夢魔
MIN:作

■ 第17章 始動12

 校長の教育論に対して、教頭と指導主任が尻馬に乗るように、言葉を発する。
 しかし、稔はそれを左手で制し
「お一人ずつお願いします。僕は昔の偉い人ではありません、多人数の話しに、同時に答えるような芸当は、出来ませんから」
 ユッタリとした口調で、静かに言い放つ。
 教頭と指導主任は、稔の余裕のある態度に、圧倒され言葉を飲み込む。
 会見が始まって、僅か数分で老獪な教師達は、学校の生徒である稔に、イニシアチブを取られている。
 稔は頬に有るか無いかの微笑みを浮かべ、校長の話しに耳を傾け、相槌を打つ。
 いつしか校長の話し方は、捲し立てるような話し方から、語りかける様な話し方へと変わっていく。
 その変化を訝しげに見詰めていた教頭と指導主任は、口を挟み始める。
 しかし、2人の口調も抗議するような口調ではなく、校長と同じ語りかけるような、穏やかな口調だった。
 その事に、本人達は気付いて居らず、当初有った校長の物の言い方に対する、違和感は消え失せ、会見は穏やかに続いた。
 稔の指が、コツコツとメトロノームのような正確さで、ユックリ机を叩く。
 その、リズムに合わせるように、3人の教師達は、穏やかに抗議する。

 稔が庵に合図を送り、庵がスッと音も無く3人の後ろから、ルームサービスの食事を差し出す。
 校長達の視界に、庵の姿は確実に入っている筈だが、校長達は庵の姿を見ようともしない。
 庵が食事を配り終えると、稔は3人の教師に
「食事でも取りながら、お話を聞きましょう」
 にこやかに勧めると、教師達はそこに食事が有ることに、何の違和感も感じて居らず、自然に手を伸ばし始める。
 一見とても穏やかな会食のようだが、その実は異様な光景だった。
 本来ならこの3人は、破廉恥なDVDを送りつけられ、自分の学校の生徒が、それの出演者であると言われ、抗議に来た筈なのだったが、いつの間にか談笑している。
 そして、学校の中枢とも言えるトップ3に、これから学校で起こる、ふしだら極まりない事態を後押ししろと、稔が申し出る。
 そんな申し出の中、校長達はにこやかに語り合い、了承して食事を取っている。
 そう、この状況は、全て稔が操作していた。
 机を叩く指の音、稔の落ち着いた低い声、穏やかな物腰とそこから漂う雰囲気、そしてその中で、緻密に計算された言葉が校長達3人の心理状態を操作し誘導している。

 稔は庵に目配せすると、庵は頷いて奥の部屋に行き、3人の奴隷達を連れて来た。
 3人は屋外輪姦調教で使ったような、全頭マスクを被りボールギャグを口に嵌めている。
 学校の夏制服に、犬の首輪を嵌め全頭マスクでスッポリと顔を覆い、ボールギャグで声も立てられない姿は、異様だったが、校長達3人はまたも、そちらを全く見ない。
 いや、稔の操作によって、気付いていなかったのだ。
 3人の奴隷達は、それぞれ横の空いた席に座り、校長達に酌を始める。
 庵はその光景をビデオカメラに、納め始めた。
 その光景は、誰がどう見ても、自分の学校の生徒をはべらせながら、宴会をしているようにしか見えない。
 食事が進むにつれ、3人の教師達はアルコールが回り、呂律が妖しくなって来る。
「どうですか? DVDに出ていた少女達に、酌をされながら飲み食いするのは、良い気分ですか?」
 稔が3人に聞きながら、それぞれの傍らに座る、全頭マスクのセーラー服姿の少女を示す。
 稔が示すと、初めて3人の教師は、それぞれの隣の席を見て、少女達を確認する。

 この時3人の口から、理事長との繋がりを示す言葉が洩れた。
「おお、いつから居たんだね…。君は、美香君だねその口元は、忘れないよ…」
「ふふん、この胸元のほくろは、美紀ちゃんだね…」
「日焼けの跡から見ると、お前は前田だな…」
 3人は全頭マスクを被った、3人の素性を一発で言い当てる。
 3人に送りつけたDVDには、奴隷達の身元を空かす情報は、一切含まれていない。
 3人の情報が入った、加工前のマスターコピーを持っているのは、理事長ただ1人であった。
「どうして、分かったんですか? 君達マスクとギャグを取って良いよ…」
 稔は質問すると、美香達に指示し素顔を晒させた。
「それは、知っていたからさ…」
 指導主任が、当然のような顔をして答える。
「どうして、知っていたんですか?」
「そりゃ、聞いてたしDVDにも、映っていたじゃないか…」
 教頭が呂律の回らない口で、稔の質問に答えた。
「誰に聞いたんですか…」
 静かだが、有無を言わせぬ口調で、稔が問い掛けると、3人は一様に首を捻り
「誰だったっけ?」
 口々に答える。

