夢魔
MIN:作

■ 第16章 絵美1

 日曜日の朝、西川絵美は布団の上で、途方に暮れていた。
 その原因は、昨日の夕方ファミレスのアルバイトに行った時に遡る。
 それまでの店長が、その日急に変わって、新しい店長が着任する事に成った。
 突然の店長交代に、スタッフルームの中は、騒然としていて落ち行かない。
(突然の店長の交代…きっとあの事が原因なんだ…。あの変態達の事を…誰か苦情で言いつけたんだわ…)
 絵美は少し怒りながら、金曜日のことを思い出す。
 今までの店長は気は弱いが、細やかな気配りが出来、お客に対しても受けが良かった。
 普通に考えれば、今までの店長が解任される謂われは全く無い、有るとすればあの事だけだった。
 金曜日にこの店で行われた、あの破廉恥な行為を容認した、責任を取らされたのだ。
 震える声で挨拶をし、私物を片付けスタッフルームを出て行く元店長。
 絵美はその店長の背中を見詰め、涙が込み上げてきた。
(店長…いつも私を気遣ってくれて…本当に有り難う御座います…。私の家庭の事情を知って、いつも優しく接してくれました…。何でこんな良い人が、こんな酷い目に合わなきゃいけないの…)
 元店長の出て行った、扉を見詰め感傷に耽っていた絵美は、同じ扉から悪夢が始まるとは、思っても居なかったのだ。

 本社の社員が頭を下げて呼び寄せた男に、絵美は見覚えがあった。
 顔を曇らせ、その男の事を思い出そうと、記憶を探る。
 妙にほの白い頬に黒縁のメガネ、メガネの奥でキョロキョロと落ち着き無く動く瞳、爬虫類を思わせる粘性の強い視線、きっちりと7:3に分けられた神経質そうな身なり、その全てが絵美の心の奥に、警鐘を鳴らしていた。
 本社の社員が男を指し示し
「え〜っ、神田徹さんです。この人は、本来本社の人事課で教育を担当される方です。今回のようにある種の事件が起きた支店の査察をかねて、店長をして頂きます。正社員の方は元より、社員を目指している方もしっかり働いて下さい」
 素性を紹介した。
 神田は全員をユックリ舐めるように見ながら首を巡らせ、絵美の顔に目を留める。
 絵美は真正面から、神田の視線を受け止めた時、全てを思い出した。
(あ、ああぁ…。この人…私の処女を…買った人だわ…。なんで、こんな所で…)
 絵美は狼狽えながら、当時の事を思い出す。
 今でも時折、克明に甦る、悪夢。

 それは1年程前、絵美がアルバイトをしていたレストランの倒産から始まった。
 老夫婦で細々と切り盛りしていたレストランが、大手チェーン店の進出に押されて、夜逃げしてしまったのだ。
 当時良く食べ物等を分けて貰ったりして、面倒見の良かった夫婦が、ある日突然居なくなった。
 絵美に対して、アルバイト代も払えない事を何度も謝罪する、手紙だけが店に残されていた。
 その日に入る予定だった、7万3千円のアルバイト代。
 そのお金を持って、母親の入院する病院に行く予定だったのだ。
 絵美の母親は元々丈夫な方ではなかったが、父親が残した借金のため、一番下の真美を産んで直ぐに働きに出て、過労で心臓を病に冒される。
 そのため、入退院を繰り返して定職にも就けず、絵美が家計を切り盛りする事になった。
 絵美に対して泪を流し詫びる病院の中の母親は、その慚愧の念により、一向に回復しない。
 まさに悪循環である。
 そんな中、追い打ちを掛けるような、アルバイト先の倒産。
 高校1年生の少女には、重すぎる神の仕打ちだった。
 フラフラと途方に暮れて、駅前通を歩いている時に、ぶつかった男が、今目の前にいる神田だ。
 小さな声で詫びる、絵美に声を掛けてきた神田は、絵美を人目に付かない路地に招き入れ
「私と遊ばないか? 良い思いをさせてあげるし、お金も上げよう…」
 その時はメガネを掛けておらず、直接爬虫類のような視線が、絵美の身体を舐め上げる。
 絵美は神田の声に、ビクリと反応する。
「お、お金…お金呉れるの…」
 絵美は何も考えられず、小さく呟いていた。

