夢魔
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■ 第7章 隷属(弥生・梓・沙希)13

 稔の目の前で、満面の微笑みを浮かべながら、平伏した沙希を弥生がジッと見詰める。
(え? どう言う事…私に対して表情を見せるのは、便宜上? 稔様の秘密? 何…何でそんな事をこの子が知ってるの?)
 弥生の頭の中で、急速に疎外感が膨れ上がる。
 弥生は自分自身で、疎外感に気付いた時には、既に行動を起こしていた。
「申し訳御座いません、ご主人様。今のお話を、私にもお聞かせ頂けないでしょうか…」
 弥生は稔の足下に平伏して、懇願する。
(う〜ん…これは、やっかいですね…説明は全員が揃ってからと思っていたんですが…)
 稔が少し考え始めると、沙希が2人の話に割って入る。
「先生、そのお話を聞いちゃうと、ご主人様の微笑みが、見られなくなりますよ」
 沙希の言葉を聞いて、怪訝な表情を浮かべる弥生だが、稔が頷くのを見て怖じ気づく。
(え…どう言う事…、微笑みが無くなる…。秘密を知ると、笑いかけて貰えないの? なに? 気になるけど…)
 動きが固まった弥生に
「今までの方が良ければ、今は聞かない方が良いでしょ…」
 微笑みながら、稔が優しく告げる。
 その稔の姿を見て、沙希の胸がズキッと痛み、羨望の目で見詰める。
(いつか…本当のご主人様の笑顔を…向けて貰うんだ…その時まで、我慢するモン…)
 沙希は項垂れながら、2人から視線を離した。

「さあ、話しも片付いた事ですし、弥生、沙希の治療をして下さい」
 稔が弥生に沙希の打撲の治療を促すと、弥生は沙希に向き直る。
 悲しそうな表情を浮かべる沙希の姿を、弥生はマジマジと見詰め、昨夜の調教の激しさをうっすらと感じた。
 弥生が養護員の顔になって、沙希の乳房を見て、眉をひそめる。
(オッパイの傷が酷いわね…それにこの大きな痣より、こっちの小さな痣の方が酷いわ…。うわっ、クリトリス凄い事になってる)
 弥生は傷を診察すると、クスリ棚から薬品を取り出し、傷口を拭ってクスリを塗り始める。
 稔の方に視線を向けながら
「ご主人様…このオッパイの傷が酷いです。後、クリトリスの痛み具合もです…それと、この小さな痣は、かなり強い内出血を起こしています。下手をすると痣に成って消えないかも知れません。出来れば、少し加減して上げて下さい」
 稔に抗議すると、稔は沙希を見て
「沙希聞こえた? 次からは、手加減して上げなさい」
 注意した。

 弥生は稔の言葉に、沙希と稔を交互に見て、沙希を指さし稔に目で尋ねる。
「そうだよ、今言った傷は、全部沙希自身が付けた傷なんです。オナニーしながらね」
 稔が頷いて、弥生に説明した。
 驚いて弥生が沙希を振り返ると、沙希は小さく成って、顔を真っ赤に染めていた。
「申し訳ございません…事情も分からず、生意気な事を言ってしまいました」
 弥生は慌てて稔に振り返り、平伏して詫びる。
「うん、誰でもそう思うから、仕方ないよ。この後お風呂に入る予定だから、沙希にクスリも持たせて上げて下さい」
 稔はヒラヒラと手を振って、弥生の非礼を許した。
 弥生は頭を上げると、沙希に向かって
「これ…こんな、碁盤のように傷つけちゃ、治りが遅いし跡が残るわよ…綺麗な肌なんだから、大事にしなきゃ」
 注意しながら、治療を続ける。
「は〜い…気をつけま〜す…」
 沙希はふて腐れたような返事を、弥生に返しそっぽを向く。

(まぁ…何て態度なの…。同情するんじゃなかったわ…、憎たらしい)
 弥生は少し強めに、薬を塗りつけると、塗り終わった部分をペチンと叩いた。
「い、痛い…! 何するのよ」
 沙希が弥生に食って掛かると、弥生も負けじと睨み付ける。
 2人はお互いが稔に対して、双方に無い物を持っていたため、心穏やかに接する事が出来なかったのだ。
 一触即発の2人を見て、稔が溜息を吐きながら
「2人ともよしなさい…沙希も態度が悪いし、弥生も大人げないですよ」
 双方を諫める。
 2人は稔に言われ、シュンと小さく成るが、遺恨は消えていないようだった。
「良いですか2人は、私達の奴隷なんです、主人が仲良くしろと言ったら、守らなくてどうするんですか」
 稔の声は少し低くなり、2人を震え上がらせるには充分だった。
「申し訳御座いません、お許し下さいご主人様」
「ごめんなさい、ご主人様お許し下さい」
 弥生と沙希が並んで平伏する。
「そのうち、みんな扱いは平等になります、それまでの僅かな間の事で、争うような真似は決して許しません」
 稔が強い口調で、更に念を押すと、2人は声をそろえて
「解りました」
 稔の言葉に従った。

 沙希の治療が終わり、稔は沙希に制服を着るように指示した。
 沙希はイソイソと裸の上に、制服を着けて行く。
「弥生、家を使いますから、鍵を貸して下さい」
 稔が弥生に、自宅の鍵を渡すように言うと、弥生は鞄の中から、鍵の束を取りだし、その一つを稔に渡す。
 稔は怪訝な表情で
「その鍵の束は、どうしたんですか?」
 弥生に問い掛けると
「真様が昨夜、ご主人様達の分の鍵を用意した方が良いと、仰られたので用意いたしました」
 弥生はニッコリ笑って、説明する。
(流石真さんですね、気が回ります…)
 稔は鍵を見詰め、真の細かな気配りに感心した。
 稔は鍵をポケットに入れると、沙希を伴い保健室を後にして、弥生の家に向かった。

 弥生の家の前に着くと、開口一番沙希が驚きを上げる。
「すごーい…上郷先生って、お金持ちのお嬢さんなんですね…」
 その家の大きさに、呆然とする。
「旧家では有るみたいですが、お金持ちとは言えないようですよ。慎ましい生活を、送っていたようですし」
 稔は通用口を潜り、中に入る。
 玄関の鍵を開け、自分の家のようにリビングに向かう。
 リビングのソファーに腰掛けた稔は、沙希にお風呂を沸かすように指示すると、背もたれに身体を預ける。
(流石に辛いですね…油断すると、眠ってしまいそうです…)
 この2日間ほぼ徹夜状態だったため、身体の疲れが抜けていない。
(この後、沙希に学校での注意事項や、奴隷の決まり等を、教えなければいけないのに…ふぅ)
 メガネを外し、目頭を揉んでいると、顔の前に気配を感じ、目を開けた。
 すると稔の目に、逆さまに成った沙希の顔が飛び込んできた。
 ソファーの背中側から、沙希が身を乗り出すようにして、覗き込んできたのだった。
 稔が固まると、沙希はヒヒヒ〜と歯を剥き出しにして笑い
「お風呂沸いてました〜。稔様ってメガネない方が絶対カッコイイのに、何でメガネするんですか〜?」
 沙希が楽しそうに聞いてくる。

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