夢魔
MIN:作

■ 第11章 計画2

 弥生が驚いて、稔に視線を向けると
「僕達のような性癖を持つ者は、それを公表して相手を探す訳にもいきませんし、嗜好も幅が広いです。それに、自分の性癖に気付かずに、抑圧している者も多い。そんな者の為にパートナーを供給する、ネットワークを作るのが目的なんです」
 弥生に向かって稔が語りかけ、他の4人にも視線を向ける。
 3人の女が[ホー]と頷く中
「それって、かなり危険な事じゃ有りませんか? マゾに目覚めさせられたくない人は、どうすれば良いんですか…」
 弥生が養護教員らしい正当な発言をする。
「その点も、キチッとフォローを考えています。嫌な方には、完全に無かった事にしますし、擬似的な記憶を与え、転校や卒業までの隔離、その他にも色々準備はして有ります」
 稔が弥生に対して明確に答える。
「そこまでして、学校全体を巻き込む必要が有るんですか?」
 梓が問い掛けると、
「僕は嗜好的に幅が広いと言いましたが、サンプルデーターを取るためにも、実験の分母を増やす必要があったし、理事長の依頼でもあるので…」
 稔が言葉を濁しながら答える。
 すると、途端に狂の表情が曇り[ケッ]と吐き捨てながら、そっぽを向く。
 この5人の中で、その行動の意味に薄々感づいたのは、弥生だけだった。
(あの理事長の依頼…余り良い噂は聞かないけど…何か有るのかしら…それにしても、狂様の反応が気になるわ…)
 弥生は、狂の極端な態度の変化に、理事長に対する狂の反感を感じた。

「あの〜…私達、洗脳された訳じゃないんですよね…なのに、どうして急にこんな風に成ったんですか?」
 美紀がおずおずと、質問する。
「専門的な理論や知識を説明すると長くなるから、解りやすく説明するね。人間の脳波は、有る一定のサイクルを持っていて…」
 稔が説明を始めると、
「そこから説明して、誰が理解できるんだよ…学者馬鹿…。俺が説明するよ…どけ」
 狂が稔の話を止め、庵に合図を送る。
 すると、庵は弥生の部屋に入り、黒いビデオデッキ位の大きさの箱を、手にして戻って来た。
 庵がそれを5人の女の前に置くが、5人は一向にその箱に視線を向けようとしない。
「ああ、そうか…。稔…見えるようにしてやれ…」
 狂がそう言うと、稔が前に進み
「全ての物は、有るがままに感じ、有るがままに見なさい…」
 女達に告げて、指を鳴らした。
 女達がビクリと震えると、目の前に突然現れた黒い箱に驚く。
「こいつは音響誘導装置、庵が作った機械で、これから特殊な周波数の音が出て、お前達の脳を欲望や願望が出やすいようにしたんだ。理論は稔が考え、俺はこの中の制御プログラムを担当して、純が音の周波数と音源を調べたんだ、まあ、俺達の合作だな…。お前達の脳が願望を受け入れ易い状態に成った後は、インターネットでお前達の好きなプレーを探させて、自分でドンドン目覚めて行ったって寸法だ。解った?」
 狂が驚いている女達に、要約を説明する。
 美香を除く4人はポカンと口を開け、狂の説明に頷いた。

 沙希が勢いよく手を挙げて、質問する。
「はい、はい。い、今急に出てきた箱が、私達を誘導したんですか? って言うか…今のは手品…?」
 沙希の質問に、狂がニヤニヤ笑いながら
「今のは、手品でも何でもない…稔が、これを見えないように、暗示を掛けてただけだ。実際は、1年前からお前達の寝室…ベッドの下にずっと置いて有ったんだ」
 狂が稔を指さし答えると、女達は一斉に[え〜]と驚いた。
「1年前…そんな前から、これが家に有ったなんて…。で、でも、いやらしい夢を見るようになったのは、ここ1〜2ヶ月ですよ…」
 弥生が聞き返すと
「それは、データーの収集の期間に使っていたんです。始めから、どの脳波の状態の時に、願望が出ているか解らなかったので、脳波の形態と寝ている状態を摺り合わせて、色々とデーターを集めていたんです」
 稔が身を乗り出して、説明する。
「寝ている状態…それって、私達の…ですか?」
 梓が怪訝そうな顔で、質問してくる。
「そうですよ、貴女達の寝室には、平均7台ぐらいの監視カメラと、集音マイクが仕掛けられています。庵の手によってね」
 稔が当然と言わんばかりに、梓に答えた。
「え〜〜〜〜っ! それじゃ、1年間ずっと私の部屋での事、見て聞いてたんですか〜〜〜?」
 沙希が飛び上がって、質問すると
「はい、全部です。沙希の告白の練習も、美紀のラブレター作成も、梓や弥生のオナニーも全部見ていました」
 稔が平然と答える。

 その言葉を聞いて、狂は片手で両目を押さえ[馬鹿…]と小さく呟いた。
 稔を見詰める、女達の目に怒りが込み上げていた。
「ご主人様…それは、盗撮ですわ…」
「酷い…1年間も覗いてたなんて…」
「全部見られた…全部見られた…」
「そんな…あんな事見られるなんて…」
 梓・弥生・沙希・美紀が口々に稔に抗議する。
(あ〜あ…やべぇ〜事に成りそう…)
 狂はソーッと稔と女達の間から、自分の身体をずらし始める。
 稔はプライバシーを侵害したことに対して、何も悪意は持っていなかった。
 むしろ、実験対象の監視は、当然のことと思っていたのだ。
 そんな、意識の差を、庵が素早く埋める。
「悪かったと思っています。貴女達を覗いていたのは事実だし、許されるべき事ではないって言うのも解ってる。稔さんの言い方が、悪いのはこの後で、理解して貰えるはずだ。沙希…お前は知って居るんだから、ボーッとしてないで、フォローぐらいしろよ…」
 庵に名前を呼ばれた沙希は、ビックリして自分の顔を指さし、少し考えた後
「あ、そうか! すいません庵様…そうですね、全部知ってるの、私だけ何ですもんね…」
 ブンブンと、顔を立てに振り何度も頷く。
「あ、あの…多分稔様は、私達の保護のために、監視カメラとマイクを置いたんだと思います。稔様には、私達が恥ずかしいと思う事には、正直興味は無かった筈なんです…と思います…」
 女達に向かって、稔を擁護した。

 同じ盗撮された被害者の沙希の言葉に、女達は驚きを隠せないで居た。
「えっと…こっから先は、私が話す事じゃないんで、遠慮しますが…稔様を許して下さい」
 沙希はそう言うと、ペコリと頭を下げる。
 沙希の言動に完全に毒気を抜かれた3人は
「そ、そんな…許すなんて…私、最初から怒っていません…」
「私も、そんな恐れ多い事…」
「私は、恥ずかしかっただけで…何にも…」
 口々に言い訳して、言葉を濁した。

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