夢魔
MIN:作

■ 第8章 隷属(美紀)5

 美紀の話を聞き終わった、稔の口から出た言葉は、余りにも冷たく美紀を追い込んだ。
「そこまで、来てしまったら…。多分病院に行って、本格的な治療が必要ですね…。しばらくの入院を覚悟して下さい」
 稔の言葉に、美紀は愕然として、唇を震わせる。
 そして、稔はそんな美紀に、容赦なく畳みかけた。
「そもそも、妄想は自分の日常を否定して、非日常を求める事から始まるんです。抑圧された、森川さんの欲望が、具現化されただけなんですよ」
 稔は美紀に向かって、真剣な表情で伝え、言葉を句切り美紀を真正面から見る。
 美紀は真正面から見詰められた、稔の視線を外す事が出来ず、圧倒されながら頷く。
「そこで、体面を気にして言葉を選び、僕に伝えたとしても、そこには、森川さんの抑圧されたモノは、何ら逃げ道がないんです。まぁ、言葉を選んで、本質を伝えようとしない森川さんの、僕に対する信頼が、そんなモノだったと言うしか、無いんでしょうけどね」
 稔は美紀の瞳を見詰めながら、最後は落胆の表情を浮かべて、視線を外す。
 美紀は稔に見詰められ、ゾワゾワと上がってくる、恐怖感と戦いながら、やっと視線が外れた事に、安堵の溜息を吐く。
(どうして…どうして私は、柳井君が恐いの…。こんなに真剣に私の話を聞いてくれて…解決策を考えてくれる人、他に居ないのに…)
 美紀は激しい自己嫌悪に陥りながら、込み上げてくる恐怖感の、理由を探し求める。
 しかし、美紀にはその答えを、出す事は決して出来なかった。
 何故なら美紀の恐怖心は、沙希同様、稔に植え付けられた、感情の転嫁が原因で、美紀本人の感情では無かったからである。
 沙希は恋慕の情を、憎悪に変えられていたが、美紀の場合は、ある感情を恐怖に変えられていた。
 稔達は自分達の開発したシステムの、研究データーを取るため、沙希と美紀に憎悪と恐怖の感情を、植え付けたのだった。

 美紀は込み上げる恐怖感と戦いながら、ひたすら自分に言い聞かせる。
(だめよ、ちゃんと話さなくちゃ…恥ずかしくても、ママやお姉ちゃんに迷惑が掛かる…柳井君に、全部話すの…)
 美紀は気持ちを固め、稔を見詰めると、ガタガタと震える自分を押さえつけ、重い口を開く。
「わ、私はいつも夢の中では、裸になって…犬の首輪をしているの…そして、お尻に犬の尻尾を付けて、夜の通学路を学校に向かって這って行くの…。そして、学校についたら3階の化学準備室に行って、誰か大切な人を待つんです…じ、自分で慰めながら…」
 美紀は頬を真っ赤に染めながら、恐怖感でガクガク震え、稔に告白する。
 稔はスッとポケットに手を差し込むと、ポケットの中に入れて有る、リモコンのボタンを操作した。
 すると、どこかでアラームのような音が鳴り、聞こえるかどうかの周波数の音が、ヴーンと響き始める。
 音が鳴り始めると、美紀と沙希の2人はピクリと震え、ボーッと宙の一点を見詰め始めた。
 稔は黙って2人を見詰め、2人の身体がフラフラと揺れ始めると
「それで、どうなるの…」
 稔は美紀に静かに問い掛ける。
 美紀は稔の声に反応して、稔を見詰めながら続きを話し始めた。
「た、たいせつなかたが…とびらをあけて…はいってくると…わたしのからだは…すごくびんかんになって…たいせつなかたに…かわいがってもらうの…」
 美紀はハアハアと荒い息を吐きながら、瞳を恐怖に歪め、頬を染めて、身体をガタガタと震わせながら、稔に話す。
「可愛がって貰うと、森川さんはどうなるの…」
 稔の質問に、美紀は興奮を高めると、それと同等に緊張を強めながら
「すごくきもちよくて…すごくしあわせで…すごくかんじるの…」
 稔にウットリと話す。

 稔が立ち上がって、美紀の目の前に立つと、跪いて目の高さを揃える。
 至近距離で稔に瞳を覗き込まれた、美紀の緊張はピークに達し、危うく意識を飛ばしかけた。
 美紀が意識を飛ばさなかったのは、稔が掛けた言葉のせいだった。
「森川さんは、僕が恐いようですね…、そして夢で自分がしている事を、自分が望んでいるとは、思いたくない。だったら、僕が手助けしてあげましょう。恐い僕が命令して上げるから、森川さんは仕方なく、恐くて僕に従うんです…どうですか?」
 稔の言葉に、美紀はおこりが起きたように震えると、ガクガクと首を振り、同意した。
「美紀、跪きなさい」
 稔が美紀に命令すると、美紀はガクガクと震える膝を押さえて、ベッドから立ち上がり、床に正座する。
「恐いかい? 僕の事が…」
 稔が美紀に問い掛けると、美紀は目に薄く涙を溜めて、コクリと頷く。
「そう、美紀は恐い僕に命令されて、仕方なく言うことを聞いて居るんだ…。だから、どんな恥ずかしい事をしても、それは僕のせいなんだ…」
 稔が囁くように美紀に告げると、美紀はコクコクと頭を振り、頬を更に赤く染める。
 美紀の後ろで2人を見詰める沙希は、朦朧とした意識の中で、2人のやり取りを見詰め、欲情に身を焼いていた。
 稔は沙希をチラリと見ると、沙希に目配せをして、制服を脱がせる。
 沙希は頷いて、制服を脱ぎ捨て、全裸になり正座して稔の指示を待つ。
 美紀は自分の背後で、沙希が全裸に成っている事など、全く気付かずひたすら稔を見詰め、次の命令を待った。

 稔はポケットをまさぐり、赤い首輪を取り出すと、美紀の目の前にぶら下げる。
「さあ、これを着けて上げよう…どうすれば良いの?」
 稔が問い掛けると、美紀は大きく首を前に差し出し、白い首を晒す。
 しかし、稔はその首輪を美紀の首に回す事無く、肩口に載せると手首の力だけで、打ち据える。
「美紀はそんな格好で、首輪を貰うの? 犬はどんな格好なんですか?」
 稔の問いに美紀は平伏すると
「ご、ごめんなさい…すぐにようい、いたします」
 辿々しく詫びると、モソモソと洋服を脱ぎ始める。
(だめ…こんなこと…。でも、めいれいだもん…。こわいからしかたないの…)
 美紀の頭の中では、否定と淫夢と誘惑の言葉が、浮かんでは絡み、混ざり合っていた。
 美紀が下着姿になると、理性が僅かな抵抗を見せて、手の動きを止める。
 稔は数秒動きの止まった美紀を見詰め
「何をしてるの…のろまな子はお仕置きだよ」
 耳元に囁く。
 美紀の身体がビクリと震え、手の動きが再開する。

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