夢魔
MIN:作

■ 第15章 奴隷7

 檻の中で唇を噛みしめ、涙の浮かんだ目で俯いている美紀。
 そんな美紀に、稔は更に追い打ちを掛けるように
「犬の餌は美味しかったですか?」
 静かな声で、問い掛ける。
 美紀の肩が小刻みに震え初めても、稔の言葉は止まらなかった。
「そうそう、美紀のお母さんは、僕の専属奴隷に成りました。貴女達とは、もう同等ではありません。梓ここに来て、ドレスを脱いで見せて上げなさい」
 稔の命令に、梓は檻の前まで来ると、ストンとドレスを脱ぎピアスを見せる。
「梓は努力と忠誠心で、僕の隣の地位を手に入れました。これは、その証のピアスです」
 美紀は顔を上げて、梓のピアスを目にし、泪の浮いた目を見開いた。
 母親の両の乳房に、キラキラと輝くジュエリーピアス。
 美紀の瞳に、嫉妬と羨望の色が浮かび上がる。
「その目です。その目をしている間は、僕は美紀を許しません」
 美紀に向かって、稔は鋭い声で指摘した。
「そもそも、美紀はそんな目を梓に向けられる程、努力をしましたか? 何の努力もしない者が、僕の奴隷に成れる訳無いでしょ。美紀の幼稚な考えが、消えるまでそこにそうやっていなさい」
 稔の言葉に、美紀はぐうの音も出ない。
「明日から僕は梓と2人で、旅行に出かけます。その間は、庵に躾を頼んでいますから、死なないように頑張って下さい」
 そう告げると、稔は踵を返して、中庭から室内に戻っていった。
 稔の後を追うように、全員がリビングに移動する。
 檻の中に残った美紀が、啜り泣きを始めたが、誰も振り返る者は居なかった。
 この処分を決めた稔以外、この処分を終わらせる事は出来ない。
 ましてや、奴隷の梓達に意見を挟む事など、許されても居ないし、考えもしなかった。
 その夜、中庭にいつまでも、美紀の啜り泣く声が響いた。

 リビングに着いた稔達は、フォーマルウエアを着替えて、自分達の私服を着る。
「さぁ、今日は帰りましょうか…。僕は明日からの準備で、一旦寮に戻ります。その後で、梓の家に泊まりますが庵はどうします?」
 稔の問い掛けに
「う〜ん…俺も今日は帰ります。別に用事は無いんですが、今のねぐらの方が落ち着くんで…」
 カチューシャを取って、髪の毛をガシガシと擦りながら答えた。
 そして、稔の言葉に反応した3人の奴隷達。
(み、稔様が私の家にお泊まりになるの…い、いやだわ…どうしましょう…胸がドキドキするわ)
 梓は平静を装いながら、ドレスを畳んでいたが、その畳む手は微妙に震えている。
(えっ! 稔様…う、家にお泊まりに成られる…まだ、同じ場所にいられるんですね…)
 美香は手に持った長手袋を、キュッと握りしめ頬を染めた。
(え〜っ…良いな〜…私だけ、一人で帰るの〜…寂しいな〜)
 ガッカリとしながら、沙希はドレスを衣装箱に片付ける。
 それぞれの思いを抱きながら、奴隷達は自分の宝物になった、ドレスを片付けた。

 着替え終わった稔が、携帯電話を取り出しダイヤルをコールする。
「あっ、もしもし…柳井です」
 相手が数回のコールで、電話を取り話し始めた。
『あ〜ら…薄情者さんは、私の事忘れたのかと思っちゃったわ…。で、どうしたの? 何の頼み事』
「ふふっ、察しが良いですね、どうして頼み事だと解ったんです?」
『稔ちゃんから、電話が来るんだもの…。デートの誘いの訳無いし、頼み事しかないでしょ』
「実は、キサラさんの技術を教えて欲しいんですよ」
『はいーっ? どう言う風の吹き回し? あっ、解った。誰か女が出来たんでしょ? その子に、教えろって事でしょ』
「ご明察、僕の技術より、キサラさんの技術の方が、適して居るんでお願いしたいんですが…」
『ご褒美は、何が貰えるのかな〜? 虐めてくれる? それとも、虐めさせてくれる? ああ〜ん、私的には、どっちも捨てがた〜い』
「僕も一緒に行きますし、今回は庵の新作10点でどうですか?」
『う゛〜ん…それも、捨てがたい…。彼のお道具使ったら、他の道具使えないのよね〜…、困っちゃうわ』
 電話の相手が、返事を鈍っていると、庵が電話を替われと仕草で言った。
 稔が電話を庵に渡すと
「俺だ…今度のは、あんた用に調整したんだ…使わないなら、捨ててしまう」
 庵が電話口で、独特の低い響くような声を掛ける。
『きゃ〜〜〜っ庵ちゃん! いやんもっと、もっと声聞かせて〜。私それだけでイッちゃう〜ん』
 電話口の女は、奇声を上げて庵の声を求めた。

 庵は口をへの字に曲げて、稔に電話を返すと一人掛けのソファーに座る。
 電話を受け取った稔が、また話し始めた。
「もしもし、庵にそんな事言うと、怒るの知ってるでしょ…まったく…」
『だって〜っ、庵ちゃんの声、子宮に響くんだもん〜』
「はいはい…。で、どうします? 駄目なら他を当たりますが?」
『稔ちゃんの意地悪…。あんな事庵ちゃんに言われて、駄目って言える女は居ませんよ〜だ。もちOKよ! で、いつから来るの?』
「急で悪いんですが、明日の昼にはそちらに伺いたいんですが?」
『あら、やだ。じゃぁ、今日はお泊まりの客は、キャンセルね…女の子も全部、何処か行かせなきゃ…』
「随分大げさですね…、女の子も10人じゃ効かないでしょ? 住み込みなの…」
『あのね、稔ちゃん見た女の子はね、仕事に成らなくなるの! ボーッとしちゃって暫く、腑抜けも良いところなのよ』
「それは、僕に言われても仕方がないですよ」
『15も下の男にこんな事言われて怒れないなんて、私もこのお仕事終わりかしら…まあ、良いわ。用意はしておくから着いたら電話頂戴…それと…』
「それと?」
『1回ぐらいはデートして!』
 女はそう言って、電話を切った。
 稔は携帯を見詰め、肩を竦めるとポケットに入れる。
 梓達に向き直った稔は
「さ、行きましょうか」
 声を掛けて、弥生の家を後にした。

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