夢魔
MIN:作

■ 第10章 朧夜3

 その夜は妙に月の明るい夜だった。
 俺は無断で使われた愛機を手に、ソファーに陣取った。
 稔の野郎が妙に見透かした、人選で俺に弥生を割り当てる。
 そもそも、あんな従順な女に、俺の羞恥でどうこうしろって言うのが無理だろ?
 この間の、ファミレスだって及第点の反応だったし…。
 俺には奉仕や、快楽を教える程の経験や技術はねぇ!
 全く、マジでムカ付く…俺が狼狽えるのが、そんなに好きか!
 単純に使えって言うのかよ…。
 この俺に…。
 はぁ〜、頭痛ぇや…。
 俺が膨れっ面を晒してると、弥生の奴が心配そうに覗き込んでくる。
 綺麗な顔立ちに、少しきつめで酷薄そうだが、その実、小動物のように気弱で、虐め甲斐がある、いい女だ。
 だけど、稔と真さんに教育されたんだから、そこら辺の風俗嬢なんか、比べ物に成らない筈だ…。
 特に真さんなんて、人間の身体じゃねぇ…、殆どSEXサイボーグの域に達してる。
 そんなのと、比べられた日にゃ、自信なんて持てる訳ねぇって…。

 俺がその日、何度目かの大きな溜息を吐くと
「今日は身体の弱っている者も居ますんで、食べやすい鍋にしました…囲炉裏の方に行きますから、稔さんも移動して下さい」
 庵が寸胴を持って、居間に小走りに駆けてゆく。
 俺がソファーから立ち上がると、弥生は不思議そうに俺の事を見上げていた。
「なんだよ…俺の顔に何か付いてるのか…」
 ぶっきらぼうに俺が聞くと、弥生はフルフルと首を振り
「いえ…以前学校でお見掛けした時とは、言葉も顔つきも違うなと、思いまして…」
 弥生が俺を見詰めて、不思議そうな顔をする。
「ああ…そりゃ、純だ…。俺とは、この間のファミレスが初対面の筈だ…」
 俺がファミレスの話を出すと、弥生の顔が途端に赤く染まる。
「なんだ、恥ずかしいのか? あんなに大胆だったのに…」
 俺が問い返すと、弥生は更に赤くなり
「あ、あれは…ご主人様に命令されて…仕方なく…。は、初めてだったんです…人前であんな格好…」
 弥生はモジモジ恥じらいながら、俺に告白する。
 正直たまらねぇ…、この恥じらいが女の命だと、俺はマジに思ってる。

 俺は機嫌を直して、晩飯の待つ居間に弥生を連れて、移動した。
 俺の横には、稔が陣取り既に、庵から丼を受け取っていた。
(やべぇ! 急がないと、晩飯抜きになっちまう!)
 俺は急いで、小鉢を手にしようとしたが、弥生が俺より先に小鉢を庵に差し出した。
(こいつ本当に気の付く女だな…。飯も焦るこたぁ無かった、庵の仕切りなら食いっぱぐれる事はねぇな…)
 庵は稔との食事も慣れているし、全体を見渡す能力も、半端ねぇ…
 俺は安心して、弥生が差し出す、小鉢の鍋を食べ始めた。
 俺の上機嫌を、稔の奴が潰さなきゃ、ホントに良い雰囲気だった。
 俺がムカ付きながら弥生にも飯を食わせると、信じられない事を目にした。
 俺と庵が驚いた理由を、2人で話してたら、稔の野郎が降参したのは、気持ち良かった。
 そんな食事も、稔が寸胴の8割を平らげ、20分程で終わる。
 20分間稔の目の前に、食い物が有ったのは、多分稔も意識してペースを落としたんだろう。
 俺はたらふく食えたから、文句はねえが弥生は、余り食って無い筈だ。
 まぁ、弥生の食事量を知らない、俺が判断する事じゃないがな。

 取り敢えず腹を満たした俺は、2階に上がり一休みするつもりで立ち上がると、稔が弥生に何か耳打ちしてる。
(この野郎…お前が割り振ったんだろう…俺の女にちょっかい出すんじゃねぇ)
 俺は、自分で言うのも何だが、独占欲と支配欲が異常に強い。
 俺の持論だが、それが無いと俺みたいに羞恥調教が好きな者は、成り立たないと思ってる。
 自分の女を見せびらかして歩くんだから、それが有って当然だとも思うし、無い奴では楽しめない。
 まぁ弊害として、嫉妬深さも出てるんだが、それは[純]の基本的な性格の、ひがみ根性から来てるんだろ。
 そんなんで、俺は自分の女にちょっかいを出されるのが、大嫌いだ。
 途端に機嫌が悪くなる俺を見て、弥生が急いで稔から離れる。
(もう、おせぇよ…)
 コロコロ変わる俺の態度に、弥生はかなり戸惑った顔をしてるが、情緒の安定した、人格分裂症患者なんか、聞いた事ねぇだろ?
 背中を向けて、スタスタ歩く俺の後ろを、弥生が済まなさそうな顔で付いてくる。

 部屋に付くと俺はそのまま、ベッドの上に寝ころんだ。
 弥生はベッドの下に平伏すると
「申し訳御座いません、ご主人様…あ、あの…稔様にご主人様から教わる事を、聞いていたもので…お許し下さいませ…」
 俺に必死に謝りだした。
「稔は何て言った…」
 俺はベッドに横に成りながら、天井を見詰め弥生に質問する。
「はい、ご主人様は羞じらいや、羞恥に染まる顔が好きだとお聞きしました…。それを、忘れないようにするのが、狂様の調教だと…」
 弥生は稔に耳打ちされた内容を、俺に話す。
「それだけか…」
 俺が更に問い質すと
「いえ、狂様がお笑いに成られるのが、羞恥のバロメーターで、羞じらいを忘れた奴隷は、ただの人形だと…人形になると、扱いも変わりますと宣言されました。どうか、弥生の表情でお楽しみ下さいませ…弥生に羞恥の心をお教え下さい…」
 弥生はブルブルと震え、俺に謝る。
(けっ…稔の野郎…、俺のツボを心得てる…。俺の判断で、奴隷の処遇を決める脅しを掛けるなんてな…。そこら辺が、やな奴なんだよ…しれっとしやがって…)
 心の中で、稔に文句を言っても、顔はニヤリと緩んでしまう。

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