夢魔
MIN:作

■ 第9章 虫(バグ)15

 話し終えた沙希を稔はねぎらい、横に成らせると、純を見詰める。
「弥生この3人の状態を、教えて下さい…」
 テーブルの上に薬物の分析セットを拡げている弥生に、稔が問い掛けた。
「はい、沙希さんは両腕とオッパイに、梓さんは首から下全部に軽い火傷を負っています。火傷のレベルは低いのですが、梓さんは範囲が広いので、かなり心配です。どちらにも、私と真様で調合した薬を塗って居ます」
 弥生はそう言うと口ごもり
「美紀さんの状態は…私ではご説明できません…申し訳ありません…」
 稔に、頭を下げ謝罪する。
「大丈夫ですよ。良く処置をしてくれました、弥生の仕事は充分です。美紀は恐らく、自閉状態に成っています、トラウマが残るかもしれませんが、僕が何とかします」
 稔は美紀にチラリと視線を向け、純を見つめ直す。
「僕が早々に森川家を出た理由、美紀の精神ケアが出来なかった理由が、解りますか?」
 稔の固い静かな声が、純に問い掛ける。
 純は稔の言葉に黙り込み、俯いた。
「彼女が3週間、週末家に居なかった事を知ったからです」
 美香を指さし、稔が純に告げる。
「彼女が、なぜ此処で眠っているか、理解してますか?」
 稔は美香を指さしながら、更に純に問い掛けた。

 純は小さく成って、プルプルと震える。
「屑に引っ掛かって居るのも気付かず、それを僕達に黙って居たからです。彼女は、下手をすればもっと酷い事に成っていました」
 純は頭を抱えて、震えながら蹲る。
「この結果を見て、純は満足ですか…コソコソと動き回り、純の自己満足の偽善が招いた事です」
 稔が純に言い放つと、純は顔を上げて
「でも、奴隷なんて…良くないよ」
 稔に頑なに、反論する。
 稔は溜息を吐くと、首を振り
「沙希…貴女は今の状態をどう思いますか? 奴隷として、僕達に飼われる事を誓った、今の状態です」
 沙希に問い掛ける。
 突然質問を受けた沙希は、目を白黒させ俯くと
「えっと…初めは戸惑いましたが、今は幸せです。何か、心の中にわだかまっていた物が、無くなって[これが、本当の自分なんだ]って感じるように成りました。私は、奴隷になれて本当に幸せです」
 頬を染め、真剣な眼差しで稔に答えた。
「弥生はどうです」
 稔は隅のテーブルで、黙々と錠剤の成分を分析する、弥生に尋ねる。
「私も沙希さんと同意見です。私は今ものすごく充実した日々を送っておりますわ」
 弥生が作業の手を止め、稔に微笑み答えた。
 稔は純に向き直ると
「これが現状です。純は奴隷にするのは酷い事だと言いますが、彼女達は心の底で、それを望んで居たんです。これは、全ての人に対して行った、心理テストから僕が分析した結果です」
 静かに告げた。

「あっ、もしかして、学校に入った時にやった、傾向テストですか…? あの、パソコンに向かって、1時間以上も掛かった…」
 沙希が稔の言葉に、思い当たったのか口を挟む。
「そうです、あの中には本人すら意識していない物を、分析し振り分ける事が出来るだけの、機能が隠されていたんです。一人一人の設問の順番や、内容が少しづつ変わり、個人の心理の奥底まで僕は調べて、この計画に乗ったんです。これは、学校にいる教員生徒全ての者の情報も含んでの事です」
 稔は一気に説明を終えると、純に付け加える。
「僕は洗脳している訳でも、催眠で操っている訳でも有りません。それでも、酷い事だと言うのは、純の個人的な見解を押しつけているだけです」
 純は理路整然と話す稔の言葉に、グウの音も出なかった。
「純…、僕は知っているんですよ…その気弱な心の奥に、貴男が持っている物。狂と貴男の基本は同じなんです、只認めているか、目を背けているかの違いでしかないんですよ…」
 稔の最後の言葉に、純は唇を噛み、項垂れながら
「解ったよ…もう、何も言わない…何もしないよ。悪いのは僕なんだ…ごめん…」
 そう言って、バッタリと俯せに倒れ込んだ。
 沙希と弥生がその唐突さに驚くと、純の身体がムクリと持ち上がり
「これで、暫くあいつ出てこねぇぞ…、学校どうすんだよ…。俺、嫌いなんだよ純の真似するの…」
 ボリボリと頭を掻きながら、不機嫌そうに狂が呟いた。
 稔が狂に何か言おうとした時、弥生が薬の分析を終えた。
「ご主人様…分析は終えましたが…。これでは、薬の用途や毒性までは判断できません…どこかの、データーベースにアクセスしないと…」
 弥生が稔に、検査結果をまとめた紙を手に、おずおずと伝える。

 稔は弥生からその紙を受け取り、目を通すと
「余り良い予感はしませんね…狂働いて下さい…」
 紙を弥生に戻しながら、狂に告げた。
「良いけどよ…ここには、端末が無いぜ…」
 狂は首を鳴らしながら、稔に答える。
 稔は黙ってリビングの隅の、アタッシュケースに向かい、黒い鞄を手に戻って来た。
「あっ! てめぇ、無いと思ってたらこんな所に、持って来てたのか。勘弁しろよ、俺の宝物だぜ…」
 稔は鞄を狂に差し出し
「黙って持って来たのは、謝りますが…ただの、ノートパソコンでしょ? 少し大げさ過ぎませんか」
 すると、狂は目を剥いて、鞄をひったくり
「ば、馬鹿野郎! これは、俺が国の仕事をやった時の報酬だぜ! 俺の仕事の相場知ってるだろ? これ一台でその値段だ」
 稔に怒鳴ると、庵が驚いて
「そ、それ1台で10万$越え…、有り得ねぇ…」
 ボソリと呟いた。
「素人がおいそれと使って良いモンじゃねぇって事だよ…。弥生ネットのケーブルはどこだ」
 狂は鞄を大事そうに抱えて、弥生と弥生の部屋に向かった。

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