夢魔
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■ 第18章 使役3

 稔が立ち去った医院長室で、全裸のまま直立しその裸身を惜しげもなく、金田に晒し続ける梓。
 その梓の裸身を無言で見詰める金田。
 金田は梓を見ながら、稔の言葉を思い浮かべた。
[これは、僕の物です…][どのように扱っても構いません…][梓に嫌は有りませんから…]
稔の言葉が頭の中を飛び交い、一つの単語が何度も繰り返される。
[奴隷です…]
 金田の頭の中で、この短時間にそれこそ数十回繰り返され、心に染み渡たった。
 やがて、金田の喉から[クッ、クッ、クッ]とくぐもった笑いが込み上げ、それは次第に馬鹿笑いに変わる。
 ひとしきり大声で笑った金田が、笑い声を納めると下卑た笑い顔で梓を睨み
「お高く止まっていた女医様も、何が有ったか知らないが今は高校生の牝奴隷か…。堕ちたモンだな…えぇ〜? 森川先生様…」
 皮肉をタップリ含ませて、梓に話し掛けた。
 しかし、梓の精神には、そんな程度の物は、何の痛痒も感じさせる事は出来ない。
 梓は金田に妖艶に笑いかけ
「誠に持って、その通りで御座います。分をわきまえない態度をお取りしていた事、心より謝罪いたします」
 深々と頭を下げ、金田に謝罪する。

 金田は、妖艶な雰囲気を漂わせながらも、凛として謝罪する梓の姿が、無性に腹立たしくなってきた。
「けっ! 奴隷に堕ちたくせに、生意気な態度を取るんじゃない! それとも、お前の主人は人に対する謝罪の仕方も教えなかったのか? 全く高校生の餓鬼なんかが、奴隷を持っても躾一つ出来ないんだろ」
 金田は苛立ち紛れに、普段から高い声を更に高くし、梓に皮肉を言って稔をなじる。
 稔をなじられた梓は、途端に雰囲気が変わり、氷のような視線で金田を見詰め
「私の態度が不遜でしたのは、私の不心得です…。決してご主人様の躾がお悪いのでは、有りません。今後一切、ご主人様を悪く言うような事は、お止め下さい。お願いいたします」
 梓は金田の前に正座し、指を付くと深々と頭を下げ、額を絨毯に押しつける。
 金田は梓の迫力に、部屋の温度が一気に下がったのかと思う程、寒気を感じ震えるが、掌にはじっとりと汗をかいていた。
 金田はゴクリと息を飲み、[森川梓]と言う女性の姿を上から見下ろして、その変化に驚いている。
(ほ、本当に人が変わっている。俺が以前の梓を見た最後は、確か2週間無い…10日程前の事だ。なのに、僅かな間にこれ程の迫力を身に付け、これ程の妖艶さを滲ませるまで、変わる物なのか…。どんな事をすれば、これ程人を変える事が出来るんだ?)
 梓には稔の事を悪し様に言ったが、金田は稔の手腕に舌を巻いていた。

 金田はピクリとも動かず、平伏する梓を見下ろし
(認めざるを得ない…こんな風に短時間で人を変えられる人間を…。それが、例え俺より30歳以上も年下の者でも、尊敬するに値する…。そして知りたい、この技術を…、その方法を…。その為なら、全て投げ打っても構わない。これは男として、いや…、俺のような変態の醜男には、それだけの価値がある…)
 心の底から稔の技術を渇望する。
(このまま、悪く言って終わらせると、梓が何を言うかも知れん…。第一、梓が不機嫌なままだと、何をしてもつまらん…ここは早々に形だけでも謝るか…)
 金田は梓の白い背中を見て、考えをまとめた。
「ん、ん〜っ…。い、いや、森川君…私も少し言い過ぎた…。頭を上げてくれ、これ、この通りだ…」
 金田は梓にそう言うと、自分の頭をソファーに座ったまま、深々と下げる。
 すると、梓の正面に薄くなった頭頂部が、丸見えになった。
 梓は金田が頭を下げた気配を感じて、直ぐに顔を上げ
「お止しになって下さい、ゲストの方にそんな事をされては、私が叱られます。私はご主人様の事を、あんな風に言われるのは、どんな事より辛いのです…。私の方こそ、誠に失礼いたしました…」
 梓は金田の顔を上げさせ、自分はまた深々と頭を下げる。

