夢魔
MIN:作

■ 第12章 幕間9

 美紀が電話を掛け、5回目のコール音で携帯がつながると
『もしもし…工藤ですけど…どちら様ですか…』
 か細い声で怖ず怖ずと、電話が繋がった。
「もしもし! 美紀です。森川美紀です…」
 美紀が電話口に、自分の名前を叫んだ。
 すると、しばらくの沈黙の後
『んだ…何で、お前が俺の携帯の番号知ってるんだ? …何の用だ、俺は忙しいんだよ』
 狂がぶっきらぼうに、美紀に答えた。
 美紀は急な狂への変化に、面食らいながらも必死で食い下がる。
「あ、あの、あのですね…パソコンで大変な事が起きちゃったんです! お願いします狂様! 助けてください」
 美紀がまくし立てると
『あ〜! うるせ〜…何だよ、何が起きたって…言ってみろ…』
 狂がトーンダウンし、美紀に話を促した。
 美紀の顔が途端に明るくなり、狂に状況を説明すると、狂が話の途中で笑い始め
『馬鹿じゃねぇか? それ、典型的なワンクリック詐欺だよ…ったく…。ちょっと待て…セキュリティー掛けてた筈だぞ? 右下に有る、盾のマークどう成ってる?』
 狂が美紀に聞くと、美紀はパソコンのモニターを見て
「解りません〜どれですか〜…」
 泣きながら、狂に告げた。

 電話口で狂は、美紀の涙声に辟易し
『誰か側にいるか…居たら変われ…』
 美紀にぶっきらぼうに告げる。
 美紀は美香に携帯を差し出すと、電話を引き継ぎ美香が変わる。
「変わりました、美香です」
 美香が電話に出ると
『おう、初めてまともに声を聞いたな…俺は、狂だ! で、どう成ってるんだ? さっぱり要領を得ねぇ…』
 狂が質問を幾つかして、美香がそれに答えると
『まったく、何でそんな事…わーった。今から行くけど、場所は?』
 狂は投げやりに、美香に聞く。
「はい、森川の家になります」
 美香は素早く答える。
『3分待ってろ…そのまま触るなよ』
 そう言うと、携帯を切った。
 美香は切れた携帯を、美紀に渡し
「今から来てくれるんですって。3分後に来るから、パソコン触るなですって…」
 少し呆然としながら、美紀と沙希に話した。
「え〜! ど、ど、ど、どうして? 狂様でしょ? そ、そ、そんな〜」
 余り、良いイメージのない、沙希が狼狽え始める。

 そんな沙希の狼狽に引き摺られて、美紀が狼狽え始めた。
「狂様がここに来るんでしょ? どうしよう…、ねえ、お姉ちゃん格好は? やっぱり首輪した方が、良いのかな?」
 美紀の質問に、美香はハッとして
「そ、そうよね。ご主人様を呼んでおいて、こんな格好で、お出迎えなんて…やっぱり駄目よね?」
 沙希に問い掛ける。
「で、でも…狂様は、裸より脱がせる方が好きみたいだし…う゛〜ん…分かんない!」
 沙希は暫く考え、答えを放棄した。
 3人はお互い慌てふためき、[どうする? どうする?]と相談していると、階下からチャイムの音が響く。
 3人はその音を聞き、ビクリと震え[来た〜…]と情けない声を上げた。
 しかし、その後の行動は、3人とも異常に早かった。
 部屋を飛び出し、階段を転げ落ちるように下りて、玄関の上がりがまちに正座すると、誰が扉を開けるか、目配せし合う。
 そうこうする内に、2度目のチャイムが鳴り、年長者の美香が扉を開けさせられた。
 扉を開けると、狂が一言[おせーぞ!]と言いながら、玄関に入り
「どのパソコンだ?」
 美香達の挨拶も聞かずに質問する。
「あ、あの…2階の美紀のパソコンです…」
 美香がおずおず、狂に告げると狂はズカズカと階段を上っていった。
 その後ろ姿を、3人は呆気に取られて見詰めるが、ハッと気付いて直ぐに後を追う。

 狂は迷う事無く美紀の部屋の扉を開け、机の上のパソコンに向かうと
「けっ、こんな事で、呼びつけやがって…」
 ボソリと呟き、キーボードを叩き始める。
 物の数秒キーボードを叩いた狂は何かを思い出し、ポケットからメモリーを取り出すと、パソコンに差し込み作業を開始した。
 3人には、狂がただ、キーボードを無作為に、叩いているようにしか見えなかったが、次々とウィンドーが閉まっていき、数10秒で元の画面に戻って行った。
「終わったぞ…。このフォルダーは俺のおすすめサイト、こっちは庵、こっちは真さん…これは、稔だ…」
 それぞれ、カーソールで示しながら、狂が説明すると、3人は呆気に取られて頷いた。
 そして、狂はそれだけ言うと、椅子から立ち上がり
「じゃあな」
 そう言って、部屋を立ち去ろうとする。
 呆気に取られていた、3人はそんな狂の態度に
「あ、あの〜有り難う御座いました…私達は、これからどうすれば良いんですか?」
 美紀が狂に質問すると
「別に、何もしなくて良い…架空請求や、振り込み請求が来るけど、全部無視しろ。1回来たら二度と来ねぇし…」
 そう言って、扉を開ける。

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