夢魔
MIN:作

■ 第10章 朧夜11

 梓は真に貫かれ、その足を真の腰に絡めると、押し寄せる快感に身体が震え上がる。
(な、何…これ…、何かが、身体の中を…回ってる…熱い…くぅ〜っ…)
 全身を奔流のように、何かが駆けめぐり、身体の端々にまで染み込もうとする。
 梓は目を大きく見開き、口をパクつかせ必死に、何かを訴えようとするが、一切の声が出なかった。
 快感が暴れ回り、梓は身体がバラバラに成りそうな錯覚を覚える。
 そこに真の口から流れる、真言の不思議な音律が、梓の耳に届いた。
 梓の耳から入った真言の音律は、梓の身体の中で共鳴し、広がり、梓を満たす。
 途端に暴れていた快感が、押さえ、宥められ、統制される。
 ここまでの時間は、およそ5秒も無かったろうが、梓には何10分にも感じられた。

 そして、統制された快感は、梓を一匹の獣に変えた。
 真の真言の音律にクネクネと操られる、一匹の蛇。
 梓自体も全く意識していない、いや意識自体無かったのかも知れない。
 固く目を閉じ、真の首に縋り付いて、自分の舌の届く範囲、全てを舐め尽くそうという勢いで、舌を這わせる。
 白い包帯で覆われた、足、腰、腹、胸、腕全てが、クネクネと揺れ動き、真の身体にまとわりつく。
 真の真言が、高く低く響いて、全体にリズムが生まれ、怪しげな音楽のようになる。
 徐々にリズムが早くなり、一際大きな言葉を真が発すると、梓の身体が雷に打たれたように震えた。
 真言はそこで終わり、真が大きく息を吐いて、梓を膝からおろすと、梓はクタッと力なく横たわり、真を見詰めている。
「良かった…失神は我慢…出来たんですね…ふぅ〜っ…」
 大汗をかいた真は、いつもの1回りぐらい小さくなって、肌の張りも艶も無くなって居た。

 時間にして10分ぐらいのSEXで、真は萎んでしまった。
 その形容詞が、ピッタリな程、真の身体は小さくなっている。
 反対に、床に横になった梓の血色は、見違える程良くなっていた。
 今の梓は、力が無くなって居るのではなく、感覚が追いついて行かず、自分の身体をどう動かして良いか、解らない状態だった。
「し、真様…これって…どう成ってるんですか…」
 火傷を負ったはずの自分の身体が、嘘のように軽い。
 梓は目を見開き、真の変わり様を見詰める。
「私の気を送り込んだんです…無理しないで下さい。今は、風船がパンパンに膨れてるのと同じ状態です、無理をするとパンって破裂しちゃいますよ…」
 真がニッコリ笑って、梓に話した。
 梓は真の足に縋り付き
「有り難うございます…有り難うございます…」
 何度も感謝の言葉を呟き、涙を流し続けた。
 真は、そんな梓の頭を優しく撫でながら、黙って見下ろす。
 どこまでも怪しげで、どこまでも優しい怪人、それが真だった。

 もう一つの2階の部屋では、沙希が満面の笑みでベッドに横たわっている。
 そのベッドの横に、椅子に座った庵が仏頂面で沙希を見下ろす。
「早く寝ろ…明日も、調教は有るんだぞ…」
 庵の言葉に、沙希はシーツを引き上げ、目から上を出してジッと、庵を見詰めた。
「いい加減にしろ…、お前おかしいぞ? 何で、俺にそんな目を向けられるんだ?」
 庵が堪らず、沙希に向かって怒鳴ると
「庵様…沙希の事嫌いですか?」
 沙希が悲しそうな目を向け、庵に問い返してくる。
 庵は沙希の質問に、面食らった。
 自分が予想していた答えと、沙希の答えに、余りにもギャップが有ったからだ。
(ば、馬鹿野郎…なんて事聞いてくるんだ…お前稔さんが好きなんだろうよ!)
 庵は、グッと言葉を飲み込み、沙希の質問に答えなかった。
 沙希は庵が何も答えずにいると、眉根の間に皺を寄せ
「庵様〜…ちゃんと答えて下さい〜」
 ベッドの中で身体を揺さぶり、駄々を捏ねる子供のような仕草を見せる。

 庵は一つ溜息を吐くと
「別に…俺はお前の事を、何とも思っちゃいない…好き嫌いの対象じゃない…」
 沙希にぶっきらぼうに答えた。
 すると、沙希はクスクスと笑い始める。
「な、何だ? 何がおかしい…」
 庵が沙希に狼狽え気味に問いかけると
「ほら…直ぐに嘘だって解る…。庵様って嘘がつけないタイプでしょ…」
 沙希は悪戯っぽく笑って、庵に質問した。
 庵は沙希にカマを掛けられた事を知り、仏頂面に戻って
「いい加減にしろ…俺は、奴隷にからかわれて、笑ってられる程心は広くない…」
 沙希に言い放った。
 沙希は途端に、シュンとして視線を庵から外すと
「ご免なさい…申し訳ありませんでした…お許し下さい…」
 拗ねたように、庵にわびる。
「もう良い…もう良いから寝てくれ…。俺も今日は色々有って疲れた…」
 庵が沙希に言うと、沙希は布団を剥ぐって
「じゃぁ、ここでお休み下さい」
 急に表情を笑顔に変えて、庵を誘う。

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