夢魔
MIN:作

■ 第5章 浸食(沙希)4

 真っ赤なマイクロミニのボディコンをベースに、その殆どがシースルーに成っていて、肌を露出させている。
 弥生も同じような黒のボディコンを着て、一番後ろの席に座っていた。
「さぁ、私と場所を変わって下さい…君も化粧をしないと、流石に身元がバレるのは避けたいでしょ…」
 そう言って真が、席を替わり始める。
 一番後ろに追いやられた沙希に、弥生が化粧を施し始める。
 真が真ん中の座席に落ち着いた時、校舎を曲がって稔が姿を現した。
 稔は車を見つけると、小走りに走り出し、後部座席に乗り込んだ。
「お待たせしたね…行こうか…」
 稔の口調と声の質が、明らかに変わっていた。
 3人の男達は、顔を思い切り引きつらせた。
 庵は急いで車を方向変換させ、校門から車道に滑り出していった
 張りつめたような空気が、車内に流れ稔がうつらうつらと船を漕ぎ始めると、狂の表情が青くなり
「み、稔…だ、大丈夫か…お〜い…起きてるか…」
 やや裏返った声で、稔に話しかける。
 だが、稔はその声を無視し、頭を2・3度振って、顔を上げる。
 狂はホッと胸を撫で下ろしながら、稔に話しかける。
「早くつかね〜かな…後、何分ぐらいかな…あ〜腹減った…なぁ、稔…」
 掠れた声で、稔に同意を求めた時、稔の身体が後部座席から離れ、助手席の後ろにもたれ掛かると、手を狂の首に掛
「うるさい…しずかにしろ…」
 低く響く声で囁きながら、狂の首を握り込んだ。

 狂の顔は一瞬で真っ赤に充血し、首がメキッと嫌な音を立て、喉からは呼吸も漏れなくなっていた。
 真が慌ててその動きを止め、稔をなだめようとすると、表情のない虚ろな顔が、真に向けられる。
 稔の手が狂の首から離れ、身体の横に戻った時、車が大きくカーブして停車した。
「着きました! 稔さん食事です!」
 庵がエンジンを止めて、稔に叫んだ。
 稔の手が真に伸びかけた所でピタリと止まり、身体を反転して扉を開く。
 狂はいち早く助手席を飛び出し、店の中に消え庵も運転席から降りて行った。
 車の中に取り残された形の、真と弥生と沙希は固まったまま、動けないで居た。
 そんな中、真が大きな溜息と共に、体中の力を抜いた。
「ふぅ〜…危なかった…。2人共充分に気をつけて下さい…稔君がお腹を空かせたら、とんでも無い事になりますから…」
 弥生と沙希は散々真や庵の事を、注意しろと言っていた稔が、実は一番注意しなければ成らない人間だと知った。
「さぁ、早く仕上げをしないと、みんな待ってますよ…そこのカツラは温情です…」
 そう言って真は、弥生を急かし、沙希の化粧を仕上げさせた。
 真は車を動かして、人目に付かない場所に駐車する。
 沙希は安酒場のホステスのような、濃い化粧に茶髪のカツラを被り、車から出た。
(ハイヒールって初めて履いたけど…歩きにくい…。それに、顔がなんか変だわ…何か突っ張る感じがする…)
 沙希は慣れないハイヒールで、フラフラと歩きながら、バランスを崩し掛て、ファミレスのマジックミラーになった窓ガラスに、片手を着いた。
 そこで、ガラスに映った自分の全身像を、初めてマジマジと見詰めた。

 沙希のボディコンの前面は、2匹の白鳥が顔を付き合わせるような形で、そこの部分が布に成っており、へその下辺りで合わさってかろうじて股間を隠している。
 背面は、肩甲骨の付け根が見えるほど開き、スカートには両サイドにスリット迄入っていて、後は全てメッシュ素材で出来ていた。
 白鳥の目に当たる部分に、丁度乳首が来ていて、外からクッキリとその存在を確認できる。
 そんな扇情的な姿に、喉には緑色の首輪が嵌められ、乳首の鈴は外された物の、クリトリスの鈴は着いたままで、時折涼やかな音を立てた。
(な、何この服…これじゃ、裸の方がマシだわ…。それに、この顔…こんなの…私じゃない…)
 鏡に映った沙希の顔は、緩やかなウエーブの掛かった、茶色のセミロングのカツラの下で、真っ赤なルージュを引いた、厚化粧の商売女のようなバタ臭い顔になっていた。
 目をこらして、窓に映る自分の姿を見詰める沙希が、うっすらと見える店内の様子に気が付いた。
 窓際に座っていた、20代のサラリーマン風の2人が、食い入るように沙希の覗き込んだ姿勢の胸元を見ていたのだ。
 2人は興奮に目を輝かせ、沙希の豊満な乳房とその谷間を凝視している。
 そしてその2人の視線は、沙希の背後に向いて、大きく口を開けた。

 沙希の背後から、手の形の布に、大事な部分だけ守られた、弥生が現れたのだった。
 弥生のボディコンの前面は、右の乳房の上を通った腕が、左の乳房の上で手を広げ、左の腰骨から下がった手が股間で手を広げる。
 背面はその2本の腕が背中の真ん中で、一つに成っているだけで後は何も無い、全てシースルーだった。
 下着を着けていない弥生の身体が、殆ど晒されている。
 その蠱惑的な身体をくねらせながら、沙希が弥生の背後に近寄り、耳の中に何かを差し込む。
 沙希は驚きながら、首を窄めて耳に手を当て、入れられた物を確認しようとすると
『そのままにしろ…触らずに小声で話してみろ…』
 沙希は突然耳元で聞こえた、庵の声に驚く。
「な、なに…今の垣内君…」
 沙希がそう呟くと
『そうだ…で、今度は俺…聞こえるだろ…』
 狂の声が耳の中に響く。
『これは、骨伝導のイヤホンマイク…アメリカの某テレビドラマで有名に成りましたが、普通に拡がってる技術です…』
 次は真の声が、耳に響いた。
『真先生。中に入ったら、俺の所まで来て下さい…店のど真ん中で、周りから一番よく見える席を用意しました…』
 庵が真にそう言って、場所を説明した。

 真は弥生と沙希を両脇に従えて、悠々と店の入り口に向かって、歩き始める。
 2人の奴隷は、真に引かれるままユックリと、歩き始める。
 扉を開いて、中に入った3人を店中の人間が見詰める。
 その視線は、興奮と侮蔑の2種類に染められた。
 男性客の向ける、興奮の視線に沙希が俯き、女性客の向ける、侮蔑の視線に弥生が唇を噛む。
『もっと、堂々として下さい…。そんなに、萎縮していてはこの後、耐えられませんよ…』
 稔の落ち着いた声が、イヤホンマイクから流れた。
 驚いて、そちらに視線を向けた3人は、テーブル一杯に並べられた料理を、次から次に平らげている稔を見つけた。
 稔は落ち着いた表情を浮かべ、黙々と食事を取り3人を見詰め、顎を引いて頷いた。
 その前では、仏頂面を浮かべて狂が、稔の頼んだ食事を少しずつ、食べている。

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