夢魔
MIN:作

■ 第6章 陥落(弥生・梓・沙希)2

 そんな梓の姿を、狂が稔の肩越しにモニターを覗き込み
「こいつ今から、何するの?」
 稔に質問してくる。
「この奴隷は昼間、真さんに失礼な事をした罰として、今から全裸で3フロアー徘徊させます。豚のお面を付けてですが…」
 稔が説明すると、狂がニヤニヤ笑いながら
「へー…、罰を受けさせるんだ…しかも俺の好きな、露出系で…。俺にも一枚噛ませてくれよ…、後でお前の言う事も聞いてやるからさ」
 沙希に対する態度の緩和も、考えていると言わんばかりの交換条件だった。
 稔は仕方なく狂の意見を呑み、参加を承諾した。
「へへへっ…そうと決まればよ、少し時間をくれよ…ぜってぇー、後悔はさせないステージを作ってやるからよ」
 狂の言葉に、不安を感じながらも、稔は頷き
「少し時間が掛かるから、連絡が入るまで、部屋にいて下さい…」
 梓に向かって指示を出す。
『は、はい…分かりましたご主人様…』
 梓はペコリと監視カメラに頭を下げると、トコトコと廊下を足早に歩いて行った。

 狂がパソコンに向かい、凄まじい速度でキー操作を始めると
「じゃぁ、僕は沙希に、絶頂を教えて来ても、構いませんね…」
 稔は狂に許可を求める。
「ちっ…仕方ねえから、許可してやるよ…。でも、お前のデカチンは入らねえと思うぜ…」
 稔に向かって、悪態を吐く。
「構いませんよ…それが目的では有りませんから。指だけで十分です」
 稔は狂の悪態を、サラリとかわす。
 ふんと鼻を鳴らして、狂は稔に向かって、背中越しにヒラヒラと手を振る。
 稔はそれを確認すると、踵を返して扉に向かう。
 扉を開いて、真っ暗な廊下に出ると、稔は男子便所に向かった。

 沙希はトイレの個室の中で、足を拡げてオ○ンコに突き刺したバイブを、どうするか悩んでいた。
(これ、動かさなきゃいけないんだよね…でも、少し動かしただけで、あんなに痛いのに…)
 沙希はクリトリスの刺激で、快感を覚えた物の、少しの前後動で激痛が走り、高ぶった快感を根こそぎ醒めさせてしまっていた。
 溜息を吐く沙希の耳に、廊下を歩く足音が届く。
(だ、誰か来た…お、お願いよ入って来ないで…)
 沙希はドキドキと鼓動を早めながら、必死に願い始める。
 しかし、沙希の願いも虚しく、その足音はトイレの扉の前で、立ち止まり扉を開ける。
(や、やだ…入って来た…だ、誰…)
 両手で口を押さえ、目を見開きながらガタガタと震えると、クリトリスの鈴がチリリンと小さな音を立てる。
 沙希は口から心臓が飛び出すのではないかと思う程、驚いた。
(やだ…気づかれた…こんな時に鳴らないで!)
 沙希は直ぐに右手で、鈴を握りしめ音を消す。

 すると、靴音はトイレの個室の方に向かって、近づき始める。
 沙希は近づく足音に、震え上がりそうな恐怖感を、覚える。
 しかし、足音の主は歩みを止めると、スンスンと鼻を鳴らして辺りの臭いを嗅ぎ、声を漏らした。
「くそ〜…また誰か、トイレを汚したな…。あ、こりゃ床に直に小便をしてやがる…またあの悪ガキの仕業だろ…理事長の息子には、困ったもんだわい…」
 声の主は、年老いた用務員の物であった。
(用務員のおじいさん…こんな所見つかったら、私もう生きて行けない…お願いこのまま帰って…)
 沙希のそんな祈りは脆くも崩れ去り、用務員は掃除用具入れから、ホースとデッキブラシを取り出し、床の掃除を始めてしまった。
 ジョボジョボと床に水を撒いては床を擦り、床を擦っては水を撒く。
 そして、用務員は床の掃除が終わると、個室の扉を開いては、中に水を撒き始めた。
(い、いやー…おじさん…止めて…止めて〜…お願いよ〜)
 老用務員は、一つ目の扉を閉め、二つ目を掃除し、三つ目を終えて、最後の扉に手を掛けた時
「くそ…止めた。馬鹿らしい…儂は掃除夫じゃねえ…。こんな事する義理は無いわい!」
 急に腹が立ったのか、掃除を途中で止めて道具を片づけると、電気を消して出て行った。

 暗い常夜灯だけになったトイレで、沙希はガタガタと震え始める。
(良かった…良かった…良かった…)
 沙希はただ一言だけを、思い浮かべながらガタガタと震えた。
 しかし、そんな沙希の安堵感と裏腹に、またも靴音が近づいて来る。
(い、や…今度は誰…またおじさん…もう来ないで…)
 扉を開けて入って来た足音は、電気を付けると真っ直ぐに奥の個室に向かって来る。
(誰…お願いよ! 扉を開けないで…お願い…)
 沙希は泣きそうな顔で、扉を見詰めそこが開かれない事を祈った。
 しかし、沙希の願いは、またも脆く崩れ去る。
 扉のノブが回り、奥に向かって、ユックリと開き始めたのだった。
 沙希の顔は絶望と悲しみに満たされ、堅く目を閉じる。
(もう駄目…こんな恥さらしな格好を見られたら…終わりよ…)
 力なく項垂れた沙希の耳に、扉を開けた者が声を掛ける。

「誰か来たのか…? 騒ぎが起きて居ない所を見ると、見付からなかった様だね…」
 扉を開けて、一歩中に入った稔を見詰め、沙希は安堵感が込み上げて来た。
(やないくん…柳井君だ…ご主人様だったんだ…良かった…)
 沙希は稔の顔を見詰めて、その目からボロボロと大粒の涙を流し、いつの間にか稔の服を掴んで、すり寄って鳴き始めた。
 嗚咽は止めどなく溢れ、沙希は声を出さずに泣き崩れる。
 稔はそんな沙希を、無表情に眺め、見詰めていた。
(こんな時…僕はどうすれば良いんだろう…ううん、パターンは解ってる…でも、それを必要と感じないのは、やはり僕に感情が無いせいなのかな…)
 稔は沙希の震える背中を見詰め、自問自答していた。
 沙希にとっては、想像もしない問題を抱えた主は、嗚咽を漏らす奴隷を、ただ見詰めるだけだった。

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