 そんな梓を見て、金田はまた自分の中に、暗い感情が起こるのを感じていた。
 その感情は、明らかな稔に対する嫉妬であった。
 自分の恋い焦がれた女を奴隷に落とし、あまつさえ、毛虫のように毛嫌いしていた自分に、身体を差し出させる程心酔させる稔に、尊敬と同時に同量の嫉妬が沸き上がっていたのだ。
(くそ! 何でこんな風に、言えるんだ…。よし、どこまでこいつが変わったか見極めてやる)
 金田は稔に対する尊敬と嫉妬から、梓を試す事にした。
「森川君。私は、君の事を何と呼べば良いんだね?」
 金田は声のトーンを普段に戻し、梓に尋ねると
「何なりとお好きな呼び方を、お使い下さい。[牝豚]でも[奴隷]でも何でもお決め下されば、私はそれに従います」
 梓は平伏したまま、金田に答える。
「それじゃ、君の主人は、君の事を何て呼んでるんだね?」
 金田は白々しく梓の口から、その呼び名を言わせた。
 梓は一瞬沈黙し
「[梓]で御座います…」
 金田に答える。

 金田はその答えに満足し
「では、私もこれから君の事を[梓]と呼ぼう…。解ったか、梓…」
 いやらしい笑みを浮かべながら、梓に告げた。
 すると梓の反応は、金田が思っていた通りの物が、帰ってきた。
「は、はい…解りました…。宜しくお願いいたします…」
 一瞬躊躇って、小声で同意の言葉を吐くが、明らかに動揺している。
(そうだろう、そうだろう…敬愛する主人と、毛嫌いする俺が、同じ呼び方で同じ奉仕を命令するんだ…。そりゃ、嫌だろう)
 ネチネチとした金田の思惑だった。
 金田は、梓の態度に笑みを浮かべて見下ろした。
(く、悔しい…。例えご主人様の命令とは言え…、この人に名前を呼び捨てにされるなんて…。ご主人様は、名前に拘りを持っていると言われ、私に授けてくれた呼び名を…軽々しくこんな男に呼ばれるなんて…)
 梓は表面上は平然としながら、内心は屈辱に震えて居る。
 その内面の悔しさが微かに滲み出し、金田の屈折した思いを満足させた。
 金田はこうして、梓の気持ちを弄び、徐々に有頂天に成って行く。

 金田はフルフルと瞼を震わせ、必死に心のバランスを取ろうとする梓に、更に命令を下す。
「梓…。奴隷の挨拶をして見せてくれ…。いつも、ご主人様にするようにな…」
 ニタニタと笑いながら、金田が命じると、梓は一瞬表情に翳りを露わにし、上目遣いで金田を見て直ぐに表情を戻し
「未熟な奴隷の梓の身体を使って、存分にお楽しみ下さい。どんな事にもお応え出来るように、梓を調教してください」
 深々と頭を下げ、平伏して金田に挨拶した。
 金田はそんな梓の表情を見て、心の底からゾクゾクと興奮が走り始める。
(くくくくっ…嫌だろう…。ご主人様にしか言わない台詞を、俺のような醜男に自分から言うのは…。もっと辱めてやるからな…楽しみにしていろ)
 ほくそ笑む金田は、梓が屈辱を感じている事に、満足しながら
「服従する事を示すのは、どうして居るんだ?」
 嬉しくて堪らないと言った声で、梓に問い掛ける。
「はい…。おみ足を舐めさせて頂いてます…」
 梓は躊躇うような小声で、金田に告げた。
 稔の至上命令、[ゲストには生命の危機、若しくは生活基盤を脅かすような事態以外は、全て僕に接するように行いなさい]この命令がなければ、絶対に金田に言う事の無かった奉仕。
 そして、絶対にしたくなかった奉仕がこれだった。

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