夢魔
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■ 第16章 絵美4

 神田は自分の席から立ち上がると、絵美の横に座り直して、身体を引き寄せた。
 絵美はガタガタと震えるだけで、何の抵抗も出来ない。
 神田は絵美の首に手を回し、乳房を握り愛撫し始める。
「へへへっ…良い体に成ったじゃないか…? 処女を捧げた相手と、久しぶりにご対面した気分はどうだ?」
 神田は高い声で、絵美を嬲り始めた。
 絵美は固く眼を閉じ、神田の為すがままになる。
「西川絵美って言うんだな? …絵美ちゃんか…くくくっ、お前は、絵美じゃなくてエムだろう! ハハハハ」
 神田の言葉に、絵美が堪りかね、キッと睨み付けた。
 しかし、そんな事には一切怯まず、神田が口にした言葉は、絵美を屈服させるには充分だった。
「良いのか? そんな目で俺を見て…、さっきの女みたいに、仕事が無くなるぞ…。あの女は、普通の家庭の小遣い稼ぎだ、数日仕事を休んでも、生活に何の支障も無い…お前はどうなんだ?」
 憎らしい程の余裕を見せ、神田の放った言葉に、絵美は涙目になる。
「そう、そう言う目で見ないとな…。これから、お前の飼い主になる人間なんだから…」
 神田の言葉を聞いて、絵美は驚きの表情を向け、ワナワナと震えた。
「どうした? 解らないか? 俺がお前をこれから、飼ってやるって言ったんだよ…俺が飽きるまでな」
 絵美の頭の中に、処女喪失の出来事が、フラッシュバックする。
 絵美は神田から、強引に身体を引き剥がし、踞ってイヤイヤをした。
 神田は直ぐには、絵美を引き寄せず、余裕を持って口を開く。
「けっ、何カマトトぶってんだ…俺は知ってるんだぜ…。お前、去年の冬も売春しただろ? そいつに虐められてヒイヒイ言ったらしいじゃないか…。お前を買った男はな、俺の知り合いだ! まあ、面識はないけどな…SMのチャット仲間ってやつだ…。お前の特徴と場所を考えれば、間違い無いだろう?」
 神田の言葉に絵美は、愕然とする。
(そ、そんな…どうして…どうして、こんな所で繋がるの…)
 絵美の脳裏に去年の冬の出来事が浮かぶ。

 その年は悪性のインフルエンザが大流行し、母親を見舞った時に2番目の妹麗美が感染した。
 希美も真美も次々に感染し、通院を余儀なくされる。
 母親に引き続き、3人の医療費を絵美は捻出しなくてはならない。
 しかし、その時には絵美本人も、高熱に浮かされる状態だった。
 アルバイトは、公休扱いで給料を何とか保証されたが、当然即日払わなければならない、医療費は手元に無い。
 ましてや、一番下の真美は乳幼児で注射どころか、普通の治療薬も飲ませることが出来なかった。
 入院させ集中治療が必要になり、その金額も捻出しなくてはならない。
 当座必要な金、5万円を求め、絵美は繁華街に立った。
 直ぐに客に拾われた絵美は、その客に引き摺られ、薬局やホームセンターやアダルトショップを訪れる。
 男は楽しげに、買い漁った物を絵美に使い、陵辱の限りを尽くす。
 絵美は男の求めるまま、犬の首輪を着けられ、浣腸され、バイブを咥え込まされる。
 朦朧とした意識の中で繰り返される陵辱に、男は満足し絵美に金を渡して、使用した道具も置いて行く。
 男が去った後、高熱とウイルスで節々が痛む身体を引き摺り、荷物を持って自宅に帰る。
 一昼夜高熱に浮かされ、具合が良くなった頭で、思い出した荷物を開き、絵美は涙が止まらなくなった。
 そこに有る全ての物を使った記憶が、まざまざと甦ったからだ。
(私は…人じゃなかった…。あれは、まるでペットだった…)
 人の尊厳を無視した行為。
 だが、絵美はそれを全て受け入れ、自分の身体で行った。
 何か自分の中で、大きな音がして、崩れていくような気がした。
 それが、去年の冬の出来事だった。

 神田は絵美の態度を見、ほくそ笑むと
「俺の時は15万ってボッタクッタくせに、次の奴は5万か? 随分良心的だな…」
 絵美の耳元に囁いた。
 絵美は力無く項垂れて、声も出せない。
「俺がよ…毎月7万呉れてやる…だから、お前は俺が呼び出した時は、必ず来るんだ…解ったな」
 神田の言葉に、絵美は顔を上げ、涙に濡れた顔を見せる。
「返事はどうした? 牝犬変態女…」
 神田の目が血走っていた。
 白かった頬は、興奮のためかピンクに染まり、手は絵美のスカートの中に伸びている。
 化粧気の無い絵美の頬を、神田の舌がベロリと舐めると、絵美は反射的に神田を突き飛ばす。
「良いのか? 俺にそんな態度を取って…。後悔はしないんだな…」
 神田は乱れた髪を直しながら言うと席を立ち、自分の椅子に座り直した。
 絵美はガタガタと震える身体を抱きしめ
「し、失礼します」
 視線を神田に合わせず、頭を下げると女子更衣室に飛び込んだ。
 私服に着替えた絵美は、逃げるようにスタッフルームを後にして、店を飛び出す。

 スタッフルームに1人残された神田は
「くくくくっ…ばーか、お前はもう俺の手からは、逃げられない…」
 1人笑いながら呟くと、携帯電話を取り出し、ダイヤルする。
 数回のコールで、相手が電話に出た。
「はい、ロ○ソ○、○×店です」
 某有名コンビニエンスストアーの店員が電話に出る。
「苦情なんだけど、店長居るかな?」
 神田は電話口に、そう言うと
「あ、はい。私が店長で御座います」
 電話の相手が、丁寧な返事を返す。
 そして、神田は西川絵美の事を事細かく話し、最後にこの言葉で締めくくった。
「貴方の所のようなお店で、売春をする店員が居たら、何かと問題になりませんか?」
 神田の言葉に、コンビニ店長は、[事実関係を確認し、然るべき処置を執らしていただきます]と答え、通話を切った。
 スタッフルームに神田の笑い声が響く。

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