夢魔
MIN:作

■ 第17章 始動10

 玉置は値踏みするような視線で、稔を見詰め
「権限? 何の事だ…。儂は単なる土地持ちで、何の権限も持たないぞ?」
 訝しみながら、稔に答える。
「土地などは、僕に興味は無いです。僕がお貸し頂きたいのは、副理事長としての貴男の権限です」
 稔がきっぱり答えると、玉置は笑い始めた。
「こんな学校の、副理事長の権利を借りるために、君はこんな茶番を仕込んだというのかね? 君は、儂を馬鹿にしているのか? そんな嘘が通る程、儂は耄碌して居らんぞ」
 ひとしきり笑い、鋭い目線を稔に向けた玉置は、一向に稔の言葉を信用しようとしない。
「困りましたね…、どれだけ本当の事を言っても、信用して頂かなければ、それは何の意味も持たない…」
 稔が真剣な表情で、腕を組み考え込むと、玉置が稔に問い掛ける。
「もし、君の言う事が本当なら、こんな副理事長の権利を使って、何をするつもりなんだ?」
 稔はやっと一歩前進したように感じ、自分の実験の構想と概要を玉置に話す。
 稔の話を黙って聞いていた玉置は、稔が話し終えた途端、大声で笑い始めた。
「君は大嘘つきか、大馬鹿だな! 誰がそんな空想話を信じる? 普通の者を奴隷化? 夢物語も大概にしなさい…」
 そこまで、言った時玉置は、言葉を飲み込んだ。

 稔の変わらない表情を見詰め、ユックリと首を回して、弥生を見詰める。
「ま、まさか…」
 玉置は弥生の顔を見詰めたまま、ポツリと呟いた。
「ええ、そうです。弥生は実験体で、今では僕達の奴隷です。弥生準備しなさい」
 稔が命じると、弥生はスッと立ち上がり、窓際に立つと遮光カーテンを全て閉める。
 そのまま、薄暗くなった保健室の中をよぎり、蛍光灯を点けると、白衣のポケットから首輪を取り出して、稔に手渡し白衣を脱いで、跪いた。
 稔が首輪を嵌めて弥生を促すと、弥生は玉置に向き直り、深々と平伏して
「奴隷の弥生で御座います。どうか、宜しくお願いいたします」
 玉置に挨拶をする。
 玉置は目の前で起きている事が、全く信じられなかった。
(か、上郷先生が奴隷…? あ、有り得るのか? 本当にこれは現実なのか?)
 呆然と佇む玉置に
「この計画が、進めばこの学校の大半は、マゾヒズムに目覚めます。その中で、玉置さんにピッタリの女性が居れば、優先的に仲介をさせて頂きますが、どうでしょうか?」
 稔が条件を提示する。
(ば、馬鹿な…有り得ない…。しかし、現に今こうやって、上郷先生が跪いている…。この少年の言っている事は、本当なのか?)
 猜疑心が強い、玉置は目の前にそれを示されても、中々信用できなかった。

 そして、自分の中に引っ掛かる、有る一つの事に気付く。
「ちょっと待ってくれ…。これだけ、大がかりな事だ、儂以外に誰が係わっている?」
 玉置は稔に向かって、関係者を問い掛ける。
「その名前をお聞きになると、僕としても引っ込みが付かなくなります…。ただ、玉置さんと[同等の権利を持たれている方]としかお教えできません…」
 稔は、言葉を濁しながら一礼して、答えた。
「若いくせに、慎重だな…。あの強欲野郎は、当然として。引きこもり医者まで味方に付けたのか?」
 玉置の質問に稔は
「引きこもりかどうかは、解りませんが、お医者様はお一人、今日の昼に承諾されました」
 ニヤリと笑いながら、答える。
 玉置は再び大声で笑い
「そこまで揃えているとはな…。と言う事は、黒幕は竹内だな…あいつは、腹黒いから足下を掬われん様にな…」
 感心した後、稔に注意を促す。
「気を付けさせて頂きます」
 稔は頭を下げて、玉置に告げた。

 稔は頭を下げながら
(またですか…他者の目に竹内さんがどう映るかは、問題にはしませんが…どうやら竹内さんは、誤解を招き易い人らしいようですね)
 稔は、自分の考えを人の意見で、左右される事は先ず無い。
 稔が一度思った事を変える時は、それ相応の[動かざる事実]が必要なのである。
 良い言い方をすれば[他人の意見に左右されない]だが、悪い言い方をすれば[頑固者]だった。
 稔が考えて居ると、玉置が口を開き
「ところで、もし儂が申し出を断ったらどうする?」
 稔に質問すると、稔はすかさず
「その時は、玉置さんの記憶を消させて頂き、玉置さんの解らないところで、計画を実行します」
 ニッコリ微笑んで、剣呑な事を平気で言った。
「記憶を消すって、また大きく出たな…。待て、確かウチの学校に、大学で心理学の講師をしている生徒が居ると聞いたが…」
 玉置は表情を険しくして、稔を見詰める。
「ええ、まあ割の良いバイトとして、色んな所に行ってます」
 稔は微笑みを崩さず、玉置に伝えた。
 玉置はポカンと口を開け、暫く稔を見詰めるが、次の瞬間、可笑しくて堪らない、といった表情で笑い始める。
「クックックッ…。当然断れば、この女も、お預けを食らうんだろ?」
 玉置の質問に、稔は頷き
「必然そうなります」
 端的に答えた。

 玉置は弥生に手を伸ばすと、引き上げ抱きしめる。
「儂に断れる訳は無い。まだまだ、別の女も試せるんだろ?」
 玉置の問い掛けに、稔は頭を下げて
「はい、中心人物には特定の条件以外、全ての奴隷をお試し頂いて構いません」
 丁寧に答えた。
 玉置は、稔の言葉に引っ掛かり
「特定の条件?」
 眉をひそめ首を傾げながら、質問する。
「はい、奴隷が真の主人として求めた方が存在し、その方が奴隷を飼う事を了承する場合です。いわゆる、主持ちの奴隷には、主人の許可無く、使う事は出来ません。これが、最低限のルールです」
「クックックッ…。横恋慕は禁止という訳か…青いな、君も…。理想と現実が、余り解って居らん様だが、悪くはないぞ…」
 玉置は、稔に対して、かなりの好意を持ち始め
「良いだろ、気に入った。その計画乗ってやろう! 儂の協力が欲しい時は、いつでも言いなさい、出来る事は、必ずしてやるから」
 ニヤリと笑った。
 こうして、二人目の副理事長も協力者となった。

■つづき

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