夢魔
MIN:作

■ 第5章 浸食(沙希)6

 その行動の一部始終を、正面で見詰めていた沙希は
(い、いや…私もあんな事、させられるの…いや、出来ない…無理よ…)
 右手で左肩を抱き、青ざめた表情でブルブルと震えていた。
「何を食べるんだ…早く決めなさい…」
 真が沙希に向かって、メニューを差し出すと、沙希はハッとした表情で、メニューに視線を落とす。
(こ、こんな状況で…食事なんて出来ない…でも、頼まないと因縁を付けられそうだし…)
 沙希はオドオドとした表情で、メニューと真と庵をチラチラと見比べる。
 沙希の余りの態度の不自然さに、周りの客の視線が集まり始める。
『いい加減にしろ、そんなに注目されたいのか…周りを見てみろ、お前の態度が可笑しいせいで、みんな見てるぞ』
 庵が低い声で、囁いた。
 ビクリと震えて、頭を上げて周りを確認する沙希。
 庵の言うとおり、周りの視線が一斉に沙希に注がれていた。
 沙希は両肩を抱きかかえ、身体を縮め踞った。
『沙希。命令に従わなかったな…。庵3番の糸を外せ…、真さん、あのクスリを飲ませてやって』
 沙希は狂の言葉に驚き、真と庵の顔を見比べる。

 真はあきらめ顔で溜息を吐くと、ポケットから赤と白の錠剤を2粒取り出して、沙希に手渡す。
 沙希は真の顔とクスリを見比べ、不安な表情を浮かべる。
 真はユックリ首を左右に振って
「飲みなさい…でないと、更に酷い目に合うよ…」
 小声で沙希に忠告をする。
 沙希が震えながら、錠剤に目を落とし、一気に口の中に入れ飲み込む。
 すると、スルスルと庵の手が、沙希の背中に伸びて行き、右の肩口の辺りを摘むと勢いよく、元に戻った。
 沙希は何かが左の肩口から背中を下がり、腰の辺りまで来ると、同じように上にあがって行く微細な感覚に驚く。
 その虫が這ったような、感触に沙希は思わず[キャッ]と小さな悲鳴を上げた。
 身を捻った瞬間、沙希の背中のシースルーの生地がハラリとめくれ、床に落ちて行った。
 沙希は何が起きたのか、全く理解できて居ない。
 床に落ちた真っ赤なシースルーの生地を見詰め、恐る恐る自分の背中に手を伸ばす。
(な、無い…この布は…背中の生地…どうして…これじゃ、背中が剥き出しだわ…)
 沙希は恐怖に引きつった顔で、庵を見詰めた。

『その服にはよ、5本の隠し糸があって、それを抜くと今みたいに、生地が外れるように成ってんのさ。5本全部抜いたら、素っ裸になるぜ』
 狂が含み笑いを混ぜたような声で、沙希に説明をする。
 沙希が泣きそうな顔で俯くと
『落ちた布を拾うんだ…。そうだな、俺達の方に身体を向け、足を肩幅に開いてしゃがみ込め…、膝なんか閉じてたらもう一つ外させるぜ…』
 狂のあざ笑うような声が、沙希に命令を下す。
 沙希は弾かれたように、顔を上げ後ろを振り向こうとするが
『こっちを向くな!』
 狂の鋭い制止を受け、動きを止める。
 沙希は中途半端に振り返った状態で、嫌々と首を左右に力無く振る。
『そんな事してると、もっと注目を浴びるだろうが…早くしろよ露出魔さん…へへへっ』
 狂の声は嬲るように囃し立て、沙希の羞恥を煽る。
 沙希は諦めると、言われた通り椅子から立ち上がり、稔達の席に向かって足を肩幅に開いて立った。
 沙希の身体の正面には、稔達を除いても、4組の客が居りその内の2組は男性客で、1組は家族連れで、もう1組は中年のおばさん達だった。
 4組の視線が一挙に、沙希に注がれる。
 沙希は俯きながら、命令された通り腰を落としてしゃがみ込んで、膝を開いた。
 男性客の[おおすげ〜]と言うどよめき、女性客の[まぁ〜、破廉恥]と言う侮蔑の言葉。
 しかし、沙希の心を砕いたのは、家族連れの[ママ〜あの人パンツ履いてないよ〜]と無邪気に大きな声で問い掛ける子供の声と、その後の[駄目よ…あんなの見ちゃ! あの人は頭が変なのよ。パパも見ちゃ駄目でしょ!]と言う母親の叱責だった。

