夢魔
MIN:作

■ 第5章 浸食(沙希)13

 沙希の処女血にまみれた、ラケットを手に持ち稔は狂を見詰める。
「本気ですか…これ以上やると、壊れてしまいます。日を変える気は有りませんか…」
 稔は静かな声で、狂に向かって威圧を込め始める。
(な、なに…今こいつ…私を庇ってるの…。どうして…あんな酷い事をさせたのは、貴方じゃない…)
 沙希は驚愕の表情を浮かべ、稔を見上げる。
 狂は肩を竦めると、稔の持つラケットを取り上げ
「へっ…なら、こいつに決めさせようぜ…」
 グリップで沙希を差して、稔をにらみ返す。
「良いでしょう…、それなら文句はありません…」
 稔は狂に向き直り、頷いた。
 狂は沙希の方に向き直ると
「よう、良いのかよ…こんな大嫌いな奴に、情けを掛けられて助けられるの。お前の約束って、そんなモノなの?」
 沙希を嘲りながら、質問をした。
(くっ…。確かにこいつの言う通りだわ…。柳井に助けられるなんて、嫌! …それ位なら、辛くても我慢して、約束を守った方がマシだわ)
 沙希はキッと稔を睨み付けて
「まだ、大丈夫…続きをお願いします」
 ハッキリと言い切った。
(まさか、狂にこんな風に暗示を利用されるとは…、これは後々の為にも暗示を解いておいた方が良さそうですね…)
 稔は肩を竦めて、左右に首を振り
「なら何も言わない…好きにして下さい…。その代わり、私の意見も聞いて貰いますよ…」
 大股で部屋の隅の椅子に掛けて有る、白衣を取りに行った。
 狂が稔の行動に気付き
「おい! それはルール違反じゃねえのかよ!」
 稔を止めようとする。

「狂がそう言う事に、使わなければ僕もルールは守ったさ…。君の都合で悪用されるなら、実験は終わりで構わない」
 稔はそう言って白衣を羽織ると、ボタンを留めながら、沙希に近付いた。
 白衣を着た稔を見詰める沙希の顔に、動揺が拡がる。
(あ…れ…、どこかで、見た事がある…この感じ…この歩き方…この姿…どこ…)
 沙希は惚けたような顔で、稔の姿を見詰める。
 稔は沙希の目の前にしゃがみ込むと、メガネを外して瞳をのぞき込んだ。
「もう良いよ、心の枷を外しなさい」
 稔が沙希に呟くと、沙希の瞳から大粒の涙が、こぼれ落ちる。
 稔が掛けた言葉は、暗示を解くキーワードで、沙希に掛けられていた感情のコントロールと、封印していた記憶が、解放されたのであった。
(お、思い出した…私、柳井君に告白したんだ…でも、理由があって受けられないって、振られたんだ…)
 沙希は稔の顔を見詰め、ガクガクと震え嗚咽を漏らし始める。
(何で忘れてたんだろ…何で嫌いだったんだろ…こんなに…こんなに、素敵なのに…)
 沙希は稔に手を伸ばし掛けるが、それを空中で狂の持つ、ラケットが遮る。
「へっ…もう良いだろ…次は俺の番だぜ…」
 狂がそう言って、2人の間に割って入る。
 沙希はそう言われ、狂の方を向くと、狂に対する嫌悪感も消えていた。
(この人も…全然感じが違う…。でも、感じが違うって言うより…人が違う…?)
 沙希と狂(純)の接点は、稔の友人でたまに話をする程度で、印象として内気な生徒で、可愛い顔立ちぐらいにしか認識していなかった。
 庵に関しては、名前と姿は知っていたが、話した事など一度もない状態だったため、感情を操作されても、嫌悪感の現れ方に、違いが出来たのだった。

(ちぇ…これから、嬲ってやろうと思ってたのに、つまんねーな…。まぁ、良いや…暗示が解けたなら、もっと素直にアレの反応が出る筈だからな…そっちで遊ぼう…)
 狂は不機嫌になった気持ちを納めて、沙希を見下ろしてニヤリと笑った。
 狂は沙希のラケットを肩に担ぎ、リードを持つと部屋を出て行こうとする。
 沙希は引かれるまま、狂に付いて行くが、動かない稔に振り返ってチラチラと視線を向ける。
 稔はそんな沙希の姿を見ながら、ジッと見詰めていた。
(暗示が掛かって居たとはいえ、沙希は望んで身を投げ出した…僕にとっては、この状態で狂を止める事は出来ないし…狂が許す筈も無い…)
 いつまでも動かない稔に、沙希が堪りかねて
「や、柳井…さ…ま…。あ、あの〜…一緒に来ては、頂け無いんでしょうか…」
 同行を懇願する。
「それは、僕が決める事では無いんだ…。今、全権を持っているのは、狂だから…」
 稔の言葉に、沙希は狂を見詰める。
 その視線は、先程の気の強い沙希とは違い、どこか泣き出しそうな弱々しさを湛え、縋り付くような視線だった。
 途端に狂は不機嫌そうな表情になり、稔を見詰める。
 稔もただ黙ったまま、ジッと狂を見詰めていた。
(ちぇっ…俺達のルールを知られたら、総スカン食いそうだしな…ここは、言う事を聞いてやるか…)
 狂は沙希をチラリと見た後、稔に視線を向けて
「ルールに従うなら、付いて来いよ…俺の指示には絶対従え…それと、その白衣は脱いで来いよ…」
 あれこれと注文を付けて、同行を認めた。
 稔は白衣を脱ぐと、椅子に掛けて狂達の後に付いて行った。

 沙希は扉を出た後、直線にして数メートルの距離を、全裸で這った。
 狂の目的地は、旧生徒会室から10メートル程の位置にある、男子トイレだった。
 沙希はその前に連れてこられると、途端にトランス状態に陥った。
「ふ〜あふ…ここですか…ごしゅじんさま…」
 沙希は目をトロリと、蕩かせて狂に向かって問い掛ける。
「そうだ、おまえの待機小屋で遊んでやる…嬉しいか…」
 沙希に、狂はとても嫌な笑顔を浮かべて言った。
(また、ろくでもない事を考えてますね…まぁ、羞恥責めに関しては狂には敵わ無いけど…壊してしまわないか、心配ですね…)
 稔は沙希を見詰め、状態を観察する。
(破瓜の血も思ったより、酷いモノではなかったし、体力的には充分ですが…ストレスがだいぶ堪って居る筈…)
 左の頬に残る打撲痕と、股間を汚す破瓜の血以外目立った、変化が見られない沙希の姿を見詰めた。
 3人は揃って、トイレの中に入ると
「まずその不細工なメイクを落とすか…お前の涙でグチャグチャになってるぜ…」
 狂はそう言うと、手前の個室に沙希を入れた。
「ほら、顔を突っ込めよ」
 狂は沙希に和式便器の中に、顔を突っ込むように命じる。
 沙希はいかにトランス状態でも、かなりの葛藤があるようで、中々行動に移せないで居る。
「どうした、絶対服従じゃ無かったのかなぁ〜。命令不服従は、酷いお仕置きだぜ…」
 狂は沙希が屈辱に耐える姿が、面白くて仕方なかった。

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