夢魔
MIN:作

■ 第17章 始動7

 伸一郎所有の車を森川家で降りた4人は、そのままリビングに集まった。
 稔の思い詰めた表情を、3人は床に正座して、ジッと見守る。
 稔はフッと、その3人の表情に気付き
「どうしたんですか? 神妙な顔をして…」
 表情を和らげ、3人に問い掛けた。
 そんな稔の表情の変化に、いち早く美香が気付きホッと胸を撫で下ろすと、美紀が真っ先に言葉を掛ける。
「稔様が、沈んだお顔をしてらしたので、何がお有りになったのか心配で…」
 美紀の言葉に、沙希が身を乗り出し
「私達何か粗相をしたんでしょうか? クレームを付けられたとか…?」
 心配そうに聞いてきた。
 稔は3人の表情を見て、微笑みを見せると
「貴女達はとても良く、働いてくれました。竹内理事長は、大変喜んで居られたそうです」
 3人を慰労する。
 3人はその言葉を聞き、嬉しそうに微笑み、稔達の役に立てた事を喜んだ。
 しかし、そんな中、フッと美香の表情が曇る。
 稔はその変化に気付き
「美香どうしました?」
 質問を投げ掛けた。
 質問された美香は、ハッと稔を見詰め
「い、いえ…少し、気になった事が、あったものですから…。申し訳御座いません」
 深々と頭を下げ、謝罪する。

 稔は珍しく歯切れの悪い美香の態度に
「どうしたんですか? 何か気になった事があるのなら、言って下さい。僕に隠し事は禁物ですよ」
 微笑みを作り、美香の顔を覗き込む。
 美香は稔の視線に、稔の予想外の反応を見せる。
 美香は顔を曇らせながら、俯き躊躇いを見せたのだった。
 稔は美香の態度に
「隠し事ではなく、言いにくい事なんですね。構いません、僕は美香の見識を信じます。言って下さい」
 表情を引き締め、美香の言葉を促せる。
 美香は、暫く言葉を探した後、意を決して口を開いた。
「稔様は、今日帰られる時、執事の方に[今日もですか]とお聞きに成られましたね? もしかして、竹内様と会われた回数は、それ程無いのでは、有りませんか?」
 どこか、縋るような目線で美香は稔に問い掛ける。
「どうしてそう思うんですか?」
 稔は、覗き込んでいた顔を、後ろに引き美香の質問に、質問で返す。
「私には、稔様が竹内様と懇意にされる理由が分かりません。あの方は…、あの方は、異質です」
 美香は、稔に対してきっぱりと言った。
 稔は美香の言葉に対して、その真意を計りかねる。
 そんな稔に対して、美香は言葉を続けた。
「私は奴隷として、サディストと呼ばれる方達、数十人と肌を合わせました。ですが、その中でも、あの方は異質です。あの方のなさり様は、どれほどお隠しに成られても、ハッキリと感じます。あの方は…あの方は、私を人として…いえ、生き物として触れては来ませんでした。そう、まるで物を扱う様に…。あの方の手には、普通ならどんな方でもお持ちになっている、暖か味が全く有りませんでした」
 美香は一息に、伸一郎の感想を告げると、俯き項垂れる。

 美香の言葉に稔は、考え込み
「美紀達は、それを感じましたか?」
 静かに美紀と沙希に問い掛けた。
 沙希はキョトンとした表情で、何かを考え
「そう言われてみれば、確かに遠慮は無かった気がします…。私が気付いた事と言えば、指先の力が凄く強くて、結構痛かったかなって、程度です」
 稔に告げると
「私は、お姉ちゃんの感じ方に、少し似ています…。何度か私を見詰める視線に、怖い物を感じました…。どう言えばしっくり来るのか分かりませんが、まるで、お店に並んでいる物を値踏みする様な…そんな視線でした」
 美紀はブルリと震え、答えを返した。
「ただ、あの方は、私達の奉仕を楽しんでは居られませんでした…。まるで、試験を受けている様な…そんな感じがしました」
 美紀は俯いて言葉を続け、また悪寒に襲われる。
 3人の感想に、稔は考え込むとユックリ口を開く。
「確かに、僕は竹内理事長と対面したのは、来日して直ぐ会っただけです。その時も仕事の関係で、会話らしい会話は出来ませんでした。それ以降は、電話か執事の佐山さんを通じてしか有りません…」
 稔はそう言うと、また考え込む。
(おかしい…。そう言えば、佐山さんの表情が読めないのも、気には成っていた。希に心の動きが読めない人がいたが、同業の研究者ばかりだ…。素人で、読めなかった事は一度もなかったけど…)
 そんな考えを巡らせていた時、稔の携帯電話が鳴る。

 稔が携帯電話を取り出すと、発信者は庵だった。
『稔さん、掛かりましたよ。今、3人はそれぞれの場所で、DVDを見ています。今、校長室を覗いていますが、食い入る様に見ていますよ…』
「そうですか、他の2人の様子はどうですか?」
『えっと、ちょっと待って下さい…モニターの切り替えが…、あれ? どのボタンでしたっけ?』
「庵…本当に貴男は、パソコンが苦手ですね…F3を押して、視聴覚室は確か11、生徒指導室は19の筈です。数字を入れてみて下さい」
『あ、っと…。変わりました、教頭の鈴木も必死で見てます。おいおい、生徒指導の教師が学校でマスかくなよ…』
 庵が中継を始めると
「もう良いですよ、庵。効果は充分そうですね…後は、夜になれば解ります…」
 稔は言葉を遮り、次の仕掛けに頭を巡らせ始める。
 携帯電話を切った稔は、美香に向き直り
「美香の感想は解りました。取り敢えず、少し調べてみる事にしましょう。結果が出るまでは、僕は貴女達を理事長に預ける事はしませんので、呼び出しにも応えないで下さいね」
 今後の行動に注意を与えた。
 3人は一様に頷き、自分達の身を案ずる主人に感謝する。
 しかし、この時既にこの計画は稔達の思わぬ方向に、進んでいた。
 伸一郎の手によって、計画はねじ曲げられ始めていたのだった。

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