夢魔
MIN:作

■ 第19章 出張7

 口元を両手で覆い、じっと梓を見詰める溝口、その視線を微笑みで受ける梓。
 溝口は両手で覆った唇を忙しなく何度も舌で湿らせ、質問を続けようとする。
 だが、両手を下ろし、口元を露わにして発せられた溝口の言葉は
「解った。ありがとう、ゆっくりすると良い…」
 梓を労うモノだった。
 溝口は、自分の世界が崩れ落ちる事を恐れ、梓の調教に対する質問を止めた。
 そして、稔の事を詮索するのも同時に諦める。
 梓が溝口に礼を言うと、その後は誰一人として、口を開かなかった。
 溝口は黙々とビールを煽り、金田はうなだれ、長橋と岩崎は呆然と溝口を見詰め、綾と美沙は濡れた瞳を梓に向け、無言のまま時を送る。
 やがて車は高速道路を降りて、市街地を走り始め目的地に到着した。
 そこは、大きな公会堂で駐車スペースには、高級車がスズナリに止められている。
 金田達が、勤務する地方の医師会が主催する研究発表会が、行われる会場だった。
 金田達が車を降りると、マイクロバスは扉を閉めて走り始める。
 予約している旅館に向かい先にチェックインするためだった。

 車を降りた5人は、会場に向かう。
 5人の沈黙は、まだ続いている。
 この時うなだれていた金田が、辺りのざわめきに気付き、顔を上げた。
 辺りの男達が梓を見て、色めき立って居たのだ。
 あちこちから梓を盗み見ては、ひそひそと話し合っている。
 その言葉はどれも、梓の美貌について語られた物だった。
 金田はその言葉が嬉しかった。
 自分が恋い焦がれ、今は自分の物にしている女を賛辞されたからだ。
 金田はその言葉が苛立たしかった。
 どれだけ望もうと、決してその女の心が、自分の物にはならないからだった。
 金田は、その言葉がおかしかった。
 この女の本質を知らず、その上辺だけを誉め讃えて居たからだった。
 顔を上げた金田の目に、狂気にも似た色が浮かぶ。
 金田は、スーツのポケットに手を突っ込むとリモコンのスイッチを次々に入れて行く。
 梓の身体がビクリと震え、微かに身体をくねらせる。
 梓の乳首とクリトリスが激しい振動に曝され、オ○ンコとアナルのバイブがうねり始める。
 梓は快感に身を捩り、革ベルトの締め上げを受ける。
 梓の身体から、忽ち暴力的な色気が溢れ出し始めた。

 先頭を歩く溝口は、金田が梓を責め始めた事に、まだ気付いていない。
 溝口がそれに気が付いたのは、知り合いの医師が溝口に近付き、梓の紹介を求められ、振り返った時だった。
(金田! 馬鹿止めろ! こんな所で、バレたら身の破滅だぞ!)
 金田の暴挙を止めようとした溝口を、梓が目線と小さな仕草で止める。
 溝口はその制止に驚きながらも、梓の意志に従った。
(この女は、全てを受け入れると言うのか…)
 呆然としながら、妖艶な色気を漂わせている梓を医師に紹介する。
 梓の色気を正面から受けた医師は、ゴクリと唾を飲み込みしどろもどろな挨拶をして、逃げるように消え去った。
 金田は狂気に歪んだ顔で、その医師が消えて行くさまを嘲笑う。
 5人は会場に入り、席に着く。
 梓はこの後、研究発表会が終わる3時までの2時間、拘束着の締め付けとバイブレータの振動に責め続けられる。
 そんな梓を金田は狂気を湛えた目で見詰め、溝口は尊敬の念を湛えた目で見詰めた。
(凄いモノだ…。人は此処まで意志の力で耐える事が出来るんだ…)
 梓は車内に居る時より、その醸し出す色気を抑え込み、凛とした佇まいで2時間を見事耐え抜いた。

 発表会が終わり、椅子から立ち上がった梓のワンピースのお尻を、後ろに座っていた岩崎が慌てて小声で指摘する。
「溝口さん! 梓さんのお尻」
 岩崎の指摘に目線を向けると、梓のワンピースのお尻には愛液が大きな染みを作り、今にも滴り落ちそうなほど濡れそぼっていた。
 流石の梓も物理的な刺激に反応する、生理現象をコントロールする事は、出来なかったのだ。
 溝口はどこかホッとすると、梓の両肩に手を置きクルリと背後に回り
「俺の身体で隠すから、気にせず進みなさい。岩崎、椅子の始末を頼む。長橋、迎えを呼んでくれ、大至急で来いと付け加えてな」
 溝口は岩崎と長橋に指示を飛ばすと金田を凄い表情で睨み付け
「これぐらいで良いだろ…。もう、止めろ!」
 小さく鋭い声で言った。
 溝口の声に弾かれたように金田はビクリと震え、急速に狂気の色を薄れさせ、慌ててポケットに手を突っ込んだ。
 バイブレータの責めから解放された梓が、ソッと肩に置かれた溝口の手に重ねられ
「お気遣い有り難う御座います」
 感謝の言葉を告げる。
 溝口は後ろから、梓の表情を見てドキリと胸を高鳴らせる。
 その表情は、快感に瞳を濡らし、羞恥に震え、服従に酔っていた。

 溝口は思わず抱きしめそうに成る自分の腕を必死で止める。
(くっ、危ない…、分かっていても、思わず抱きしめそうだった。こんな表情をされたら、普通の男なら絶対、虜にされるぞ…)
 溝口は梓の顔から、強引に視線を外し、驚嘆した。
(もう、この女に関わるのは止めよう。絶対に後悔する事に成る)
 溝口はソッと梓の肩を押して促すと、出入り口に向かう。
 5人が出入り口に着くと、見計らったようにマイクロバスが滑り込んで来る。
 溝口は、訝しげな表情を浮かべながら、開いた自動扉をくぐった。
「妙に早かったな?」
 溝口が運転席に座る由美子に声を掛けると
「何か直ぐに呼ばれる気がして、2人を下ろした後引き返して、直ぐそこのスーパーの駐車場で待って居たんです」
 由美子は溝口に明るく答える。

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