夢魔
MIN:作

■ 第4章 主人11

 稔は沙希の舌を持って、廊下を進んでいたが、不自然な姿勢のため沙希がバランスを崩し立ち止まる。
 沙希の制服の前面は、舌を出したままでいたため、滴った涎が汚していた。
 特にその豊満な乳房の辺りは、涎を受け止めベトベトに濡れている。
 稔がそんな沙希を見詰めていると、背後の部屋の扉が開き、一人の男子生徒が現れる。
 男子生徒は160pぐらいで50s有るか無いかの、小柄な少年だった。
 その男子生徒は小走りに、稔に駆け寄ってくる。
 チョコチョコと駆け寄る姿は、どこか小動物を思わせる。
 少年は廊下に佇む稔に近寄ると
「稔君…こんなの良くない…もう止めようよ…」
 顔を曇らせながら、稔に抗議する。
 稔は少年を見詰めながら右手を放し、涎で汚れた手を、沙希の顔に擦りつけ拭った。
「わぶぶ…はっ…ん…くぅっ」
 顔全体を稔に蹂躙されるも、後ろ手に自ら手を組んでいるため、その手を払う事も出来ない沙希は、小さく首を振る。
 しかし、稔が振り向きもせず[動くな]と静かに命令すると、沙希は固く眼を閉じ、顔も動かさなくなった。

「純。それが言える段階じゃないのは、良く知ってるだろ…君のその性格は、何とか成らないか?」
 稔がうんざりした表情で、少年に切り返した。
 少年はシュンと項垂れると小声で
「解ってるよ…でも…」
 呟き、稔の顔を正面から見詰める。
 しかし、稔の瞳が冷たい色に染まっているのに気が付くと、口ごもる。
 少年の名前は、工藤純(くどう じゅん)絶対音感の持ち主で、あらゆる楽器を弾きこなし、音の性質や機能の知識も豊富な音のスペシャリストだが、162p49sの細身の身体は華奢という形容詞がぴったりで性格は極めて内向的な小心者で、愛らしい仕草や幼さの残る整った容貌から、女性徒にはペットのように扱われている。
 純は顔を上げ稔の肩越しに、罪悪感を湛えた表情で、沙希を見詰める。
 稔が次の言葉を掛けようと口を開いた時、純の顔がカクンと項垂れ、ブツブツと呟き始めそれが始まった。

 項垂れた格好のまま、ピクリ、ピクリと身体を痙攣させる。
「い、嫌だよ…もう、こんな事…」
「何言ってるんだ…お前も楽しんでたじゃないかよ…」
「そ、そんな事無い…僕はこんな事したくないんだ…」
「けっ、…お前と俺は一心同体だ、何を言っても誤魔化せないって、好い加減気づけよ」
「う、うるさい! もう出て来ないで…お兄ちゃん」
「お前が引っ込めよ。俺がこの身体を、上手く使ってやるからよ…」
 そう言って、顔を上げた純は、全く別人のように変化していた。
 大きく黒目がちな瞳は、酷薄に吊り上がり、小さな愛らしい唇は、三日月のように切れ長の笑みを浮かべている。
 稔が純を見詰め
「おはよう…狂(きょう)。でも、余り出過ぎた真似は、勘弁してくださいね…」
 純に向かって、別の名前で呼びかけた。
「けっ…人間でもないお前に、言われたかねえよ…。気持ち悪い…」
 純が稔に対して、不快感を顕わにしながら、侮蔑の表情を浮かべる。
「それを、今言いますか…まだ彼女は、仲間でも何でもないんですよ…」
 稔の顔から、一切の表情が消え純を見詰める。

「構わねえだろ…この、女に俺達の言葉が理解できるとも思わねえし…」
 稔と純の会話は、人相が変わった時点で英語に変わり、沙希には全く理解できなかった。
 稔が沙希に向かって、ユックリ振り返ると大きく溜息を一つ吐き。
「狂と会ってしまったら、もう僕にはどうしようも出来ません…」
 静かに沙希に向かって、日本語で語りかけ、首を振りもう一度溜息を吐いた。
 沙希は稔の心理誘導から覚め、後ずさりながら稔達に言った。
「な、何言ってるの…工藤君の下の名前が、純って言うのは知ってるわよ。誰よキョウって…」
 強がりながら、沙希が言う。
「純の双子の兄ですよ…。心の中に居る…ね…」
 稔がそう言うと、狂が沙希に向かって
「ところでよ…お前、そこに居て大丈夫なのかよ?」
 薄笑いを浮かべ、沙希に向かい顎をしゃくる。
 沙希がその言葉に、自分のいる場所をマジマジと見詰める。
 沙希がいる場所は、3階の男子トイレの前だった。
 場所を認識した瞬間、沙希の心の中に、甘い陶酔が拡がり始める。
 沙希の浸食が、驚きと恐怖で揺れた心を、一瞬で満たした。
(や、やだぁ〜…こ、ここは駄目〜っ…)
 沙希が自分の目を閉じ、腕を掴んでしゃがみ込もうとするが、その動きは途中で止まり、ビデオの逆回転のように、姿勢を戻すと、瞼を開いた。

 しかし、開いた瞼は途中で止まり、瞳に力は無くなって居た。
「稔…言っただろ。もう充分だって…さあ、こいつも仲間に入れようぜ…」
 そう言って狂が、沙希の肩を軽くトイレに向かって押すと、沙希はフラフラとトイレに向かって歩き始める。
 稔は狂の後に続いて、トイレに入って行くと清掃中の看板を、入り口に立てかける。
 この時間帯は、男子生徒は殆ど居ないが、念のための予防策だった。
 沙希はフラフラと一番奥の個室に入り、自分の身に着けている制服と下着を無造作に脱ぎ捨て、全裸になり、便座に座って、足を抱え込んで開く。
 トイレの床には、沙希の脱ぎ捨てた制服と下着が、無造作に散らばり、便座には小麦色に焼けた顔や手足と、艶めかしい地肌の白さのコントラストを持つ身体を、奥まで晒して陶然としていた。
 狂はそんな沙希の身体を見詰め、稔に対して
「俺がこいつを、現実に戻してやるよ…お前の専売特許だけど、こいつだったら俺にも出来るぜ…だってこいつドMだし…」
 言い切った。
「何を理由に言い切るか解らないけど、狂がそう言うならやってみて下さい…もし駄目だったら、僕の領域に二度と踏み入らないで欲しい…」
 稔は狂にそう言うと、一歩後退して、壁にもたれ掛かった。

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