夢魔
MIN:作

■ 第14章 専属(梓)2

 稔はリビングに戻ると、直ぐに3人の雰囲気がおかしい事に気付き
「どうしたんです3人とも…何か雰囲気がおかしいですよ? まるで、三角関係の当事者の集まりみたいですよ」
 冗談めかして言うと、庵と沙希が弾かれたように顔を上げ
「な、何言ってるんですか稔さん! 三角関係って…、そんな事有る訳無いじゃないですか!」
「み、稔様。そんなの…そんな事有りません…、だって、だって…」
 庵は激しく否定し、沙希は言葉を途中で飲み込んでしまった。
 そんな、2人の言葉を、美香は俯いて肩を振るわせ聞いている。
 美香の肩が細かく震えているのは、込み上げる笑いを必死に押さえているのだ。
(可愛い! この2人中学生みたい…お互い意識してるのに、それを悟られたくない…ううん、どちらも気付いていないのね)
 美香は沙希だけでは無く、庵も沙希と同じ気持ちなのを知る。
(この2人…お互い自分達で意識している事に、気付いていませんね…あれだけ、周りの事に目が行く庵も、自分の事になるとからっきしです…。それに、美香も気付いた様子…ここは、美香にも静観させましょう)
 稔は頭の中で考えをまとめると、美香を呼び寄せた。
 美香は笑いを堪えるため、目の端に浮いた涙を拭いながら、稔の元に這い進む。
 その仕草を見ていた庵が
(何だ? 美香は泣いていたのか…。そうか、さっきの沈黙は、多分調教の辛さを2人で嘆いていたんだな…)
 綺麗に勘違いし、自分の気持ちを落ち着けた。

 稔は美香を呼び寄せると、梓の様子と美紀の処遇を話し始める。
「今梓は、全身筋肉痛で、2階で唸っています…、もうすぐ真さんがマッサージに向かう筈です。それが、終わるまではとても、動けませんね…。それと、美紀なんですが、存在は2〜3日忘れて下さい、今この家の飼い犬になっていますから」
 稔がそう言うと、美香が首を傾げながら
「飼い犬…? ですか…」
 稔の言葉を、聞き返した。
 その途端、沙希が思い出したのか、身体を抱えてブルリと震える。
 沙希の態度に、美香は恐ろしくなり
「稔様…あ、あの…それはどう言う事なのでしょう…」
 稔に質問しながら、擦り寄った。
「見ますか?」
 稔は事も無げにそう言うと、美香を抱え上げソファーから立ち上がる。
 そのまま美香を抱きかかえ、リビングを後にすると、中庭が見える位置まで移動し、
「あれですよ。余り顔を出さず、気付かれないようにして下さい」
 美香の耳元に囁いた。

 美香は美紀の姿を見て、息を飲んだ。
 大型の獣用の頑丈なゲージの中に、美紀が鎖で繋がれ、踞っている。
 その前には、餌用と水用のステンレスの、餌皿が2つ並んでいた。
「ああやって、飼われると日増しに惨めさが募ってゆきます。その惨めさが服従心を産み、美紀の甘さを消してゆきます」
 稔がそう言うと、美香はもう何も言えない。
 許しを請う事も、罰を和らげる事も、今の美紀にはマイナスにしか成らない事を、美香自体も気付いたからだ。
「あれは、いつぐらい続くんですか」
 美香は小さな声で、稔に問い掛けると
「さあ、いつまでですかね…。僕が見て、美紀の瞳の奥に、甘さが見えなく成るまでです」
 稔がきっぱりとした口調で、答えを返す。
 美香は[聞かなければ良かった]と言う表情で項垂れ、稔の胸に顔を埋め、稔の服を掴んだ手にキュッと力を入れる。
 天国と地獄、大好きな主人の胸に抱えられる姉と、一人庭の土の上に置かれた鉄格子で踞る妹。
 2人の処遇を分けているのは、服従心の多寡だけだった。
(私もいつ、ああなるか解らない…お慕いする気持ちと、お仕えする気持ちは混同しないようにしなきゃ…)
 美香は改めて、心に刻み込んだ。

 稔と美香がリビングに戻ると、風呂が沸いていた。
「庵、沙希を連れて先に入っていて下さい。どうやら真さんは、まだ掛かりそうですから」
 稔がそう言うと、庵はソファーから立ち上がり
「行くぞ…、立てるか?」
 沙希に向かって声を掛ける。
「はい…大丈夫です…」
 沙希は小声で庵に答えると、ヨロヨロと立ち上がった。
 庵がクルリと身体を回し、リビングを出ようとすると、沙希はその後ろに高足の四つん這いの姿勢を取り、付いて行く。
 お尻をヨタヨタと振りながら這い進む沙希は、稔の激しい責めから、まだ完全に回復していない事を物語っていた。

 2人がリビングから出て行くのを見送った稔は、美香に向き直り
「あの2人が、お互いどう思っているのか、美香は気付きましたね?」
 おもむろに問い掛けてくる。
 美香は稔の質問が余りに唐突なので、驚きながらも頷いて
「はい、庵様も沙希ちゃんも、お互い意識し合っているのに、それに気付いてないみたいなんです…。まるで中学生の恋愛みたいで…私可笑しく成ってしまいました」
 ニッコリ微笑みながら答えた。
「それは、決して貴女の口から伝えてはいけませんよ。お互いが気付かないと、多分良くない結果に成ると思います。僕の知る限り、庵は女性を自分の恋愛対象と認めたのは、初めての筈ですから…」
 美香の答えに、稔が真面目な顔で、庵の事を美香に告げる。
「えっ! それって、初恋って言う事ですか?」
 美香の驚いた声に
「まあ、そう言う事になるでしょうね…。庵は今まで、女性に対して敵意を持っていましたし、当然と言えば当然ですね」
 稔が当たり前のように答えた。
 実の母親から受けた虐待のせいで、庵はずっと女性に対して敵意を持っている。
 美香は改めて、この特殊な環境で育った、主人達の思考を理解しようと、心に決めた。

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