夢魔
MIN:作

■ 第17章 始動9

 稔は校舎の外階段に座り、校庭を見ていた。
 稔の視線の先には、校庭の隅に佇み校舎の窓をジッと見詰める老人が居る。
 老人の視線の先には、保健室が有った。
 老人はその保健室の窓から、チラリチラリと姿を見せる、美人養護教員を目で追っている。
 稔の視線に気が付いた老人は、慌てて視線を逸らし、その場を立ち去ろうとした。
 しかし、老人は慌ててしまい、足をもつれさせ転んでしまう。
 稔は直ぐに立ち上がり、老人に駆け寄ると助け起こした。
「大丈夫ですか?」
 稔の心配そうな声に
「あ、あぁ…。足がもつれただけだから、何でもないよ…」
 俯いたまま、立ち上がろうとする。
 しかし、老人は起きあがる事が出来なかった。
 不思議な事に、右足の膝から下に全く力が入らない。
「やっぱり…、倒れ方を見て思ったんですが、足を捻ったんですね…」
 稔が老人の右足をソッと持ち上げ
「痛みますか?」
 顔を覗き込んで、問い掛ける。

 老人は、稔に急に顔を覗き込まれ、ドキリとし
「だ、大丈夫…痛…」
 針で刺された様な痛みに顔を歪めた。
 稔はソッと右足を下ろして、老人を横抱きに抱え上げると
「医務室で、処置して貰いましょう」
 そのまま、立ち上がる。
 老人と言っても、165p50s有る自分のの身体を、持ち上げられる様に思えなかった少年が、何の苦もなく持ち上げた事に驚き。
「い、いや…儂は大丈夫…、大丈夫じゃから…」
 医務室に行く事を固辞した。
「弥生先生に見て貰うのが、そんなにお嫌ですか?」
 稔の穏やかな声が、自分が見ていた美人養護員の名前を呼んで、ドキリとする。
「そ、そんな事は無い…、君は、確か柳井君じゃったな…。今、上郷先生の名前を呼んだようじゃが、仲が良いのかい?」
 老人は稔の顔を見詰め、問い掛けて来た。
「ええ…。色々と仲良くさせて貰っていますよ…、用務員さん」
 稔が微笑みを浮かべ、老用務員に答える。

 稔の答えに、老用務員は何か言おうとしたが、気が付いた時には既に医務室の前だった。
「弥生先生、急患ですよ」
 稔の明るい声に、医務室の扉が開き
「あら、稔君どうしたの?」
 声と同時に医務室を飛び出し、そのたわわな胸を老用務員の顔に押しつける。
「ぼふぉっ!」
 まともに乳房の柔らかさを、顔面で感じさせられ、老用務員は激しくむせた。
「あ、ご、ごめんなさい!」
 弥生は、身体を捻ると両手で胸を隠し、老用務員に謝罪する。
「い、いや…だ、大丈夫…き、気にしないでおくれ…」
 老用務員は稔の腕の中で、至福の表情を浮かべ、弥生の謝罪を受け取った。
(弥生…やり過ぎです…)
 稔が苦笑を浮かべ弥生を見ると、弥生は頬を染めながら、ペコリと頭を下げる。
 稔が用務員を医務室に運び、椅子に座らせる間に、弥生は[養護員不在]の看板を出し内鍵を掛けた。

 老用務員は椅子に座り、俯きながら正面にいる弥生の胸元を見ている。
(何と軟らかい感触…。あの胸を思い切り揉んでみたい…)
 老用務員は済まなさそうに肩を落としながら、その心の奥では自分の欲望を思い描いていた。
 稔はベッドに座り、ソッとその姿を見詰めている。
 弥生は老用務員の右足を丁寧に診察し
「そんなに、酷い状態では無いですね…、湿布とテーピングして置きますね」
 老用務員の足を自分の太股の上に置いて、机に置いて有る湿布に手を伸ばす。
 その瞬間太股に載せられた、老用務員の右足は弥生の太股を滑り、恥丘に当たった。
「あん」
 甘い鼻声を出し、弥生は湿布を掴むと潤んだ瞳を老用務員に向ける。
 その色っぽさに、老用務員はドキリとするが、同時にこれが茶番だと気付く。
「クックックッ…。柳井君…、君がさせてるのかね?」
 老用務員は、口調と雰囲気を変え右足を下ろしながら、稔を見詰める。
「ええ、そうです。用務員さん…いえ、玉置副理事長」
 稔は老用務員の本当の名前を呼んで、この茶番を認めた。

 老用務員は本名、玉置 藤治(たまおき とうじ)と言い、この学校の副理事長で、土地の所有者でもあった。
 玉置はそればかりで無く、この市の繁華街や、住宅地、工場地、湾岸等に多大な土地を所有する人間でも有る。
 市内の私有地の1/5は玉置の持ち物と言っても、過言ではない大地主であった。
「ほう、そこまで知っているとなると、只事では無いね…。君は一体何者だね?」
 玉置は目を細め、稔の顔を睨み付ける。
「そんなに警戒しないで下さい…。僕は、別に貴男に害を加えるつもりは有りませんから」
 稔は玉置の目線を真っ向から受け止め、微笑みを浮かべた。
「そう言いながら、近寄って来る者に、本当に害を与えない者は、居なかったがね…」
 玉置は、皮肉な笑いを頬に浮かべ、稔に告げる。
「困りましたね…。僕は、ただ貴男の権限をお借りしたいだけなんです…」
 稔は視線を外し、頭を掻きながら玉置に告げた。

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