夢魔
MIN:作

■ 第8章 隷属(美紀)3

 美紀の家に招待された稔は、そのまま2人と離れ庵に合いに、隣のクラスに顔を出す。
「垣内君、工藤君…少し良いですか」
 たまたま、純が庵のクラスにいたので、稔は2人を呼び出した。
 2人を呼んだ稔は、昼休みには人気が少なくなる、選択教室が集まる3階に移動して
「理事長からGOサインが出ました。私は今日中に美紀を落としますので、2人は西川絵美をマウスにする準備を行って下さい」
 稔がそう言うと、純が驚きながら
「ほ、本当に西川さんも…奴隷にするの…。もう、止めようよ…」
 稔に抗議をする。
「純…、遅かれ早かれ、彼女は奴隷に成ってしまいます…他の生徒達も、全員です。この計画が始まった時点で、これは避けられない帰結なんですよ…、今更になって、怖じ気づくのはもう止めて貰えませんか」
 稔に続いて、庵が純に囁く
「純さん…俺も、その態度には、好い加減頭に来てるんです。俺達はどうやったって、悪人なんです。自分のエゴのために、他人を巻き込んで、奴隷にしようってんですから…」
 庵の低い恫喝のような声に、純は怯える。
「でも…。でも、やっぱり良くないよ…こんな事…」
 純は小さくなりながら、2人に抗った。

「なら、何故純は協力したんです? あの音響催眠誘導装置は、純の技術がなければ、空想の物でしか無かったんですよ」
 稔が純を問いつめると、純は途端に震え始め、狂に変わる。
 瞼を開けた狂が、機嫌の悪そうな目線を2人に向け
「お前らよ〜…2人で、そんな事言って、俺が出て来ないと思ったのかよ…」
 狂は2人に向かって、いつになく静かに文句を言う。
「済みません狂さん…余りにも、頭に来てしまって…」
 庵が狂に頭を下げると
「しかし、純のあの態度は、到底承服出来ませんよ」
 稔が狂に抗議する。
「わーった…解ってるよ! …だけどよ、副人格の俺に文句を言っても、仕方ねぇーだろ。俺も、こんな時間に呼び出されて、これで後丸2日は出てこれないんだぜ! まったくこれからって時によ…」
 純の副人格である狂は、自分の意志で主人格と変わる事は、1日4時間が限度で、それを過ぎると反発として倍の時間出てくる事が出来ない。

「それは、昨日狂が調子に乗って、長時間変わり続けたのが、原因でしょう」
 稔がいつものように冷静に分析して、狂に告げる。
「うるせーっ! 俺にも楽しませろよ! まったく、鉄皮面の癖しやがって…」
 狂が悪態を付くと、稔が言い返そうとする。
「も、もう、解りましたから…、話が前に進みません。で、どうするんですか? 稔さん」
 庵が中に入って、2人を仲裁すると
「取り敢えず、庵は絵美の家に装置を取り付けて下さい。狂は情報収集をお願いします」
 稔は冷静に、2人に役割を告げる。
 2人は納得して、それぞれの役割に着いた。
 去り際に稔が狂に向かって
「狂、美紀の枷は、外しますよ…もうデーターは揃いましたし、この後邪魔にしか成りませんからね」
 狂は稔の言葉に、ヒラヒラと手を振って
「好きにしろよ…もともと、お前のもんだしな。それに、今度俺が出てくる時には、ケリが付いてるんだからよ」
 そう言って、スタスタと廊下の奥に消えて行く。
 稔が伊織に目線を移した時には、庵は既にそこには居なかった。
 稔は踵を返すと、食堂に向かって真っ直ぐ進む、昼食を取るために。

 午後の授業が終わると、荷物を片付ける稔の元に、美紀が駆けつける。
「柳井君…このまま、良い?」
 美紀が学校から直接、自宅に来て貰っても良いかと、尋ねてくると
「ああ、僕は構いませんけど、前田さんはどうかな?」
 美紀の後ろに、ひっそりと立った沙希に問い掛けた。
「は、い、良いわよ。こ、このままで」
 沙希はしどろもどろになりながら、稔に答える。
(あ、危なかった〜っ…稔様に危うく[はい]って返事するところだった…)
 沙希は美紀に見えないように、慌てて口元を押さえた。
(美紀…ゴメンね…私もう、稔様には逆らえないの…裏切ったみたいで、気が引けるけど…許して…)
 沙希は美紀の背中を見詰めながら、悲しそうな目を向ける。
 しかし、その沙希に向かって、稔は意味深に頷いた。
(え、…今のは何? 稔様は、何かお考えがあるの?)
 沙希は驚いた表情を一瞬浮かべて、何事もなかったように表情を戻す。

 通学路を自宅に向かって歩く美紀は、沈黙に耐えられず、ロングホーム前の時間に起こった出来事を、話し始める。
「で、でも…西川さんが言ってた、露出狂の話って…本当にあるんですね…。その人も変な夢を、見てたのかなぁ…」
 美紀がポツリポツリと話すと、美紀の後ろでギクリと沙希が驚く。
「でも、そんな場面に出くわした、柳井君も驚いたでしょ?」
 稔に向かって、美紀が屈託無く聞いてくる。
「はい、かなり驚きましたよ。とても綺麗な女性でしたからね…」
 稔の答えに、沙希が頬を染めながら、照れると
「それが、公衆の面前であんな事をするなんて。正直ビックリしましたよ」
 更に続けた言葉に、沙希は驚いて稔を見詰め
(だ、だって、ご主人様達がさせたんじゃないですか〜! そんな言い方、酷い〜!)
 沙希は心の中で、叫んだ。
 コロコロ変わる、沙希の表情を稔の冷たい目線が貫くと、沙希はギクリとして視線を外し、シュンと項垂れた。
 そんな沙希の変化には、一切気付かずに美紀は、言葉を繋げようとする。
 稔は美紀の話に、無難に返事を返すと、数分で美紀の自宅の前に着いた。

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