夢魔
MIN:作

■ 第19章 出張11

 項垂れる溝口の後ろで美沙が突然バタバタと走り出し、襖を開けて出て行こうとする。
 岩崎がそんな美沙の動きに驚いて
「おい、何処へ行くんだ」
 質問を投げ掛ける。
「梓お姉様、絶対にお疲れの筈だから、お布団敷いて来ます」
 美沙は真剣な表情で岩崎に応えた。
 美沙の表情には、[何かせずには居れない]そんな意志が込められている。
 岩崎は曖昧に頷くと、美沙を送り出す。
 すると、綾も[私も行く]と美砂の後に続き、居間から走り出した。
 この2人が、自分から進んで何かをすると言う事は、今まで殆ど無い。
 2人とも金銭的な理由から、主従関係を結んで居るため、仕方なく動いている感があった。
 それが、梓を目の当たりにし、カルチャーショックを受けたのだ。

 呆然と美沙と綾が、出て行った襖を見詰める男3人。
「何なんだ…、一体何がどう成ってる…。梓お姉様だと…」
 溝口が頭を抱え呟く。
(あの女は、今まで俺が調教していた女すら変えて行くのか…。その、姿に憧れさせ、模倣させずには居られない…そんな気持ちにさせるのか…)
 溝口の中で、何かが変わり始めた。
(当然だな…あらゆる事で自分達の常識の外にあり、それでいてあくまで美しくたおやかであり、気品と淫蕩さを兼ね備え、人の目を奪わずには居られない…そんな女に、憧れない訳がない…。おれは、30年何を見てきたんだ…何をしてきたんだ…)
 ガックリと項垂れた溝口は、更に自分を振り返り、自分の不甲斐なさを悔やむ。
 だが、溝口はそこで終わらなかった。
 グッと唇を引き結び、頭を持ち上げると有る決意を固める。
(認めよう! そして学べば良い。全てが自分より上なら、そこから少しでも学べば良いんだ! ちっぽけなプライドにしがみついてどうする…。スタンスを変えれば、この出会いは僥倖以外の何物でも無い筈だ)
 溝口はスッと立ち上がると、スタスタと浴室に向かう。

 溝口の変化について行けない、岩崎と長橋はオロオロと狼狽えている。
「何をしてる、そんな事だからお前達は、あんな小娘も制御出来ないんだ。もっと堂々としろ! まぁ、俺自身も似たような物だったがな…。風呂に入るぞ、お前達も梓さんの奴隷振りを見て学べ。そうすればあの娘達も、奴隷らしく変えられるかも知れないぞ」
 溝口は明るく笑い飛ばしながら、自分の今までの態度を恥じた。
 溝口はあっと言う間に立ち直り、自分を取り戻す。
 敗北を認めそれを直ぐに吸収し、次に向けて進み出す切り替えの速さ、これが溝口の最大の武器なのかも知れない。
 副寝室に向かい、美沙と綾が寝床を用意している所に現れた溝口が
「お前達、梓さんと風呂に入るぞ。嫌なら来なくて良いが、どうする?」
 ニヤリと微笑み2人に問い掛ける。
 2人は突然ご機嫌顔で現れた溝口に驚きながら、その質問に跳びはね
「入ります! 絶対ご一緒したいです!」
「やった〜! 直ぐに用意します」
 喜色を全身で現し、部屋を飛び出していった。
 溝口は笑みを浮かべ2人を見送ると、そのまま浴室に向かう。

 浴室の扉を開けると、脱衣場のスペースで由美子が正座して浴室内を見詰めていた。
 その横顔には、筆で掃いたような朱が走り、興奮に染まっている。
 溝口が扉を開けた事にも気付かず、ジッと見入っていた。
「由美子? 何してる…」
 溝口が声を掛けると、由美子の方がビクリと跳ね、溝口の方を慌てて向く。
 由美子の視線はドロドロに蕩け、ウットリと霞が掛かっているようだった。
「す、凄いんです…梓様のご奉仕…あ、あんなの…」
 カラカラに掠れた声で、由美子が溝口に答える。
 溝口が慌てて由美子の横に進み、浴室内を覗き込む。
 梓はうつ伏せになった金田のお尻に、顔を押しつけアナルを舐め終わり、顔を上げるところだった。
「ああやって、足の指から始まって全身をさすりながら、舐めていったんです…」
 脱衣所側から金田の顔は見えないが、全身の力が抜けているところを見ると、恐らく至福の表情を浮かべているのだろう。

 梓の手がボディーソープに伸びると、両手に塗して金田の背中に拡げてゆく。
 その手の動きは、まるでエステシャンのマッサージのようだった。
 金田の全身にボディーソープが行き渡ると、今度は身体を密着させ、摺り合わせ始める。
 ヌルヌルと金田の全身に、白い蛇がからみつき、その柔らかな身体を擦りつけるような動きは、淫卑そのものだった。
 由美子と並んでその奉仕を見詰める溝口の喉も、興奮でカラカラに成っている。
 浴室を見入っていた溝口の身体に、コトンと由美子の身体が投げ出された。
 溝口がそちらに目を向けると、興奮しきった由美子が、濡れた眼差しを溝口に向け
「ご主人様…」
 鼻に掛かった甘え声で、溝口の名を呼んだ。
 溝口がゴクリと息を飲み、由美子に手を伸ばし掛けると、バタバタと走る足音が聞こえ、脱衣所の扉が勢い良く開いた。
 4人が下着の替えなどを持ち、脱衣所に現れたのだった。
「あれぇ〜まだ、入ってなかったんですか?」
 美沙が驚いた顔で、溝口達に声を掛けると、溝口は慌てて立ち上がり
「今から入る所だ…」
 取り繕うように言い放つ。
 由美子は珍しく、膨れっ面で美沙を睨んでいた。

 ガヤガヤと賑やかになった脱衣所に気が付いた金田が、身体を起こそうとすると、それに合わせて梓が移動し、金田の動きをサポートする。
 梓の細やかな気配りに、金田は驚きながらも、嬉しくなり上機嫌になっていった。
 浴室の床に敷かれたマットの上に胡座をかくと、脱衣所に向かって手招きをする。
 ガラガラと扉を開け、6人の男女が浴室内に入ってきた。
 金田は溝口の顔を見て、警戒の表情を浮かべるが
「心配するな、俺はもう何も言わん。それより、梓さんの奉仕振りを見学させて貰いたいんだ。こいつの勉強のためにもな」
 そう言って、由美子を指さした溝口の顔を見て、警戒を解き表情を緩めた。
 辺りを穏やかな雰囲気が包み、どこか楽しげなグループ旅行の様になっている。
 だが、6人の視線は梓の一挙手一投足に釘付けになっており、交わされる会話もどこか虚ろに響いていた。
 金田の身体に付いた泡を、シャワーで丁寧に流し終えた梓が、金田の前に回って平伏し
「医院長様宜しければ、梓の身体を清めていただけませんか」
 金田に申し出る。
 金田はニタニタと微笑みながら、梓の身体を手で洗おうとするが
「医院長様…申し訳御座いません。梓はご褒美を頂けるような奉仕を致しておりませんので、おみ足でお願いいたします」
 梓の申し出にギョッとする。

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