夢魔
MIN:作

■ 第9章 虫(バグ)3

 狂は更にパソコンを操作して、情報を引き出すと
「おいおい…どう言う事だ…。早めに手を打たないと、やべぇ〜な…」
 ボソリと呟いた。
「どう言う事です? 何が解ったんですか?」
 稔が狂に問い質すと
「こいつが、大学に入って2回訴えられた時の弁護士、誰だと思う?」
 狂が稔に質問で返す。
 稔がパソコンのモニターを見て
「この人は…この学校の顧問弁護士…」
 その名前に気付き、小さく呟くと
「そう、そしてこの手の弁護士は、個人の依頼による弁護はしないんだ…」
 狂は別のウィンドウを立ち上げながら、キーボードを叩き始める。
「じゃぁ、この男はこの学校の関係者…。そんな訳はないですね…この学校に関係している、誰かの関係者…。顧問弁護士を私用で使うとしたら…あの人しか居ませんね」
 稔は呟きながら、自分の考えが行き着いた、有る人物の名前を呼びかけると
「ほら…ビンゴだ。こいつは、伸也の仲間だ…」
 狂がどこかの防犯カメラに納められた、映像を引きずり出していた。

 防犯カメラには、日付と時刻が映し出されているが、声は入っていない、それでも2人が、旧知の仲で有る事を知るには充分な程、お互いに笑い合っていた。
 狂が操作を行い、坂木と伸也の顔に丸いチェックを数ケ所入れて、エンターキーを押すと、パソコンがうなりを上げる。
「こいつ…今、学校なんか行ってないぜ…。物理的に時間が足りないからな…」
 狂がパソコンのモニターに浮かぶ、文字列を見詰めながら呟いた。
「俺のクラウドシステム使ってる店だけでも、これだけカードを使ってる…。こいつ、毎月30万は払ってるぜ…しかも、全部何のトラブルも無く引き落とされてる」
 狂はマジマジとモニターを見詰めながら、ブツブツと呟いている。
 そして、有るデーターに目を止めた瞬間、マウスから手を離し
「稔…さて質問です。こいつは、過去3人の女に訴えられて、全て示談で終わり、何の罪にも問われていません。偶然、訴えた女は3人ともこの学校の生徒で、偶然竹内理事長の関連会社に入社している。そして、偶然この3人は美人でスタイルが良い…まだ、探せばこんな偶然出てくると思うぜ…」
 狂は頭の上に、両手を置いてモニターを見詰めながら、ウンザリした表情で稔に問い掛けた。
「すると、この男は竹内理事長から、何らかの指示を受けている…そう言う事ですか…」
 稔はポツリと呟いて、狂に問い返す。

「100パー間違い無いね…多分、竹内のおっさんに斡旋でもしてるんだろ…。あのおっさんなら、させ兼ねない」
 狂は不要なウィンドウを消しながら、坂木のデーターをまとめ始める。
「僕達の前任者って所ですか…」
 稔がまたポツリと呟くと
「まあ、そう言う事になるな…随分ローテクだけど…」
 狂はクスクスと笑い、作業を進める。
 そして、有るデーターを見つけ、手の動きと笑いを止めた。
「稔、こいつやばいぞ…このクラブの名前見てみろ…。ここは、妖しい薬の密売をしてる店だぜ…。その店に、この頻度で出入りしてりゃ…間違い無くやってる…」
 稔は狂に向かって
「2人の居場所は、分かりますか?」
 質問すると、狂は緊張した表情で、マウスとキーボードを操作しながら
「今探してる…。居た、1時間前に駅前のコーヒーショップで、坂木がカードを使ってる。50分前に駅の防犯カメラに写ってて…、今は…多分駅裏のカラオケボックスだ…、この店はレイプボックスで有名だぜ…」
 数分で2人を見つけた。
 狂が更にキーボードを操作すると、モニターに真っ暗な映像が映し出される。
「おい稔! 今、美香はレイプの真っ最中みたいだぜ…部屋が使用中だ」
 狂がそう言うと、稔と庵は部屋を飛び出していた。

 狂は稔達が出て行ったのを確認すると、携帯を取りだしてダイヤルする。
「俺だ、例の件の進行具合どう成ってる? ああ、関連企業全部だ…20%? …少し遅れてるな…。ダミーでも何でも使って、絶対に相手に気取られるなよ…」
 狂は英語で、相手と会話し電話を切った。
(さってと…無駄な努力に成れば、良いけどな…。このおっさんなら、絶対必要になる筈だ…)
 狂は黙って、モニターに浮かんだ中年男性の顔を見詰め、ニヤリと笑った。
 ウィンドウを次々に閉じて、システムをクローズさせて、パソコンの電源を切り、カードリーダーから黒いカードを抜くと、狂は腰を上げ旧生徒会室を後にする。
 学校を出た狂は、タクシーを捕まえて駅裏へと向かった。

 時間は遡って、稔達が訪れる前の森川家。
「じゃぁ、ママ行ってくるね…」
 一人の少女が、明るく玄関に向かって告げると、出かけて行った。
 少女の名前は森川美香(もりかわ みか)美紀の姉である。
 美香は美紀と同じ学校の3年生で17歳、身長160p体重44s、スリーサイズはB75W55H72と細身で、とても品の良い顔立ちに、物静かな雰囲気を醸し出している。
 実際美香は物腰が柔らかく、優しい性格でかなりおっとりしていた。
 学校では管弦楽部に所属する特待生で、将来を嘱望される、ピアノ奏者だ。
 母や妹同様その美貌は、言うまでも無く、清楚な雰囲気と相まって、良く雑誌などにも取り上げられる。
 美香は、薄いピンクのブラウスに、ライトグリーンのフレアースカートを着込み、お気に入りのローヒールを履いて、小さな鞄を手にニコニコと道を急いでいた。
(ママゴメンね…嘘付いちゃって…。だって、健二さんの家にお泊まりって行ったら…許してくれないでしょ…)
 美香は付き合いだしたばかりの、大学生の彼氏を思い浮かべて、ウキウキと待ち合わせ場所に急いだ。

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