 神田はニヤリと笑い、絵美に向かって告げる。
「うん、上げるよ…普通の事なら3万円…、おじさんの言う事を何でも聞くなら、5万円上げよう…。もし、君が処女なら、10万円上げても良いよ…」
 神田の最後の言葉で、絵美は何を言われているか理解した。
 だが、神田の示した金額が、絵美の心を縛り付ける。
「10万円? 本当に処女だったら…10万円呉れるの?」
 絵美は思考を停止させ、オウム返しのように神田に問い掛けた。
 神田はニタニタと笑い始め、大きく頷いて
「ああ、上げるとも…ほら、おじさんはこれだけのお金を持って居るんだ、10万ぐらいどうって事無いよ…」
 そう言って、神田は札入れを取り出し、絵美に見せつける。
 その時の神田の札入れには、1万円札が50枚程入っていた。
(10万円…10万円有ったら、母さんの入院代も、アパートの家賃も払える…。10万円…)
 絵美は吸い寄せられるように、神田の札入れを見詰めながら、神田に寄り掛かる。
 そして、小さな囁き声で
「私処女です…つれてって下さい…」
 神田に答えた。
 神田はニンマリ笑いながら、絵美を抱えるように自分に引き寄せると、直ぐ側のホテルに誘導する。
 絵美はこれから自分がされる事も、自分がする行為も全て理解していたが、考えなかった。
 これからの数時間、自分の心を閉ざして、目をつむれば全て上手く行く。
 自分さえ我慢すれば、家族の誰も苦しい思いをしなくて済む。
 そう考えた結果だった。

 しかし、それは余りにも軽率な判断だった。
 何故なら、神田は本人も気付いていないレベルのサディストだったからだ。
 神田は元々、特に粘質な愛撫を好み、相手を屈服させ羞恥に染まる顔で、哀願させるのが好きな人間だった。
 出張先で出会った、幼子のようなあどけない美貌に、はち切れんばかりの、女を匂わせる身体を持った、処女に出くわした神田は、自分の本質を一気に解放する。
 二度と会わない、素性も知らない真っ白な女を、強引に自分の色に染め陵辱する、そんな倒錯の世界が頭に拡がった。
 神田はその時、自分の思いつく事を全て絵美に行った。
 何も知らない少女に、自分の知りうる限りの陵辱を、刻みつける。
 バスローブの紐で後ろ手に縛り、タオルで目隠ししながら、全身を舐め付くし、強く反応の返る場所を、入念にチェックすると、そのポイントを外して、いつまでも快感をくすぶらせ、絵美が悶えよがる様を、ニタニタと笑いながら愛撫する。
 絵美が泣きながら哀願すると、今度は一転して感じる部分を執拗に責め、何度もアクメを迎えさせ、絵美を息も絶え絶えにした。
 絵美の反応、鳴き声、嬌声が神田を狂わせて行き、サディズムを目覚めさせる。
 やがて、神田の一物が絵美を貫き、破瓜の血と愛液をまき散らせながら、神田を絶頂に追いやると、神田はその愛らしい唇で一物を拭わせた。
 絵美は初めてのSEXを全く異質な行為で、迎えてしまう。
 ボロボロと泪を流しながら、見知らぬ男の股間に顔を埋め、ヘタクソと罵られながら、お尻をベルトで打たれる。
 異性と付き合った事もない、少女の唇が最初に触れたのは、自分の破瓜の血で染まった、どす黒いチ○ポだった。
 一度精を放たれた時は、こうやって綺麗にするのが最低限の礼儀だと、教え込まれ。
 そこから続けざまに強要させられる、フェラチオは最初からイラマチオを行い、これが普通だと吹き込んだ。
 中学の異性を意識する思春期の頃から、家計を助けていた絵美にとって、SEXの知識など皆無だった。
 保健体育の授業だけで、実際のSEXの知識を得る時間など、絵美には持てなかったのだ。
 そんな絵美に、サディストが悪意を持って、SEXを教え実践する。
 絵美は異性との思い出を、全て金で売って汚された事を、この時は理解していなかった。
 いや、理解したく無かった、だけなのかも知れない。
 それ位の権利は、少女に残してあげても良いと思う程、絵美の初体験は悲惨だった。

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