夢魔
MIN:作

■ 第18章 使役1

 スイートルームの主寝室で、重い沈黙の中、少女達3人が項垂れていた。
 庵は部屋に入るなり、そんな3人に気が付いて、訝しみながら声を掛ける。
「どうしたんだ? お前達は、あのおっさん連中とヤリたかったのか?」
 庵のダイレクトな物の言い方に、美香達はフルフルと頭を激しく振るも
「稔様は、どうしてあんな事を言われたんでしょう…」
「私達は何か、お気に障る事をしたんでしょうか?」
「庵様…沙希は何か変な表情してました?」
 稔の急な方向転換に、不安を感じていた。
「あぁ、気にするな、お前達のせいじゃない…。どうやら、裏が有りそうなんでな。稔さんの咄嗟の判断だ」
 庵はぶっきらぼうに、しかし丁寧に説明する。
 庵の説明を聞いて、沙希だけが表情を和らげたが、美香と美紀はまだ不安が拭えない。

 それを見た庵が、何か口に出しかけた時、扉が開く。
「あっ、稔様…。私達はどうすれば宜しいのでしょうか…」
 美紀が稔の姿を見て、直ぐに平伏し質問した。
「このような形に成ってしまって、私達はもうご不要でしょうか…」
 美香が消え入りそうな声で、平伏しながら質問する。
 2人の質問に、庵は納得して稔の方を見ると
「どうやら、3人のお仕事は無くなりました。あの3人は、初めから理事長の息が掛かっていたようです。そんな者に僕達が手塩に掛けて育てた奴隷を、預ける事は出来ません。こんな、事をする者には妄想で充分です」
 稔は無表情で、静かに告げた。
 稔の答えに美香と美紀は、自分達の質問に対する答えが入っておらず、焦燥感を募らせる。
 しかし、稔はそれきり口を開こうとしない。
 無言の圧力に負け、美紀が口を開いて、質問を繰り返す。
「み、稔様…私達は、私達はこれから、どうすれば良いんでしょうか?」
 美紀の質問に、美香が続いて
「もうお側に置いては、頂けないのでしょうか?」
 必死な声で問い掛ける。

 稔はそんな2人を見下ろし
「どうして、そんな事になるんですか? 勿論、お二人が離れたいと仰るなら話は別ですが、貴女達の主人が決まる迄は、僕がフォローすると言ってませんでしたか…」
 キョトンとした表情で、2人に答えた。
 稔の答えに、2人は上体を跳ね上げ
「ほ、本当ですか? 一緒に居て良いんですか?」
 同時に同じ言葉を上げた。
「え、ええ…僕はそのつもりでしたけど…。何か、問題でもありましたか?」
 稔の質問に
「いえ、今まで仰られていた事と、違う事が起こり私達は不要に成ってしまったのかと、不安で…」
「これからどうすれば良いのか、解らなくなって…。怖かったです…」
 美香と美紀が小さく成りながら、ポツリと呟く。

 稔はそんな2人を見詰め、微笑むと
「そんな事する訳が有りません。こんな素晴らしい奴隷を、どうして捨てる事が出来るんです」
 静かな低い声で、優しく告げた。
 途端に2人の瞳はとろけ、頬を真っ赤に染めて俯く。
 2人は正座した太股を、スカートの中でモゾモゾと摺り合わせ、小さく成りながら
「あ、有り難う御座います…」
 小さな声で、呟く様に礼を言った。
 沙希はそんな2人を見ながら、急に庵の方に向き直ると、ニコニコと微笑み、何かおねだりする様な視線をぶつける。
 庵はその視線に気付いたが、知らん顔をしそっぽを向くと、沙希はガックリと項垂れた。
 庵は小さく舌打ちすると、スッと沙希に近づき、その頭をガシガシと乱暴に撫でる。
 沙希は庵に撫でられた後、下から庵を見上げ嬉しそうに笑った。

 稔は庵に向き直り
「狂とは、連絡取れましたか?」
 質問すると
「い、いえ…狂さん、携帯の電源を落としてます。俺の改造携帯ですから、電波が届かない所は、地下にも有りません」
 庵は沙希の頭から、パッと手を離し稔に答える。
 沙希は残念そうな顔をすると、そそくさと美香達の横に並んだ。
「全く、何をしてるんだか…。必要な時に居ないんですから…」
 稔が腕組みしながら、呟くと何か考え始める。
 暫く考えて、計画が固まったのか
「良いでしょう、狂には僕から連絡を入れます。今日の所はこれで解散しましょう」
 庵に告げ、美香達に向き直ると
「美香と美紀は僕と一緒に行きましょう。今日梓は、疲れ果てて帰って来る筈です。僕と一緒に慰労して上げて下さい」
 2人に告げた。
 美香と美紀は嬉しそうに返事を返すと、2人で手を取り合って喜び
「沙希は、庵に送ってもらいなさい。庵頼みましたよ」
 沙希に指示を出すと、庵に告げる。
 庵は、稔の顔を見詰め、呆気に取られた表情をすると、苦虫を噛み潰したような顔をした。
 沙希は思わぬ稔の指示に驚いた後、嬉しそうに庵を見詰める。
 沙希はソワソワと腰を浮かし、飼い主を前にした犬の様になっていた。

 5人は私服に着替えて、ホテルを後にすると、二手に分かれ移動し始める。
 庵と二人っきりになった沙希は、頬を赤く染めニヤニヤと崩れる顔を止められない。
 庵は無言で、沙希の前を歩き、沙希はその後ろを小走りに追い掛けた。
 しかし、そんな沙希の表情も、5分もすると沈み始める。
 人気の無い通りに差し掛かると、後ろから沙希が声を掛けた。
「あ、あの…庵様? ひょっとして、何か怒ってらっしゃいます?」
 無言のまま、大股で歩く庵の背中に、沙希が怖ず怖ずと質問する。
「どうしてだ」
 庵は、前を向いたまま、ボソリと沙希に言葉を返す。
「庵様…ずっと、お話になられないし…。沙希と一緒に歩くのが、お嫌みたいなんですもの…」
 沙希は泣き出しそうな表情で、庵に答えると
「そんな事は無い…。俺は、歩く時はいつもこうだ」
 庵は歩みを止める事無く、またボソリと答えた。
「そうですか…」
 庵の答えは、沙希の質問を真っ二つにし、会話が途絶える。

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