夢魔
MIN:作

■ 第14章 専属(梓)5

 稔の言葉に、美香と沙希が聞き入ると、稔は言葉を続ける。
「今までに庵に触れた女性が、どんな目に合ったか…僕の口からはとても、詳細は言えませんが、一人として医者の世話に成らなかった人は居ません。そんな庵に抱きついた…。僕には、到底信じられません…」
 稔が話し終えると、沙希がおずおずと
「で、でも…私…二回抱きつきましたよ? そのどちらも、庵様私には何もしませんでした…。あっ…、私庵様にだっこされて…頭撫でられました…」
 沙希の言葉に、稔がポツリと
「有り得ない…庵が、頭を撫でる…それも抱き上げた状態で…」
 考え込みながら、呟いた。

 稔が、考え込んでいると、沙希がポツリと呟くように
「庵様怒ってたけどその後、沙希の身体と頭を洗ってくれたんです。けど、それも…力任せで、とても痛かったんです…あの時も絶対怒っていました…」
 風呂場での出来事を、話すと稔の顔が更に無表情に染まる。
「庵が…沙希の身体と頭を洗った? ちょ…ちょっと待って下さい。間違ってなければ、もう一度聞きます、庵は沙希の身体に触れ、身体を洗ったて、言いましたか?」
 稔は沙希に、至極当然のことを質問した。
 沙希は首を傾げながら、不思議そうに頷くと、稔は暫く考え込み
「僕は憶測で物を話すのは嫌いです。ですから事実のみ、伝えられる事だけ教えますね」
 沙希を見詰めながら、話し始める。
「先ず第一に、庵はプレイ以外で、女性と接触した事はありません。今回沙希とお風呂に入ったのも、彼にとっては初めての事でしょう。次に、プレイ中でも、彼に許可無く触れた者は、先程も言いましたが、必ず病院送りになっています…」
 稔はジッと沙希を見詰め、沙希の反応を確かめた。
「この事から言って、庵に触れ、世話をされた沙希は…、彼にとって何か…そう、特別な存在と言っても、過言ではないと思います」
 稔がそう結論づけると、途端に沙希の顔が喜色に染まる。

 その時2階から階段を降りる、バタバタと言う足音が響き、リビングの扉を開けて真が顔をのぞかせた。
「稔君…梓のマッサージ終わったよ…もう、お風呂に入れても大丈夫だけど、今日はこの後休ませてあげてください…」
 そう言った真の顔は疲労の色を強く示し、足元がふらついている。
「悪いですが、私と弥生も今日はこれで休ませて貰います…流石に連日の気の消耗は、疲れます…暫くは、大量の気を使う事は勘弁して下さい…」
 真は自分の要件を告げると、扉を閉めて弥生の部屋に消えて行った。
 真と入れ替わるようなタイミングで、庵がリビングに戻ってくると、風呂場から出た時とは打って変わった、ご機嫌顔の沙希を見つけて片方の眉毛を上げて顔を歪める。
 稔は素知らぬ顔で、ソファーから立ち上がると
「美香、先にお風呂に入っていて下さい、僕は梓を連れて直ぐに行きますから」
 美香に指示を出して、さっさとリビングを後にした。
 美香は稔が出て行った後、庵と沙希にそっと視線を向ける。
 沙希の満面の笑顔に迎えられた庵は、どこか怒ったような、困ったような顔で一人掛けのソファーに座り、沙希から視線をそらして頬杖をついた。
 二人の態度に笑いが込み上げ、吹き出しそうに成った美香は、リビングに長居できず、そそくさと稔の指示通り、風呂場に急いだ。

 風呂場に着いた美香は洗い場に入り、その様子に驚いた。
(庵様って…潔癖症…)
 沙希がお風呂から戻って、庵がリビングに戻って来るまでに、かなりの時間が空いていたのにも十分頷ける程、お風呂は整頓されている。
 文字通り髪の毛一本落ちておらず、まるで、使った痕跡を消すように、全てがきちんと整頓されていた。
 美香がタイルに正座すると、そこに有る温もりだけが、お湯を使った事を物語っている。
 美香が周りを見回していると、扉が開き梓を抱えた稔が現れた。
「いつ見ても、庵の後は奇麗に整っていますね…狂とは大違いです」
 稔が梓を下しながら、静かに呟く。
「あ、あの〜稔様…庵様って潔癖症なんですか?」
 美香が思わず問いかけると
「あ、違いますよ。まあ、趣味ですかね…片づけはするけど、人に強要は決してしません。いつも、黙々と狂の散らかした後を片付けていますから」
 稔は微笑みながら、美香に答える。
 美香が曖昧に頷いていると、稔は美香の顔を覗き込み
「どうしました? 美香も庵の事が気に掛かりますか?」
 静かに質問すると、美香は大きく首を左右に振りながら否定し
「いえ、沙希ちゃんの事なんです…。沙希ちゃん…片付けが苦手みたいなんで…庵様と合うのかな〜何て思っちゃいました…」
 思い出した事を稔に告げた。
「大丈夫でしょう、庵はかなり世話好きです。まあ、女性相手にどうかは知りませんが…」
 稔も美香に静かに答える。

 梓はそんな二人のやり取りを、ただじっと正座をして聞いていた。
 何も問わず、何も語らず、ただじっと稔の指示を待つ。
 そんな事が梓に取っては呼吸をするように、ごく当たり前の行為に成っている。
 稔は梓に視線を向け
「梓…真さんに秘術が成功したと聞いたんですが、どんな感じですか?」
 微笑みながら質問をした。
 梓はニッコリと微笑みを返しながら、頭を下げて
「はい、稔様。真様には、その効果を真様ご自身でご検分頂き[暴発する所でした]とお褒めの言葉を頂きました」
 稔に報告をする。
 稔は梓の言葉に
「真さんが暴発? それは、想像の域を超えて居ますね…。梓少し後で、試させて貰います。取り敢えずはお湯に浸かりましょう」
 興味を覚えながら、湯船に二人を促した。
 梓は正座から起き上がる時に、顔を苦痛に歪め、小さく悲鳴を上げる。
 稔はそれに気づくと
「梓…まだ身体が痛みますか? 無理も有りませんか…弥生が受けた軽い方でも、弥生は2日間筋肉痛に悩まされていましたから…。お風呂を出たら、僕がストレッチをして上げましょう。仕事も今日は休んで家でゆっくりして下さい」
 梓を気遣いやさしい言葉をかけた。

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