一族の長子であった。
 真言密教立川流の教義は、性行により涅槃に達すると言う事を第一義にしているため、その技術には凄まじい物がある。
 そして、真はその長子であるが故、その技術を受け継いだが、容貌が余りにも醜悪なため、中々使える場面に成らない。
 真は本尊を作り上げる、最良の伴侶を求める目的で、稔達の性技の師範兼オブザーバーに成った。
 そう、真を敬愛する心を持ち、理趣経を解する明晰な頭脳を持ち、一族の長の伴侶としての美貌を持ち合わせ、尚かつ真の相手が務まらなくては成らない、この条件に見合う伴侶を手に入れるため、禁を破って野に出てきたのだった。

 真は前庭を横切り、校門に向かう。
 校門を曲がると、そこには弥生が佇んで、真を待っていた。
「では、案内して下さい…」
 真が弥生に声を掛けると
「はい」
 頬を赤く染め、小さく頷いて返事をする。
 弥生は真の少し前を歩きながら、小さな声で囁き、真を誘導する。
 真は弥生の後ろ姿を、見ながらその言葉に従って、進んでいった。
 5分程で弥生の家の門が見え。
「あそこに成ります…」
 弥生が真に説明する。
 真は一つ小さく頷き、その門をくぐった。

 玄関を通り居間を抜けリビングに入ると、稔はソファーに座り目の前で、ディルドーオナニーをする梓に、鞭を振るっている。
 梓は頭の後ろで手を組み、[ブーブー]と鳴きながら、腰を振り鞭を受ける。
 稔は真達の来訪に気づくと、軽く挨拶をする。
「おやおや…少し追い込み過ぎじゃないですか…」
 真は梓の身体に残る、鞭の痕を見て稔を諫めた。
「そうですか? ですが、この牝豚は悦んでますよ…」
 稔は真に報告すると
「うーん…良く見極めが必要ですが、最初から牝豚扱いは…道を狭めすぎですよ」
 真が難色を示す。
「そんなもんですか…」
 稔が考え込むと
「そんなもんです…。もっと、良く見定めなければ、何に使えるか解りませんよ」
 真が稔にそう告げる。
 何ともほのぼのとした口調で話す二人だが、話される内容は、完全に梓を人扱いしていない。

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