夢魔
MIN:作

■ 第5章 浸食(沙希)3

 稔は薬物で脳の活動を人の3倍強まで高められた副作用として、基本代謝もそれ以上に必要としていた。
 それ故、人の3倍以上の食料を常に、必要としている。
 これらの条件が満たされない場合、稔は人の3倍以上のフラストレーションを脳が感じる事になる。
 この状態の時の稔は、極限の飢餓状態に陥り、まともな思考が出来なく成る。
 俗に言う[飢えた野獣]に変わり、サディスティックさも度を超してしまう。
 この状態の稔は、もう誰の手にも負えなくなり、狂や庵も被害に遭うのである。
 いわゆる、不機嫌な王様状態である。
 人の感情を理解しないサディスト程、手に負えない物はなく、しかもその対象にも見境が無くなってしまうので有る。
 狂は稔とは幼少期の頃から、面識があり何度もこの状態を目の当たりにし、それを[暴走]と呼んでいた。
 狂と庵が注意深く、沙希を追い立てる稔の事を見詰めてその状態を、見極めようとする。
(まだ、大丈夫のようだけど…暴走したら、洒落にならないからな…最悪庵に押さえ込ませて、俺が食い物を買って来るか…)
 狂がそう考えていると、庵も同じ考えのようで、狂を見詰めて頷いた。
 稔はカメラを構えたまま、沙希を乗馬鞭で追い立て、進んでゆく。
 その沙希に残された、鞭の痕を見て狂が、胸をなで下ろす。
(み、稔…まだ、加減してるぞ…ってことは、暴走には入ってない…ここは、打ち切ってでも、何とかした方が良いな…)
 狂は稔の状態を見て、素早く判断し庵に目配せをする。
 庵も狂の考えに気付き、大きく頷いて稔に、注進する。

「あ、あの…稔さん…先に食事にしませんか…その後、ユックリ調教する方が、効率的ですよ…」
 庵がそう言うと、狂が言葉を繋げる。
「お、俺もそう思うぜ…稔は腹が減ると、とんでも無い事するし…な、な、そうしようぜ…」
 狂はやや掠れた声で、稔に進言する。
 狂と庵の声に、稔がユックリと二人の顔を見詰め
「その行動を優先させる、メリットは…」
 ポツリと稔が呟く。
 途端に狂と庵の顔が引きつるが、長年の付き合いの狂が、薄笑いを浮かべながら
「いや…俺も腹が減ったし、沙希を露出させてファミレスで飯を食わせるのも…一興かな〜…なんて思ってさ…」
 稔に進言した。
 稔は暫く考え、携帯を取り出すと、ダイヤルして相手を待つ。
 すると相手は数秒で、電話口に出た。
『もしもし、稔君…どうしたのさっきの電話から、五分経ってないけど…』
 電話の相手は、真だった。
 稔は真に向かい、今決まった事を淡々と話し始める。
「いえ、先にファミレスで食事を取って、調教しようという事に成りまして…済みませんが、弥生に合う衣装を着せて、沙希の服も見繕ってください、多分Bのボックスに露出用の服が入っていた筈です。それを弥生に着せて沙希の分も持ってきて下さい。郊外の店に行きたいので、車も用意して下さいね…今から10分で校門まで行きます。合流しましょう」
 言葉尻は丁寧だが、完全に命令口調で一方的に話し、携帯電話を切って狂を見詰める。
「聞こえた? そうなったから…」
 稔は端的に、狂に伝えた。

(だめだ…もう、出かかってる…そもそも俺は、稔が昼飯抜いてるなんて聞いてないぞ…)
 狂は青ざめながら沙希を立たせ、庵に目配せをすると、庵は急いで校門の方に走って行った。
 沙希は自分の周りで、何が起きているのかすら解らず、狂に促されるまま立ち上がり、庵の後を追っていった。
 稔は一人取り残されながら、憮然とした表情でユックリと、校門に向かって歩いて行く。
 稔の腹が大きく空腹を訴える音を立てた、狂はその音を自分の寿命が縮む思いで聞いていた。
(やばい! 腹の虫が鳴った…無理かも知れん…このまま、逃げるか…だけど、庵一人に背負わせるのもな…それに、こいつら間違えなく壊される…それも、契約的にきついな…)
 狂は徐々に意識が覚醒しだした沙希に目を向け、手を掴んで引っ張っていく。
(な、なに…何処に行くの…この方向だと、校門…外に行くつもりなの…)
 沙希は狂に手を引かれながら、展開の変化について行けず、オロオロと従うだけに成っていた。
 校舎の角を曲がると、目の前に前庭が拡がり、その突き当たりに小さく校門が見えた。
 その校門の少し奥は、もう道路で車が行き来している。
 沙希は途端に冷静になり、狂に捕まれた手を振り払うと、乳房と股間を隠し踞った。
 狂はそんな沙希の態度に、苛立ちを覚えながらも
「早くしないと、とんでもない目に合うぜ…。稔が暴走すると誰も、手が付けられない…」
 沙希に口早に説明する。
 沙希は二人の慌て振りを思い出し、ブルリと震え立ち上がった。
 その時校門を曲がり、1台の黒いワンボックスが狂達に向かい走り込んで来る。

「さあ、早く乗って…沙希は中に服が有るから、直ぐに着るんだ」
 運転席には庵が乗り込み、窓を開けて狂達に声を掛けた。
 庵は派手な柄のシャツに、サングラスをしていて、どこかチンピラのような格好をしていた。
 狂は沙希を押すように、車まで小走りに急いで助手席に乗り込む。
 そして、車に乗り込んだ沙希が、後部座席に座っている男を確認して、声を上げる。
「み、源先生…。どういう事…」
 真も派手なダブルのスーツに身を固め、髪の毛をオールバックに固めて、ヤクザの幹部のような格好だった。
 後部のスライドドアに身体を半分突っ込んで、沙希が動きを固めて呟いた。
「ああぁ…前田さん…その格好は…貴女も奴隷に成ったのね…」
 口を両手で押さえ、驚きを隠せない弥生が声を漏らす。
「えっ! その声…上郷先生ですか…。どうしたんですか…、その顔…」
 弥生はメガネを外してコンタクトにして、濃い化粧とアップにした髪で雰囲気を変え、一目では本人と分からないように、変装していた。
「良いから、早く服を着ろ…もうそんなに、時間がない…」
 狂は切羽詰まった声で、沙希に命令すると、真が洋服を差し出し
「これがそうだ…早く来て下さい。私も、あんな目に合うのは、二度とゴメンですから…」
 珍しく笑顔が消えた表情で、沙希を促せる。
 沙希は何が何だか、全く解らなかったが、この怪人達の切羽詰まった表情を見て、ただ事では無いと感じ急いで服を身に纏った。
 しかし、それは服と呼ぶには余りにも、布が少なかった。

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