夢魔
MIN:作

■ 第11章 計画7

 真がリビングに戻って来ると
「美香を預かって行きますね」
 一言だけ言って、美香を連れて、直ぐに出て行った。
 美香が居なくなった、リビングは誰も、口を開く者が無く静寂に包まれる。
 それに、真っ先に耐えられなく成ったのは、沙希だった。
「み、稔様…さっきのは…一体何ですか? 上郷先生、どう成ったんですか?」
 沙希はまくし立てるように、稔に質問する。
 美紀も稔に向き直ると、稔の答えを待った。
「あれは、僕も良く分からないんですが、真さんの秘術で、体内の気を吸い取られた後です。梓も一度あれをされてますよね?」
 稔が2人に説明し、梓に聞くと
「はい…、私は直ぐに元に戻して頂きましたが、凄い疲労感で、何もする事が、出来ませんでした」
 自分の肩を両手で抱きしめ、ブルブルと震える。
 美紀はそれを見て、ハッと気付いて
「私も、あんな風に成るんですか?」
 稔に泣きそうな目を向けた。

 稔は美紀を見て、頭を撫でながら
「恐らくあそこまでには、成りません…。何度か見ましたが、あれはかなりの量を吸い出したようですから…。多分美紀に負担が掛からないように、弥生が気を遣ったんでしょ…」
 ニッコリ笑って、美紀の不安を和らげる。
 美紀はリビングの奥に有る、弥生の部屋を向き、ペコリと頭を下げ
「ごめんなさい、上郷先生…有り難う御座います」
 感謝の言葉を、心から告げた。
 美紀にとっては、それを言わなければ収まらない程の、恐怖だったのだ。
 美紀が震えているのを見て、沙希が話題を変える。
「稔様は、ハーバード大学を、ご卒業されたんですか?」
 沙希の質問に、稔は平然と
「ええそうですよ…、医学部卒業です。それが?」
 何でもないように、答えた。
 稔の答えに、2人は更に驚き
「い、医学部〜」
 声を揃えて、聞き返した。

「あれ? 知りませんでしたか…、雑誌に載った時、出ませんでしたかね…」
 稔がポリポリと鼻の頭を掻いて、2人に答える。
 すると、そこに梓が
「稔様…普通の女子高生は、サイエンスは読まないと思います…」
 ソッと耳打ちした。
「そうか、殆ど専門書ですものね…、梓はいつ気が付いたんですか?」
 稔が、梓に質問すると
「はい、今朝に成ります。私の勤める、病院長が褒めていた事を思い出して、調べると直ぐに出て参りました」
 直ぐに、梓が答えを返す。
 稔は梓の答えの中に、病院長の名前が入っていたのを聞いて
「と言う事は、病院長は僕の事を知っている? そう言う事ですね…」
 意味深な質問を、梓に返すと梓の返事を待たずに、物思いに耽り始めた。
 梓はそんな稔を、ジッと見詰めながら、それが自分の相手になる事を、薄々感づく。
「僕のを、知らないんだったら、あの2人も大学も、知らないでしょ…」
 稔は、考えをまとめたのか、話を切り替え3人に告げる。
 稔の言葉に、沙希と美紀が食いついて、頭を縦に振ると、2階から足音が聞こえた。

 稔の答えを聞く前に、美香がリビングに降り立った。
 その姿を見て、美紀と沙希は溜息を漏らした。
 先程の、弥生とは真逆で、その肌は内側から光っているのでは、と思う程瑞々しく輝き、素晴らしい色香を放っていた。
 その清楚な容貌にたたえられた、うっすらとした笑みが、神秘的にすら感じさせる。
(お姉ちゃん…綺麗…)
(美香さん…綺麗…)
 2人は自分の口が、ポカンと空いているのも気付かず、美香の姿に見とれていた。
 真が美香を送り出しながら
「美紀から吸い取る必要は、無いみたいですね…充分、今有る気の量で、まかなえます。さあ、沙希行きましょうか」
 稔に告げて、沙希を手招きする。
 するとその言葉に、
「真様…私も体験させて下さい!」
 美紀が前に進んで、懇願した。
 美紀の申し出に、真は困ったような顔をするが
「済みません真さん、美紀の場合は拡張も必要だったので、お願いしたかったんですが…駄目ですか?」
 稔の申し出に、頷いて
「そう言う事なら、構いませんよ…、私も少し分けて頂いて、弥生を治すとしましょう」
 にこやかに微笑んで了承した。

 稔は、美香を布団の上に座らせると、準備した器具を、美香に取り付け始める。
 そんな準備を始めた稔の背中に、真に連れられた、美紀と沙希が質問した。
「稔様、さっきの答え教えて下さい」
「狂様と庵様の卒業した大学〜」
 2人は気になって仕方がない、と言わんばかりに、訴える。
 稔はそんな2人に、背中越しに一言だけ言った。
「M・I・Tです」
 廊下に出かかった2人は、答えを聞いて、揃って[え〜〜〜〜っ]と叫んでいた。
 稔の横にいた、梓も口を押さえて、驚きを隠せなかった。
 廊下で大きな声を出す、沙希と美紀に
「静かにして下さい…弥生が眠って居るんです…」
 真が珍しく厳しい表情で、唇の前に人差し指を立て、注意する。
 2人は両手を口に当て黙ると、首を縮めて
「済みませんでした…」
 小声で謝った。
 2人は、真に連れられて2階の客間に向かう。

■つづき

■目次2

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