夢魔
MIN:作

■ 第9章 虫(バグ)12

 稔と庵は余りにもベタな展開に、顔を見合わせ従い、従業員専用の扉を潜った。
 稔と庵が扉を潜ると、事務所から怒声が響き、激しく争う音が流れ出す。
 若い店員はそれを無視して、受付カウンターに座り、漫画を読み始める。
 数分すると、後ろの音も静かに成って、店員は漫画を読んで馬鹿笑いする。
 店の前に1台のタクシーが止まり、学生服を着た小柄な少年が下りてくると、店員はまたかと言う顔で、カウンターから腰を上げた。
「すいません、今日は貸し切りなんです。他に行って下さい」
 仏頂面で頭を下げる。
「馬鹿か? お前サービス業だろ。そんな面で、客に言う事かよ…まぁ、俺は客じゃないけどな…。デカイのが2人来たろ? 何処行った…」
 狂が店員に向かって、これ以上無い程の横柄な態度で、質問した。
 店員は狂の外見と態度のギャップに、目を白黒させると、態度の大きさに顔を真っ赤にして
「なんだと! 誰に向かって言ってンだ〜っ、このチビが〜!」
 狂の胸ぐらを掴んで、拳を振り上げる。
 すると、事務室の扉が開き、中から無傷の稔と庵が出てきて
「狂、速かったですね…店の人との話は付きましたから、奥に急ぎましょう」
 稔が狂に言い
「おいあんちゃん、何してんだ…? その拳を振り下ろしたら、お前もこうなるぜ…」
 庵が扉の正面から、身体をずらして、奥の事務室の中を見せると、中には5人の男がボコボコに成って、気絶していた。
 若い店員は、[ヒッ]と声を詰まらせると、狂の胸ぐらから手を離し、ペコペコと頭を下げる。
「邪魔が入らないように、店は閉めとけ…」
 狂は若い店員に、短く命令すると、稔達と奥へ向かう。

 3人の男にレイプされながら、美香は全く悲しみを感じていなかった。
 女として最悪の行為で有る、複数の人間に身体を犯される状態で、それとは違うもっと別の感情が、美香の心を染めている。
 それは、歓喜であり、至福であり、解放であった。
 自分が奉仕出来る喜び、服従して使われる幸せ、理性により押し込んできた欲望の解放。
(この人達は、私を使ってくれる…この人達は、私に命令してくれる…この人達は、私を支配してくれる…)
 美香は初めて、これほど求められ、物のように使われ、奉仕する事に没頭する事が、幸せな事だと知った。
 自分がそう言う人間だと…、今感じている事が自分の本当の姿だと…、認識した。
 しかし、その中にあっても、未だ拭いきれない物もある。
 そう、何かが違うのだ、恋人の健二より、強くこの3人に感じながらも、どこかが違うのだった。
 美香は伸也の上に馬乗りになり、腰を揺すりながら左右の手で、2人のチ○ポを擦り、交互に舐めながら、もどかしさを感じる。
 東の何度目かの射精を、大きく口を開けて受け止め、その亀頭を口に含み尿道の残滓を啜ると、振り返って谷のチ○ポにしゃぶり付く。
 美香の美しい顔は、3人の精液でベタベタに成っていた。
 そして、床に寝そべった伸也が、唸って精を放つと、美香の身体が小刻みに震え、絶頂を迎える。
 その時部屋の扉が勢いよく開き、2人の男が中に入って来た。
 突然目の前に現れた2人に、美香は視線を奪われる。
 美香の頭の中で、何かが閃き、心の奥に有る薄い靄のような物を払拭した。
 美香はその2人を見詰め、涙を流す。
 大粒の涙が、ボロボロと溢れ止まらなかった。
(この人達だ…)
 美香の脳裏に、ただ一言だけが浮かんで、いつまでも繰り返される。
 そして、美香は崩れるように、意識を失った。

