夢魔
MIN:作

■ 第17章 始動4

 稔と金田は、暫く談笑を始める。
 しかし、その会話はお互い、腹に持つ物があるため、弾む程ではない。
 だが、そんな中とうとう、金田がキーワードを問い掛けて来る。
「しかし不思議だね…君程の者が、何故日本で高校生なんかをして居るんだい?」
 金田の言葉に、稔は充分タメを作り頷くと
「金田さんも同様の方とお見受けしますから、構わないでしょう…。僕は有る方に、実験の場所を提供されたんです…」
 計画の概要を切り出した。
「実験? それは、また一体何の?」
 金田は不思議そうに稔に問い掛けると、稔は遠くを見詰めるような目で、虚空を見。
「精神の解放…。それと、解放者のネットワークを作る事」
 呟くように言葉にして、金田に視線を向け
「それが僕が、日本に来た目的です」
 強い視線で、金田の瞳を貫く。
 金田はドキリと胸を高鳴らせ
「精神の解放? ネットワークを作る? 何か随分曖昧な話しだね…それに、私が同種の人間とは…」
 顔を引きつらせながら、掠れた声で稔に問い掛ける。

 稔は金田の瞳を捉えながら
「金田さん…、世間には、特殊な性交を望む人達が居るのは、ご存じですよね? そう、SMと言われる世界」
 金田は、ギクリと顔を引きつらせ、話をそらそうとしたが
「変態と呼ばれて、蔑視される事が有りますが、実際は人間誰しも持っている欲望の具現なんです」
 稔が淡々と続ける言葉に、言葉を挟めない。
「人は必ず自分を基準に、上下を作る生き物なんです。社会システムで言う所の会社や学校。そう集団が出来る場所では必ず存在する秩序。これは、実は支配と服従の関係なんです」
 金田は、稔の言葉に耳を傾け、いつの間にか聞き入っている
「また、虐めが問題視されていますが、これは大昔から存在しています。江戸時代の非人制度や村八分等は、顕著な例で、大戦中のナチスが行った物も、大局的に見れば虐殺ですが、あれは国家的な虐めです。人間の心は、自分より下位に居る者が存在しないと、ストレスを溜めるんです…」
 稔の声は低く静かに響き、音楽のように金田の耳朶を打つ。
「逆に社会奉仕に、一生を費やす人もいる。人に認めて貰い、褒められる事を何よりの生き甲斐と感じる人…。会社で上司に褒められたいがために、何でもする人…。この言葉を聞いて、何か連想しませんか?」
 稔の瞳が妖しく揺らぎ始め、金田の瞳を捉えて放さない。
「マ、マゾヒスト…かな…」
 金田の声はカラカラに掠れ、何度も唾を飲み込みやっと一言出した。
 稔は満足そうに微笑み
「社会の中には、それと気付かず自分を縛り付けている人が殆どです。モラルと言う鎖でね…」
 金田に静かに、静かに告げる。
 暫くの沈黙の後、稔は同じトーンでソッと呟く。
「SMの世界の住人は、言わば社会のしがらみや、精神の抑圧から解放された人達なんですよ…」
 稔の言葉は、金田の心を雁字搦めにし、金田の思考を奪う。

 稔の話術と心理操作による束縛は、金田の心、意志を縛り上げ逃げ場を潰す。
 金田は、そこから逃げ出すために、話題を変えようと言葉を発した。
「や、柳井君…い、今の話しは、ご婦人が居るような場所で、する物では無いと思うんだが…」
 金田は梓を盾に、逃げだそうと試みたが
「ご婦人? あぁ…。あれは、良いんですよ…。あれは、僕の[物]ですから…」
 稔が直ぐさま、梓の事を静かに告げる。
 静かに告げられた、稔の言葉を金田は理解できなかった。
「かく言う僕も、SM世界の住人でしてね。梓…こっちへおいで…」
 妖しい微笑みを浮かべる稔の側に、スッと梓が立ち
「はい、お呼びで御座いますか、ご主人様」
 鈴が鳴るような声で、稔にかしずいた。
「これは、実験体ですが、良い出来に成ったので、今は僕の世話をさせています…」
 梓を指さし、金田に告げる。
 金田は口をパクパクさせ、やっとの思いで
「も、森川君が…奴隷?」
 それだけの言葉を口から漏らした。
「ええ、僕の奴隷です」
 稔の言葉に、金田は身を乗り出し捲し立てる。
「そ、そうか、解ったぞ! この女の色気も、態度も、性格も、全部君が変えたんだな! しかし、どうやってそんな事が可能なんだ?」
 金田は目をぎらつかせ、自分の本性を隠す事無く食いついた。

 稔は金田に自分達が開発したシステムや機材を説明し、これから実験場となる学校での協力を依頼して、その見返りに金田にピッタリの奴隷を捜すことを確約する。
 金田はその全てに驚いた、システムも機材も論理もネットワーク構想も全てが、画期的で有り、自分がそれの中心に組み込まれると言う有り得ない程の僥倖に、言葉を無くす。
(い、いや待て…。こんなうまい話には、何か裏が有る筈だ…。騙されるな満夫!)
 金田は持ち前の猜疑心で、急速に心にブレーキを掛ける。
 しかし、そのブレーキは稔の次の言葉に、呆気なく破壊された。
「僕の構想が夢ではない証拠に、良ければこれを金田さんに預けますよ。但し、2〜3ルールは守って貰います。どうでしょうか?」
 稔は梓を示し、金田に問い掛ける。
 金田は頭を横から殴られたようなショックを受け、口を開け稔の申し出に反応できなかった。
「梓、今のお前を、金田さんにお見せしなさい」
 稔の命令に梓は直ぐに応える。
 白衣のボタンに手を掛け素早く外すと、肩からすべり落とし、その裸身を晒す。
 まばゆく光る妖艶な裸身が、総合病院の最上階で、燦々と光が差し込む医院長室の中央に現れた。
 首に嵌ったチョーカー、乳首のリングピアス、無毛の恥丘、陰部を覆う貞操帯。
 それら全てが、梓の身分を語っている。
 金田が喉の奥から手が出る程欲した[女]が、目の前で自分の欲望を全て叶える[物]に変わり、現れたのだ。
 金田に抗う術は無く、心の城壁は砂塵と化して消え失せ、全てを承諾する。
 こうして、金田満夫は、稔の計画の協力者に成った。

■つづき

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