夢魔
MIN:作

■ 第9章 虫(バグ)14

「常習性は?」
 稔は矢継ぎ早に聞くと
「す、少し有るそうです…」
 健二が躊躇いながら答える。
 すると、稔の首が縦に動き、庵が手の中で乾いた音をさせ、健二が悲鳴を上げた。
「余計な事は考えず、質問には即座に答えて下さい」
 稔が諭すように、健二に説明すると、健二は泣きながら返事をする。
「どれだけ、飲ませました?」
「に、2錠です…」
「一度にですか?」
「少し、時間をおいて…2時間は、経っていたと思います」
「それは、適正な服用期間なんですか?」
 稔は健二の答えに、少し考えながら聞く。
「い、いえ…半日は開けろと言われてました…」
 健二が答えると、稔の雰囲気が変わり、ゾクリと寒気が健二を襲う。
「半日空けなければ成らない薬を、2時間で投与したと言うんですね…何のために…?」
 稔の質問に、健二は震えながら答える。
「あ、あの…伸也さんが、連れて来いって言ったんで…それで、途中で薬が切れかけて…あの、し、仕方なく…」
 稔は健二にツカツカと近付き、右足を上げると健二の捻り上げられた肩に、踵を落とした。
 ボグンと言う嫌な音と共に、健二の肩が外れ、健二は今日最大の悲鳴を上げる。
「庵、残りも要りません…」
 稔が庵にそう言うと、庵はパキパキと残りの指も、へし折った。

 稔は庵に合図すると、藻掻き苦しむ健二に背を向け、美香の元へ駆け寄る。
「狂、車をお願いします」
 稔が狂に頼むと
「真さんが、こっちに向かってる。それより、向こうもトラブルみたいだ…」
 狂がいつになく真剣な表情で、稔に告げた。
 すると、入り口の方で、言い争うような声がする。
 庵が素早く扉を出て行き、稔も美香を抱え上げた。
 稔が部屋を出て出入り口に向かうと、若い店員と真がもめている所に、庵が声を掛ける。
 若い店員が、真に頭を下げカウンターに戻るのと、稔が出入り口に着いたのが、ほぼ同時だった。
 稔の姿を認めた真が
「かなり大変な事に成っています。取り敢えず、今は弥生が見ていますが、ひょっとしたら、入院も考えなければいけません」
 真剣な表情で、稔に話し掛ける。
「どう言う事ですか? 何が一体起きたんです?」
 稔が静かに問い掛けると
「沙希さんから電話が有りまして、梓が全身に火傷を負ったと…急いで迎えに行くと、梓は息も絶え絶えで、美紀は放心状態。電話をくれた沙希も両手と乳房に軽い火傷を負っていまして…本人も少し錯乱していたので、不本意ながら眠って頂きました」
 真は現状を的確に、稔に報告した。
 しかし、稔にはつい1時間ほど前に、別かれた3人の身に、何が起きたのか理解できなかった。
 稔は入り口を急いで出て、目の前に止めてある、黒いワゴンに乗り込む。
 全員が乗り込むと、黒いワゴンは庵の運転で、弥生の家まで急いだ。

 弥生の家に着くと、家の正門が開いていて、玄関先で弥生がオロオロと、主人達の帰りを待っている。
 庵が車を玄関先まで乗り入れると、弥生は車に駆け寄って来た。
「あぁ〜…ご主人様…お帰りなさいませ…。取り敢えず私に出来る処置は、全て行いましたが…梓さんは…病院の方に入れられた方が宜しいかと…。それに、美紀さんは私にはどうする事も出来ません」
 美香を抱き上げて、車を降りる稔に弥生が、縋り付くように報告する。
「庵、美香を頼みます、弥生直ぐにこの錠剤の成分を調べて、真さんは僕と来て下さい」
 稔は車を降りた、庵に美香を預けると、ポケットから錠剤を取り出して弥生に渡し、真を伴って玄関に急ぐ。
 狂はポツンと車の横に取り残され
「あ〜あ…俺はこう言うオフラインじゃ、ホント役立たずだな…」
 ポツリと呟くと、クルリとみんなが走って行った方と逆を向き、正門の扉を閉め始めた。

 玄関を潜りリビングに入った稔は、その惨状を見て肩を落とした。
 リビングのソファーやテーブルを片付け、3枚の布団が敷かれたその場所には、美紀・沙希・梓の3人が横に成っている。
 美紀は焦点の合っていない視線で天井を見詰め、沙希は両腕の肩から指の先と乳房に包帯を巻き、時折苦しげな声を上げ眠っていた。
 梓に至っては、首から下の全身に包帯が巻かれ、顔面は蒼白で唇は紫、額には玉のような脂汗が滲み、細く浅い呼吸をしている。
 稔より先にリビングに入っていた弥生が、奥の部屋から、もう一つ敷き布団を持って戻ってくると、梓の横に敷いて、庵がそこに美香を寝かせた。
 淫夢を見せていた5人の奴隷が、弥生を除いて全てそこに眠っている。
「どういう事ですか…これは…。説明して下さい」
 稔がポツリと呟くと
「詳しい内容は、梓と美紀が知っている筈ですが…この通りなので、沙希に聞いてみましょう」
 真が沙希の首筋に軽く触れた。
 すると、沙希が軽く唸って、目を覚ます。
 目を覚ました沙希は、軽いパニックを起こしたが、稔が落ち着いた声で話し掛けると、落ち着きを取り戻し、事情を説明し始める。
 話の途中で、狂がリビングに入ってくると
「沙希…待って下さい。狂、純に変わって下さい…この話は、彼に聞いて貰わなければ成りません…」
 話の内容を少し聞いていた狂が、頷くと目を閉じて純と入れ替わった。
「純…良く聞いて、この状態を誰が引き起こしたか…考えて下さい。沙希、初めからお願いできますか」
 沙希は頷くと、稔が出て行ってからの美紀の変貌と、風呂場で目撃した事を話した。
 沙希が話し終えると、暫く全員が黙り込み、眠っている森川家の3人を見詰める。

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