 部屋の扉を開けて、中の状態を確認した稔と庵は、一瞬で表情を消した。
 下に成っていた伸也が、稔達の姿を認め、涙を流し崩れるように気絶した美香を、押しのけ突き飛ばす。
 美香を突き飛ばした伸也が、狼狽えながら東と谷をけしかける。
 東が身体を振り向かせながら、庵に向かって右手で殴りかかる。
 庵は左手で受け流すと、右の拳を、東の背骨の少し横、腰骨の少し上に叩き込んだ。
 庵の仁王のような形相と、その拳の速度と、当たった時の打撃音が、東の運命を物語る。
 東はその巨体を宙に浮かせ、2m先の壁まで飛んで行き、全身でぶつかると、床に落ちてビクビクと痙攣した。
[キドニーブロー]ボクシングでは反則打、浮動肋骨の下にある腎臓に、直接打撃を与える打ち方。
 そこに、体重100s程の東が、2m吹き飛ぶ威力の打撃を受ければ、柔らかな内臓などひとたまりも無い。
 東はこの後、良くても、死ぬまで人工透析を受けながら、過ごす事に成るだろう。

 一方素早く美香に駆け寄った稔は、その行動を谷に邪魔される。
 谷はどこからともなく、バタフライナイフを取り出し、稔に向かって突きかかって来た。
 稔は目の端に光る物を感じ、美香に対して伸ばした手を、素早く引き戻す。
 谷のナイフは、最早美香を傷つけても仕方が無い、そんな動きだった。
 稔は、身体を起こしながら、眼鏡を外すとポケットにしまい、谷に対峙する。
 谷は稔の前で、ナイフを左右に持ち替え、チラ付かせながら威圧した。
 稔の右手が一瞬、谷の視界から消えると、谷は驚いた顔で稔を見詰め、左手を突き出す。
 しかし、その時には、谷の左手にはナイフは無く、稔の右手に移っていた。
 呆然とする谷の顔を稔が見詰め、右手を谷の前で上下に一度振ると
「ナイフは突くより、切る方が効果的です。突く時は、完全に相手の動きを止めるのが、鉄則ですよ」
 注意事項を与えナイフを器用に回し、刃を納めて谷の足下に放り投げた。
 谷はそのナイフを目で追い、自分の足下に落ちている、奇妙な物体を見詰め、顔の横に両手を当てる。
 谷の足下に落ちていた物は、根元から切り落とされた自分の両耳だった。

 稔は、伸也に向き直り
「どう言う事です…これは、重大な契約違反ですよ…」
 静かに伸也に向かって、詰め寄った。
「俺達は手間暇掛けて、お前の親父の気に入る奴隷を作ってんだ…それを横からちょっかい出すんじゃねぇ」
 庵が低い声で、伸也に恫喝する。
「お、俺は悪くない…悪くないんだ…こ、こ、こいつが、勝手にちょっかい出したんだ…」
 伸也は恐怖に顔を引きつらせながら、健二を指さす。
 健二は突然現れた男達が、自分が恐怖を抱く対象の2人を、秒殺する様を悪夢のような気分で見ていた。
(おい、おい、おい…マジかよ…。何なんだこいつら…、俺…とんでも無いのに手を出したの…)
 稔は健二を見詰め、伸也に視線を戻すと
「今回は信じましょう…。次は覚悟して下さいね…僕は実験を邪魔されるのが、一番嫌なんです」
 人形のような顔を向け、静かに伸也に告げた。
 伸也は何度も肯いて、許しを請う。
 服装を直し、逃げ出そうとする伸也に
「そいつも連れて行ってやれよ…。医者に診せないと…死ぬぞ…」
 庵が伸也に言うと
「そこのハゲ、そんな事をしても、元には戻りませんよ。貴男も手伝って上げて下さい…耳はそのままで…。鏡を見るたび反省して下さいね」
 稔が、自分の落ちた耳を、元の場所に押しつけ、戻そうとする、谷に告げた。
 2人は稔達に言われた通り、東を担ぐとその場から、逃げ出して行った。
 部屋に残ったのは、気絶した美香と、恐怖に引きつる健二と、無言で健二を見詰める稔と庵の4人に成った。

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