 下唇を噛み、震えながら布を拾い上げようとすると
『顔を上げて、家族連れに微笑みかけろよ…。出来なかったら失敗に成るぜ…失敗は不服従と同じだぜ』
 狂の声が更に過酷な命令を出し、沙希を追いつめる。
(う、ううっ〜…酷い…酷い酷い…。でも…やらなきゃ…命令を守らなきゃ…)
 沙希は顔を上げ、家族連れに顔を向けると、ニッコリと引きつった笑みを浮かべ、立ち上がった。
『ケッまぁ、そんなもんか…。布は庵に渡せ…』
 狂がそう言うと、肩を振るわせながら、布を庵に手渡し俯いた。
『念のために言っとくけど、泣いたりしたら化粧が崩れるぜ…素顔を晒したいなら、止めないよ〜』
 狂は更に沙希に対する、追い打ちを掛ける。
 沙希はブルブルと震え、必死に涙が流れるのを我慢した。

 オーダーを決め庵が店員を呼ぶと、奥の方で伝票の奪い合いが始まった。
 伝票を勝ち取った、やや大柄な青年が飛ぶように、庵の元にやって来た。
 注文を聞く間、ウェイターの視線は、上から沙希の乳房の谷間を覗き込み、釘付けに成っている。
『沙希。スカートを上げて、鈴を見せてやれよ…男の顔を見ながらやるんだぜ…ウインクでもしてやれば上出来だ…』
 狂が沙希に命令を下す。
 沙希は諦めて開き直り、足を拡げスカートをたくし上げ、痴丘を晒しクリトリスの鈴を見せて、ウェイターに向かって微笑むと、ウインクをした。
 ウェイターの青年は口をぽっかりと開け、痴丘と沙希の顔を交互に見ている。
 その時沙希の身体の中で、有る変化が起こり始めた。
 沙希は青年の顔を見ていると、ギュンと子宮の奥が収縮し始めたのだ。
(え、や、やだ…なに…身体が変…中の方が熱く成ってきてる…なに…どうして…)
 先程真が沙希に与えたクスリの片方は、強力な催淫剤で沙希が性的興奮を覚えると、それを加速させる働きが有る。
 沙希が驚いて、スカートを戻すと店員は伝票を持って、奥に引っ込んで行った。

 沙希は自分の身体に起きた変化に、驚き戸惑いながらも、沸き上がる性的興奮が押さえきれず、モジモジと股を摺り合わせ始めた。
 沙希にしてみれば、こっそりと楽しんでいる積もりだが、パックリと開いた背中の肌が、見る見るピンク色に染まり、性的興奮に震えているのは、誰の目にも明らかだった。
(い、いや〜…はん…あ、あああぁ〜…身体が…熱い…変よ…変なの…ビクビクする〜…)
 沙希は身体を強ばらせながら、押し寄せる快感に抗っている。
『真さん…うす汚れている沙希の背中を、おしぼりで拭いてやってよ…優しく…優しく…拭いてね〜』
 この狂の言葉を聞いて、その意味が分からなかったのは、当事者の沙希一人だった。
 真は溜息を一つ吐いて、庵を見て首を捻る。
 庵はおしぼりを手に持つと、沙希の背中に手を伸ばし、優しく泥を拭い始める。
 沙希は真のその行動より、襲いかかる快感に息を飲んだ。

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