夢魔
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■ 第14章 専属(梓)12

 稔はもう一度、[O]のボタンを押し、尿道口を閉じると、梓に声を掛けた。
「梓最後の仕上げです…立ってご覧」
 梓は稔に指示されるままに、フラフラと立ち上がる。
 稔に誘導されるまま、姿見の前に立った梓は、自分の姿に驚いた。
(あ、あぁ〜っ…なんて、なんて素敵な装飾…いやらしい…けど、こんな私には相応しい…いえ、これが私の本来の姿なの…。稔様の持ち物…なんて、なんて幸せなの…)
 自分の乳房や、股間の金属板に手を当て、その感触を確かめる。
 そんな梓の後ろから、稔が近付き梓の肩にソッと手を乗せた。
 梓は稔の手が触れた事に、ドキリと身体を震わせ、愛しい主人を見上げる。
「最後はこれだよ」
 稔は見詰める梓の目の前に、黒いベルベットのような触感のチョーカーをぶら下げた。
「これは、特殊な加工をしているから、汗にも水にも強い。それに中にワイヤーが仕込んであるから、切れる事も決してない」
 稔はそう言いながら、梓を促し鏡にむき直させると、ユックリとした動作で梓の首に嵌める。
 カチリと留め金を掛けた稔は、鏡越しに梓の瞳を覗き込んだ。
 梓は鏡に映る稔の目を見詰め、チョーカーからぶら下がる金色に輝く[S]の文字飾りに触れる。
「これは、何の意味ですか?」
 梓が稔に問い掛けると、稔は微笑みながら
「[Slave]の[S]だよ…。梓の身分を顕している」
 穏やかに梓に告げた。
 梓が震える目で稔を見詰め、稔が梓に頷いて許可を出すと、梓は稔の首にしがみつき、稔の胸に顔を埋める。

 その、一部始終を見ていた美香が、とうとう爆発した。
(羨ましい…羨ましい…こんなの、羨ましすぎます…)
 美香の瞳からハラハラと、涙が溢れてはこぼれ落ちる。
 美香は身動ぎも出来ず、ただ母親の幸せそうな顔を見詰め、自分も同じ立場を切望する。
 しかし、それを口に出す事は稔の意志に反する事と、必死で飲み込む。
 未熟な自分が、全ての原因と自己嫌悪に陥り、その身を哀れんだ。
(全て要りません…何も…何も要りません…。稔様の命令さえ有れば、私には何も必要有りません…)
 羨望、願望、克己、哀切、服従、様々な思いが、美香の心の中で絡み合う。
 自分自身でも、コントロール出来ない感情の渦に、美香はただ泪を流す事しかできなかった。
 いや、泪を流して、感情を押し流さなければ、その繊細な身体が張り裂けそうだったのだ。
 激しい感情の爆発を美香の泪は、あくまで静かに物語っている。
 滅私と服従の性を持つ、美香の心は完全に稔に縛られた。

 そんな美香を目の端に捉えた稔は、梓をスッと振り解くと、再び道具置き場に行き、赤い箱を手にして戻ってくる。
 その箱は、梓のピアスケースと同じサイズで、色が違うだけだった。
 稔はその箱を、梓と美香の間に差し出し
「これは、僕の特別な奴隷用の物です…。中身を見ますか?」
 2人を見比べて、そう囁いた。
 稔の言葉に庵の足下にいた、沙希までフラフラと這い進んで寄って来る。
 稔は3人に良く見える位置に、高さを変えると蓋を開けた。
 そこには、一目で梓の物とは、力の入り方が違う、白金色のジュエリーピアスが光る。
 一対の百合の花を、交差するように配置し、ハートの形にデザインされたその彫金は、繊細そのもの。
 茎の部分には、ビッシリとダイヤが埋められ、キラキラと輝いている。
「これは、庵の作った中でも、一番の僕のお気に入りです。庵には3度、作り直して貰いました」
 稔がそう言うと、スッと手に取った。
「素材はプラチナです。僕は、バラのような派手な花より、この百合の花の方が好きなんです」
 稔がそう言って、暫く見詰めた後、元の場所に戻す。

 その横に置いて有る、金属板も梓の物とは、全く違っていた。
 恥丘を覆う部分が、梓の物は何の飾りもないが、箱の中の物はピアスと同様、繊細な彫金が施され、ダイヤが散りばめられている。
 沙希が覗き込み、ホーと溜息を吐きながら、ウットリと見詰め
「稔様…これって、お幾らぐらいするんですか?」
 稔に値段を質問した。
 稔はふぅ、と溜息を吐いて
「沙希も無粋な事を聞きますね…。こういう物は、値段じゃないんですよ」
 そう言って、パタンッと蓋を閉じてしまった。
 沙希はシュンと小さく成り、項垂れて庵の元に戻る。
 そんな中、美香の動きが止まっていた。
 流れていた涙も、今は完全に止まり、今見た箱の中の、一番端に有った物に心を奪われている。
(今の箱の中のチョーカー…ママのと字が違ってた…[L]って何? 聞いて良いの…)
 箱の中にあった、ベルベット風の赤いチョーカーには、デザイン文字で[L]の飾りが付いていた。
 美香は意を決して、稔に向かい
「稔様…ママのチョーカーは[Slave]と聞きましたが、今のチョーカーに有った…[L]って…、[L]って何の頭文字ですか?」
 顔を真っ赤にしながら、固く眼を閉じ必死の声で、問い掛けた。
 稔は暫く黙って、美香を見下ろし
「僕の心から望む物を、与えてくれる女性…[a Love]の[L]です」
 微笑みながら、静かに告げる。

 美香はその答えを聞いて、息苦しくなり、クルクルと目の前が回り出すような感覚に襲われた。
(恋人…、今…確かにそう言ったわ…恋人って…。でも、奴隷で恋人って…それって…解らなく成って来た…今、稔様…)
 稔の、余りにも重大な告白に美香の思考は停止し、唇をワナワナと震わせる。
(稔様の求める物は…特別な奴隷とは…恋人…)
 美香は数分掛けてやっと理解し、稔を見上げた。
 しかし、そこには既に稔の姿はなく、道具置き場に行って、箱を片付けている最中だった。
 美香はその姿を見詰めながら、ただ1つの事を強く思う。
(あれが、欲しい!)
 美香は、固く決意し、稔が戻ってきても、道具置き場をジッと見詰めていた。

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