夢魔
MIN:作

■ 第19章 出張5

 車はポッカリと空いた、駐車スペースに止められる。
 由美子はダッシュボードから、タオルを取り出すとイソイソとシートと股間を拭う。
 そんな由美子に、後ろから信じられない言葉が投げ掛けられた。
「梓、俺は喉が渇いた…お茶を買ってこい。その格好のままでだ…。由美子扉を開けろ」
 金田が梓に向かって命じた後、由美子に自動扉を開けるように命じたのだった。
 由美子は慌てて、辺りを見渡す。
 平日の午前中と言う事もあり、さほど大きなサービスエリアでも無かったので、人影はまばらだが、それでもザッと見て、20人以上の人間が居る。
 そんな中、あの拘束姿で出て行く等、行きすぎた調教以外の何物でもない。

 自分の主に指示を求めようと振り返った時、由美子は更に信じられない言葉を聞いた。
「はい、かしこまりました。ですが、股間の革ベルトをお戻し下さいませ…。このままでは、肉穴が見えてしまい、罪に問われてしまいますわ」
 梓が返事をした後、平伏して金田にバイブを戻してくれと、頼んだのである。
 車内の空気が凍り付く中、金田は馬鹿笑いすると梓の股間にバイブを埋め直し、革ベルトを締め上げた。
 オ○ンコにバイブを差し込んだ時、ヌチャリと白濁した精液と愛液の混合物が溢れ出す。
 金田はそれを指で掬い取り、梓の美しい顔に塗りつけ
「ほら、淫乱の奴隷に相応しい化粧をしてやる。自動販売機じゃなく中の売店で買うんだ、その精液臭い息を吐いて買ってくるんだぞ」
 梓に命じる。
 梓は金田の指に付いた混合物の汚れを、舌で綺麗に舐め取りながら
「解りました、仰せのままに致します。医院長様」
 金田の命令に返事を返す。
 そして、マイクロバスの自動ドアが開かれた。

 マイクロバスの扉から、梓は足を踏み出す。
 真っ直ぐ顔を正面に向け、右手に財布を持ち、日常の散歩のような軽い足取りで、駐車場のアスファルトの上に立つた。
 雲一つ無い晴天から降り注ぐ陽光が、梓の身体をまばゆく照らす。
 一陣の風が吹き、梓の髪を巻き上げ掻き乱すと、梓は軽く首を振って髪の毛を直し、売店に視線を向ける。
 売店に向かって梓がスタスタと歩き始めると、自動ドアが閉まった。
 真っ白い均整の取れた裸身に、黒い革ベルトが何本も巻き付き、肝心な部分は隠れているが乳房が砲弾のように絞り出されるさまは、明らかに梓の扱いが解る衣装だった。
 真っ赤なヒールを履いた梓は、身体を隠す仕草や羞恥の態度など微塵も現さない、周りのの視線など一切気にせず、艶然とした微笑みを浮かべ、売店に向かう。
 その態度を見ていた由美子は、梓の後ろ姿に憧れすら感じた。
(凄い…私は、例え命令されて出て行ったとしても…あんなに毅然と歩く事なんて出来ない…)
 梓の拘束着姿は一種の芸術作品にすら見えた。
 梓を見守る周りの反応は性別の関係なく、一目見た時理解できず、呆気に取られて梓の顔を見て驚き、食い入るように全身を見詰める。
 皆判を押したように同じ反応をし、凍り付く。
 梓の持つ雰囲気が、この異常な姿を誰も指摘でき無くさせていた。

 マイクロバスの中から梓を見詰める金田の瞳に、苛立ちが立ちのぼる。
(何故だ…何故出て行ける…。俺は確かに命令した…だが、この命令を守っているのは…俺の命令だからじゃない…)
 金田はこの場にいないのに、梓をここまで支配する、稔に対して激しい嫉妬を燃やす。
 そして同時に、自分の与える苦痛や陵辱や恥辱を、何の躊躇いも無くこなす梓に苛立った。
 金田はスーツの上着を引き寄せ、ポケットの中からリモコンを4つ取り出すと、全て最大にした。
 窓の外を歩く梓の身体が、突然立ち止まり小刻みに震える。
 梓の変化を見て取った溝口が、金田に向かって低い声で怒鳴った。
「金田! 馬鹿、やりすぎだ!」
 溝口の怒りを孕んだ言葉に、車内の全員が溝口を見詰める。
「俺は、調教は厳しくしろと言ったが、限度は考えろ!」
 溝口の威圧する低い声に、車内は不穏な空気に包まれた。
 しかし、金田は溝口に対し、虚ろな笑い声を上げ答える。
「駄目なんだ…。俺が何をしても、あいつには何でも無いんだ…。ほら、見てみろよ…」
 金田はずっと梓の背中を見ていたが、今はもう普通に歩き始めていた。
 金田の指し示す方に目を移した車内の者は、一様に息を飲む。
 梓は、金田の言ったとおり、何事も無かったように、売店の中に消えていった。

 溝口は自分の考える、プレイの限界、調教の極限がガラガラと崩れていく気がした。
 30年の経験で培われたノウハウの、その奥にある物を今、まざまざと見せつけられている。
 溝口は金田の胸ぐらに手を伸ばし、ユックリ引き寄せると
「誰だ…? あいつの主人は誰なんだ! 答えろ金田!! 俺に…俺に教えて呉れ!」
 金田を揺さ振りながら、懇願した。
 金田は溝口の腕を振り払うと、頭を抱え込み
「駄目だ! 言えない! …俺が名前を出すと、梓が…梓が取り上げられちまう…」
 血を吐くような声で、溝口に告げた。
 溝口は金田を見下ろし
(駄目だ…こいつも、梓の主人に縛られている…。まるで、麻薬だ…。梓は人の形をした麻薬…)
 自分で、思った言葉に、ゾクリと震え上がる。
 溝口は身体を起こして、ソファーに座り直すと金田に静かに告げた。
「解った…お前には、もう聞かない…。だが、梓の拘束着は帰ってきたら、もう外すんだ…。体力的に言って限界の筈だ」
 溝口はソファーに深く身体を沈め、右手で顔を押さえて金田の返事を待つ。
 暫くの沈黙の後、金田の口から
「駄目だ…これぐらいじゃ、梓は何ともない…。あいつを追いつめなきゃ、俺の物にならない…」
 震える声で、溝口に異を唱えた。

 溝口が身体を起こし、金田に何か言いかけると、由美子が小声で溝口を呼ぶ。
「ご主人様、彼女が戻ります」
 その声とほぼ同時に、自動扉が開き梓が車に戻ってくる。
 梓が車中に入ると直ぐに自動扉は閉まり、由美子は直ぐさま車を走らせた。
 そうしなければ、この車が取り囲まれそうな雰囲気だった。
 実際、数人の男性が、フラフラとマイクロバスに歩み寄って来ていた。
 由美子はそれらの人間を押しのけるように、クラクションを鳴らし本線に向かってハンドルを切る。
 ドキドキと高鳴る鼓動は、危機感を感じた物なのか、梓の行動が原因なのか由美子には解らない。
 ただ、拭き取ったばかりの股間には、また同じような水溜まりが拡がっていた。

■つづき

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