夢魔
MIN:作
■ 第15章 奴隷1
稔が携帯の時計を見ながら、リビングの真ん中に戻ってくると
「梓の処置が思ったより早くできましたね…2時間近く時間があります。皆さんには、少しおめかしして貰いましょう」
にこやかに4人に話し掛ける。
「稔さん俺もですか?」
途端に庵が頭を持ち上げ稔を見ると、稔は大きく頷いて
「ええ、庵にも確認して貰いたいんで、頼みますね」
有無を言わせず、言い切った。
庵は稔から視線を外すと、ブスッとした顔で
「俺が、フォーマル嫌いなの知ってるくせに…」
ブツブツと呟く。
稔の言葉に梓が、頭を下げ
「稔様…、おめかしというと、どの程度の装いをすれば宜しいでしょう?」
質問してくる。
「梓だと、イブニングは持っているね、それクラスだよ」
稔は梓に顔を向けて、服装を指定した。
梓が顎に手を添え、何か考え込むと
「稔様…私一人なら、メイクや着替えを入れても間に合いますが、美香と沙希ちゃんの分が、とても間に合いません…」
稔に進言した。
稔は梓の言葉を聞いて考えると、携帯を取りだし、ダイアルする。
「あ、狂ですか? 至急セットとメイクの出来る店を予約してください。あと、ここら辺で、フォーマルな服が揃うのは何処ですか?」
携帯がつながると稔は直ぐに、狂に用件を伝える。
『おい! お前今から、用意する気かよ…何のために俺が、40分も前に電話したんだよ!』
「いや、ちょっと立て込んでしまって。で、何処なんです?」
『人の話をホント聞かねえ奴だな…、駅前のSOFIAって所に行け、あそこなら全部OKだ。服は隣のビルの5階の一番奥に有る爺の店だ、アクセも靴も全部揃う…。おい、稔…常識的に言っておくけどな、先に服とアクセを決めろよ! それで、メイクと髪型は変わるんだからな!』
狂はそこまで言うと、ブツリと携帯を切った。
稔は携帯を一瞬見詰め、梓に向き直り
「女性の装いって、服やアクセサリーから決めるんですか?」
狂に注意されたことを、問い掛ける。
梓は呆気に取られて
「確かに、そう言う場合もありますが…そこまで凝った事は、有りません」
稔に答えた。
稔は判然としない顔で頷くと
「ま、良いでしょう…ここは、予約を入れてくれた狂の顔を立てましょう。さ、行きますよ服を着てください」
梓たちに、服を着るよう促した。
洋服を着込んだ5人は、狂の指定した駅前のビルに、タクシーで移動する。
2台のタクシーで移動した5人は、この町に似つかわしくない、高級ブランドの集まったファッションビルに入っていった。
1年半ほど前にオープンしたこのビルは、余りに高額なブランドが揃っているため、一般の客には敷居が高すぎて入れない、そんな性格のビルである。
稔に促されるまま、3人はビルの奥まった一角に有る、落ち着いた雰囲気の一件のブティックに入り、オートクチュールのイブニングドレスとそれに見合う、アクセサリーを選ぶ。
キャアキャアと楽しげにドレスを選ぶ沙希、気に入ったドレスを次々と身体に翳して鏡に映す美香、引きつった顔で値札を見詰める梓。
稔は梓の側に、スッと移動すると
「どうした? ここには、梓の気に入った物は無いの?」
梓の耳元に顔を寄せ、静かに問い掛ける。
梓は突然の稔の声に驚き振り返ると、思わぬ近さにある、メガネを掛けた稔の顔に更に驚いた。
「い、いえ…あ、あの〜ここのお洋服だと…予算が…」
梓がしどろもどろになって、稔に答える。
「そんな事ですか、気にしないで選んで良いよ」
稔はニッコリ微笑んで、傍らに有った深紅のイブニングドレスを梓にあて
「これなんかどうですか? この色は梓にとても似合うと思いますよ…」
梓に問い掛けた。
梓は一瞬チラリと見えた、値札に並ぶ数字に驚く。
(35…、この並びの値段から言って…、35万円…私の手取りの3/4…)
稔の感覚に、一切ついて行けない梓は、固まったままだった。
そして、その波は美香に移り、沙希も気付く。
自分達の居る場所が、いかに次元の違う場所なのかを。
沙希が慌てた顔で、パタパタと美香の元に走ってくると
「美香さん、美香さん…このお店…10万円以下の服が、置いてない…」
泣きそうな顔で、美香に縋り付いた。
美香もそれに気付き、何度も首を縦に振ると
「どうしよう…こんなお店のお洋服…、いっぱい触っちゃったわ…」
美香も、手を引っ込め震えている。
急速に醒めてゆく三人を見て、稔が溜息を吐き店員を呼ぶ。
「はい、如何致しましたでしょうか?」
慇懃な態度で、落ち着いた老紳士が、稔の前に来ると頭を下げて、問い掛けてきた。
「彼女たちに合う、服のサイズを見繕ってください」
稔の言葉に、老紳士は深々と頭を下げ
「かしこまりました」
言葉を返すと、そそくさと15着ほど選び出した。
「こちらのご婦人には、このサイズがお勧めです。こちらのお嬢様には、このサイズ。あちらのお嬢様には、こちらなど如何でしょうか」
老紳士の選び出した服を、稔は無造作に選び、それぞれの身体に当て
「庵。これなんかどうです? 僕のイメージでは、梓はやっぱり赤が似合うと思うんですが…」
などと、庵や老紳士と話ながら、勝手に服を選んでゆく。
■つづき
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