夢魔
MIN:作

■ 第10章 朧夜4

 俺はベッドから上体を起こすと、身体を回して、へりに腰を掛けた。
「それだけじゃねえだろ…あいつの事だから、俺は気分屋だとでも言ってたろ」
 俺の質問に、弥生は頷いて
「はい…直ぐにご機嫌が変わるので、側にいる間は常に緊張しろと仰せつかりました…」
 素早く俺に答えを返す。
「俺はよ、真さんみたいに大人じゃねえし、稔みたいに鈍感でもねぇからよ…。繊細なんだ…そのつもりで接しろ…俺にあてがわれたら、俺だけに集中しろ! もしそれで、他の奴が文句を言ったら、俺が守ってやる」
 弥生に俺の担当に成った時の、心がけを教えると
「はい、解りました、ご主人様」
 弥生は平伏した頭を、更に下げて頷くと、返事を返してきた。
「顔を上げろよ…今のお前を見せろ…」
 弥生が顔を上げると、弥生の顔は不安でいっぱいだった。
 まぁ、弥生に取っちゃ今の俺は[気難しいご主人様]以外の何物でも無いしな、当然と言えば、当然だわな。

 俺の命令を聞いた弥生は、身に着けていた白衣を脱ぎ始める。
 俺を正面から見詰めボタンを外し、胸元に手をやると、景気よくデカイオッパイをさらけ出す。
 俺はその一連の動作で、頭を抱えた。
「馬鹿か…弥生…俺の言った事、まるっきり理解してねぇな…」
 弥生はキョトンとした顔で、俺を見詰めている。
(あぁ〜あ…こいつも、馬鹿な主人に毒されてる…、全くよ〜っ…常識がない奴は、あてにならねぇ…)
「弥生…おまえ、今脱いだ時何で脱いだ? …」
 俺の質問に、弥生が首を傾げながら
「は、はい…あ、あの…ご主人様に、見せろと言われたからです…」
 おずおずと戸惑った声で答える。
「だよな…だけどよ、肌を晒す事が恥ずかしい事だとも、思って居なかったよな…」
 俺の質問に、梓はハッとして頷いた。
「それが、麻痺しちまってるんだ…神経がよ…。そこが、麻痺すると人間じゃ無くなっちまう…犬猫と一緒だ」
 俺の言葉を聞いて、梓が大きく頷き
「た、確かにそうです…私は、今服を脱ぐ時、全然恥ずかしく無かったです…。と言うか、考えても居ませんでした」
 俺の言葉に同意して、考え込む。

 俺はタップリと、間を取って
「良いか…命令を実行するのと、羞恥を感じるのは、別問題だ…羞恥心が無くなると、人じゃ無くなっちまう…それを理解しろ…」
 おずおずと首を縦に振り、納得する弥生に、俺は言葉を続ける。
「それによ、羞恥心が有ると無いとじゃ、お前の身体の反応も変わってくる。段違いにな…」
 俺は弥生に説明すると、弥生にもう一度白衣を着るように、指示する。
 弥生は、床に落とした白衣を拾い上げ、身に付けた。
「弥生目を閉じて、俺の言う事を頭の中で想像しろ…」
 弥生が服を着ると、俺は弥生に命じて目を閉じさせる。

 弥生は俺の指示に従い目を閉じて、俺の声に耳をそばだてた。
「理解しろ…裸になる事は、例え誰の命令でも恥ずかしい事を…」
 弥生はコクリと頷き、俺の言葉を頭で反芻する。
「想像しろ…恥ずかしいと思う事を、自分の嫌な事を乗り越えて、主人の命令に服従する自分を…」
 弥生の瞼がピクピクと動き始める。
「感じろ…自分の恥ずかしいと思う心と、主人の命令に従いたいと思う心のジレンマを…」
 弥生の身体が、ピクリ、ピクリと小さく跳ねる。
「心の位置を落ち着けたら、目を開いて…脱いでみろ…」
 俺の命令を受け、目を閉じて俯いていた、弥生は暫く動かずにいた。
 その弥生が、ユックリと頭を持ち上げ、目を開いて俺を見詰める。

 弥生の頬は、薄く上気し濡れた瞳で俺を見つめ、震える指でボタンを一つずつ外し、胸元にソッと手を添えると、一度持ち上げ襟首を抜き、ユックリと肩から滑らせて成るべく肌を隠すように脱ぎ、身体から白衣を外すと、両手でオッパイと恥丘を押さえ、一呼吸置いて手を身体の横に持って行く。
 その間の弥生の表情も、仕草も、身体の反応も、俺には申し分なかった。
 俺を驚きの表情で見詰める弥生に、質問した。
「で、どうよ…その顔だと、俺の言った意味、納得できたろ…」
 弥生は大きく頷いて、俺に擦り寄り
「す、凄いです…確かに、恥ずかしさを感じるだけで、何かこう…身体の感じ方が変わりました」
 弥生は驚きの表情を浮かべ、俺に報告する。
「へへへっ…俺も、見てて色っぽさを感じたぜ…それが艶の一つだ…。で、まだ具体的に変化が有ったろ…隠すんじゃねぇ」
 俺が質問すると、弥生はモジモジと俯き
「は、はい…あ、あの…。服を脱いだだけなのに、オ○ンコが溢れちゃいました…」
 真っ赤な顔をして、俺に告白する。

 俺はニヤリと笑って
「そうだろうな、弥生ぐらいマゾッ気が有ると、心のジレンマを乗り越えた時、かなりの快感を感じたはずだ…」
 弥生に言うと、弥生はブンブンと首を縦に振り
「はい、凄く感じました!」
 大きな声で、俺に同意する。
「俺はな、思うんだけど、真さんや稔の調教は、言ってみれば身体本体を鍛える、料理で言えば素材…具だな。だけど、俺のは気持ちの位置、料理で言うスパイスだ。これが、ちゃんとしてないと、同じ物でも味…感じ方が全然違う。男も女もだ…」
 弥生は[ほー]と感心しながら、首を何度も縦に振り納得した。
「全部がそうだぜ。羞恥心が無い奴隷何てよ…畜生と同じだ。何の価値もねぇし、道具にしかならねぇ…お前そんなのに成りたいか? 俺は嫌だね、そんなのを側に置いとくの」
 俺が、そう言うと
「私も、ご主人様に仕えるなら、物として使われるのは嫌です…。ご主人様が望まれるならまだしも、自分から進んでは出来ません」
 弥生が必死な顔で、俺に縋り付く。

 俺はニヤリと笑って、弥生の目を覗き込み
「だから、俺がそれを仕込んでやるんだよ…。奴隷の羞恥心と反応の仕方を…」
 弥生の顎を掴んで告げると、弥生は必死な顔で、
「よろしくお願いします、ご主人様…」
 頬を染めながら、敬意を込めて俺の名を呼んだ。
 窓から差し込む、明るい月明かりが弥生の顔を照らす。
 妙に赤みのかかった月が、窓の外でユラユラ揺れていた。
 その明かりに照らされた、弥生の顔は色っぽく、蠱惑的だった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