 稔はその様子を見つめ、理解した。
(これは、健忘催眠が掛けられています…事象や物事を消す事は、危険を伴いますから、恐らく人物に対する記憶だけ、消したのでしょう…。だが、何のため? 3人と理事長の関係を、僕に知られては、いけなかった…。そう考えるのが一番妥当ですが…、それこそ何のため? 僕を試して居るんでしょうか…)
 稔は考え始めたが、その思考を校長の言葉が、止める。
「ほほほぉ〜っ…、なんだ美香君は、制服の下は何も着けては居ないのか? どれ、校長直々に調べてやろう」
 いやらしい笑みを浮かべて、美香の制服の胸元に手を差し入れ、抱きしめてキスしようとしていた。
 美香は従順にそれに従い、目を閉じて唇を差し出す。
 稔の中に、何かが頭を持ち上げ、稔を突き動かした。
 バーンと大きな音を立て、机を叩いた瞬間
「動くな! 閉じた目は開かない…」
 大きな威圧する声で動きを止め、その威圧のまま、声の大きさを変え、鋭い調子で素早く指示を出す。
 突然鳴った大きな音に驚いた6人は、目を瞑って首をすくめた。
 6人は稔の言葉通り、目を閉じたまま彫像のように、ピクリとも動か無くなる。
 稔はそのまま、流れるように指示を出し、その場を一挙に催眠状態へと導いた。

 稔の後ろで、ビデオを回していた庵が、[はー]と大きな息を吐くと、固まった身体を動かし始め
「稔さん、急ですね…奴隷達は、脱がせる筈じゃなかったんですか?」
 少し驚いた口調で、稔に問い掛ける。
「構いません、既に理事長との関係は明白です。何処までの関係か…それと3人に、だれがこの健忘催眠を掛けたのか、これから聞く必要が有ります」
 稔は抑揚のない声で、庵に告げた。
 庵は稔の口調に、畏い物を感じ、口を閉ざすとビデオを置き、奴隷達の肩に触れる。
「今肩を触れられた者は目覚めなさい、そうでない者は更に深く眠りなさい」
 稔の声を聞いた、奴隷達はハッと目覚め、教師の3人は一段深く頭を下げて、眠りについた。
 稔はそのまま、3人の教師を深い眠りに誘い、尋問を始める。
 脳の記憶野の隅々まで、総動員する尋問。
 その中で、答える者は一切の虚偽を行えず、質問者の言葉に答える。
 稔は3人から情報を引きずり出すと、欠落するピースを見つけた。
 そのピースとは、有る人物に対する情報。
 その人物に関する、データーは全て封をされ、忘れさせられている。
 しかし、稔はそのデーターが抜け落ちた部分を拾い集め、消えた理由、必要性それら全てを浮かび上がらせた。
「どうやら、僕は隠し事をされていたようですね…。狂が言ってた事は、本当のようです…」
 ボソリと呟いた。

 稔は3人に向き直ると
「さあ、目を開けて、自分の横の少女を見なさい。今から貴男達のお相手をするのは、彼女達です」
 静かに3人の教師に告げると、校長達はマジマジと美香達を見詰める。
「3人で話し合って、思いつく事全て、この少女達に行って下さい。この奴隷達に[嫌]はありません」
 稔の宣言に、美香達は精一杯の笑顔を作り、校長達に微笑みかけた。
 校長達の手が美香達に伸びようとした時、稔が声を掛ける。
「眠れ…」
 稔の言葉に校長達は、手を伸ばしたまま眠った。
「記憶の奥に焼き付いた、少女達を貴男達は話し合って、頭の中で陵辱して下さい。但し、その記憶は実際に経験した事として、記憶に残ります」
 稔の言葉を聞いて、美香達の表情が驚きに変わる。
 稔が合図をすると、庵は無言で少女達に唇の前に人差し指を翳し、奥の部屋に続く扉を示す。
 美香達が、一斉に稔を見詰めると、稔はユックリ顎を引き頷く。
 美香達は静かに席を離れ、不安そうな表情を浮かべ扉の前に移動し、稔に一礼すると奥の部屋に消えた。
 美香達が消えた扉を見詰め、稔は一言、
「やっかいな事に、成りましたね…」
 小さな、小さな声でポツリと呟いた。

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