夢魔
MIN:作

■ 第6章 陥落(弥生・梓・沙希)3

 ひとしきり泣いた沙希に、稔は静かに声を掛ける。
「誰かが来て、怖い思いをしたんだね…それがどんなモノか僕は知らないけど…こんなに泣くんだったら、早く終わらせる事を考えなきゃね…」
 稔の言葉に沙希は、ピタリと動きを止める。
(終わりじゃないんだ…許してくれるんじゃないんだ…)
 沙希は一瞬浮いた、[解放]の考えが甘い物だと知らさせられた。
「僕がここに来たのは、沙希が絶頂というモノを、感じた事が無いと思って、それを教えに来たんだけど…どうする?」
 稔の質問は、沙希にとって思いもよらない物だった。
(ど、どうするって…絶頂を教えるって…柳井君が…? 私に…? え〜っ! それって、SEXするって事? 私と、柳井君がここで〜…?)
 沙希は驚きのあまり、目を点にして稔を見上げる。

「嫌なら僕は帰るけど、良いなら教えてあげるよ…好きな方を選んで」
 稔の静かな話し声は、沙希の心を激しく揺さぶった。
(え〜っ…どうしよう…好きだけど…いきなりそんな事言われても…あれ、でも私は奴隷に成ったんだから、そんなの当たり前なのかな? でも、こんなの恥ずかしいし…あれ、でもさっきの露出も十分すぎる程恥ずかしい…もう、わかんない! 良い! ここは頷いて教えて貰う、そして早くここから抜け出す!)
 沙希は戸惑いながら、それだけの事を考え、最後はやや投げやりに答えを出して頷いた。
「ご主人様、沙希に絶頂を教えて下さい!」
 半分やけくそ、半分勢いで、沙希は稔に依頼した。
 稔は沙希の勢いに、圧倒されながら頷くと
「じゃぁ…始めるよ…」
 そう言って沙希の身体を、愛撫し始める。

 稔は無造作に沙希の乳房に、手を伸ばすとヤワヤワと、指先の腹で摘むように揉み始め、次第に指の腹やたなごころを使い、乳房全体を優しく揉み始める。
(ん、ああぁ〜ん…くすぐったい…優しい触り方なのね…気持ちいいわ…柳井君って…上手なのね…)
 沙希はソフトタッチの稔の愛撫に、頬を赤らめながら感心する。
(あふん…でも、こんなに上手って事は…いっぱいエッチな事、してるのよね…。もう! 私との交際を断ったのに…、本当はこんなに、女の子の扱いが上手いなんて…ふんだ…)
 沙希は稔の与える快感に、何故か腹が立ってきて、心の中で拒絶をする。
 すると、途端に稔の手を不潔なモノに感じて、快感が薄れてしまった。
(ん? 反応が変わったな…どうしたんだろう…)
 稔は俯く沙希の反応が変わった事に、戸惑いながらしゃがみ込んで、下から沙希の顔を除くと、沙希は不機嫌な顔で拗ねている。
 稔は首を捻りながら、沙希に質問をした。
「沙希? どうしたんですか? 何か気に障ったの…」
 稔の質問に、沙希は唇を尖らせて
「何でも有りません…」
 プイッと視線を外し、そっぽを向いてしまった。

 稔は沙希の突然の変化に戸惑い、更に首を傾げる。
(どうしたんだ? 沙希は何で突然怒り出した?)
 稔には沙希の突然の変化が、理解できなかった。
 只でさえ分かり難い女心を、感情の意味を知らない稔に理解できる筈もなく、稔は困惑する。
 稔は沙希の乳房から手を放して、顎に持って行き考え始める。
(あん…だめ、止めちゃヤダ…。でも、そんな風にされるのもヤダ…)
 沙希は稔の手が離れると、快感が途切れてしまうのを拒み、又同じくらい稔の、優しい上手な愛撫を嫌った。
 複雑な乙女心は、稔をご主人様と呼ぶのと、愛する人としての位置を並べ置く事を拒み、また稔の過去にも嫉妬した。
(ふ〜ん…困ったモノだな…沙希が何について、怒っているのか解らない…僕は何か悪い事でもしたのか…)
 稔はジッと考え込みながら、今の状況を分析し始めた。

(ふん…困れば良いんだわ…私を振っておいて…私を遠ざけておいて…こんな事する稔君なんて…)
 沙希は自分の中で、理由を強引に付けて、稔の悩む姿を盗み見た。
 そして、沙希は有る事に気が付いた。
(あれ? 稔君は私の交際を断った時…[理由が有って、付き合う事は出来ない]って言ったわよね…理由って…これ…。こんな趣味が有ったから…私と普通のお付き合いが出来ないって…断ったのかな…)
 沙希は稔の言葉を思い出し、今の状況と繋げて、強引に解釈を始める。
(そうよ…多分そう…! 確かあの時[今は]って言ったわ! あの時は、[今は、付き合えないって]…。だったら、今はどうなの? こんな趣味が有るって知っちゃったし、奴隷の約束もしちゃった…今は…)
 沙希の鼓動はにわかに、早く強くなって行く。
(や、やだ…何か変…凄くドキドキしてきたわ…稔君…今なら私の事…好きって言ってくれるかな…)
 沙希は頬を赤く染め、せわしなくモジモジと身体を動かし始める。

 稔は三度態度の変わった沙希に、困惑する。
(今度は何だ…いったいどう成ってるんだ? う゛〜ん…僕には判断出来なく成ってきてる…)
 稔の頭は、沙希のコロコロ変わる態度に、翻弄され始める。
 稔が沙希の真意を聞き出そうと、身を乗り出し掛けた時、沙希がおもむろに稔の顔を見詰め
「ね、ねえ…柳井君…柳井君は私の事好き…?」
 突然聞いて来た。
 稔はこの言葉を受けて、思考が停止した。
(好き? …? この状況で…何を言い出すんだ…?)
 稔は数秒頭の中を空白にして、やっとそれだけの言葉を、思い浮かべた。
(やだ…私ったら…ちょっとストレート過ぎたかしら…もっとこう…言い方を、考えた方が…)
 沙希は自分の言った言葉に、自分で驚きながら、稔の反応を伺う。
 稔の表情は、人形のように固まり、何の感情も浮かべては居なかったが
(どういう事だ…彼女は僕に何を求めている…僕はここで[好き]と言う感情を浮かべるべきなのか…解らない…)
 その頭の中は、予期せぬ質問と、判断に困る解答を求めて、凄まじいスピードで廻っていた。

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