夢魔
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■ 第19章 出張16

 宴会も1時間半が経過し、会場には酔漢や、泥酔者が続出している。
 中にはコンパニオンを抱え込み、ディープキスをしている者や、コンパニオンの乳房を激しく揉んでいる者も居た。
 しかし、コンパニオン達はそれを嫌がるどころか、進んで擦り寄っている者が大半だった。
 勿論彼女達は、そう言った趣旨のコンパニオンでは無い。
 純粋にお酒の酌をし、会話を楽しむレベルの女性達だった。
 いつもの宴会では、こんな風に泥酔者が出る事も、コンパニオンが乱れる事も有り得なかった。
 その淫らで騒然とした、雰囲気の中心に梓が居た。
 梓の出す淫蕩な雰囲気は、辺りの者を引き込み理性を蕩かせて行く。
 梓は金田に命じられたとおり、絶妙な身体の動きで、乳房を与え取り上げ、お尻を委ね奪い去る。
 強く触れようとしたり、柔肌に手を伸ばす者は、群がる男達の手や身体を誘導して、阻止していた。
 それは、じゃれつく猫達の群れの中で、ヒラヒラと妖艶に舞うアゲハチョウのような動きだった。
 そんな中、梓に見とれていた溝口が、その動きに気付く。
 梓が顎を引き、小さく頷くとスッと立ち上がりその場を離れた。
 溝口は直ぐに気が付き、金田を捜す。
 金田は立ち上がりトイレとは、逆の方に歩いて行く所だった。
 そして暫く遅れて、梓が金田の後を追う。

 溝口が気になり、2人の向かった先に足を進める。
 通路の隅で金田と梓を見つけた溝口は、ソッと身を潜め会話に耳をそばだてた。
「良いか、出来るだけ自然にやれ、じゃないとお前はただの淫乱女で終わるぞ…。これから先、何処の医師会でもお前の居場所はない…解ったな」
 金田は梓の胸の前で、ブラウスに何かをしながら、梓に命令をしている。
「はい、医院長様…。出来るだけ、ご命令に沿うよう努力いたします」
 梓は金田に頭を下げ、命令に服従した。
 金田が梓から手を放し、顎をしゃくると、梓は頭を下げ宴会場に戻って行った。
 溝口の前を通る時梓は、会釈して通り過ぎて行く。
 溝口はその会釈した梓に凍り付いた。
 梓の出す雰囲気は、今までの物を凌駕し、あの車中のような物に成っていたのだった。
 そこに在るだけで、効果を現せる媚薬。
 人の形をした、催淫剤。
 溝口は自分の下半身がムズムズと頭を持ち上げ出すのを、慌てて抑え込んだ。
 奥から出てきた金田に、溝口は掠れた声で問い掛ける。
「何を命じた…」
 金田は溝口の前を唇を歪め通り過ぎ
「見てれば解る。もうじき帰る事に成るが、お前はどうする?」
 ボソリと呟き、返事も待たずに宴会場に向かった。
 溝口は、何も言えず、ただ立ちつくすだけだった。

 金田が宴会場に戻り、席に着くとそれは始まっていた。
 梓の淫蕩な雰囲気に、触発された男達は、もう抑えが効かなくなって来ている。
 梓を包む人の輪は、2重3重に拡がり、男も女も見入っていた。
 その中心で、梓の身体は徐々に自由を奪われて行く。
 1人の地域長の手が梓の右腕を絡め取り、別の地域長の腕が足を捉える。
 副会長がジャケットの後ろ襟を掴むと、ズルリと引き下げ白いブラウスを着た上半身が露わになった。
 ジャケットは梓の二の腕で止まり、梓の自由を致命的に奪う。
 そして、正面にいる観衆から、どよめきが上がった、
 梓のブラウスに、両の乳首が透けて映っていたからだ。
 溝口が宴会場に戻って来た時には、どう見ても集団レイプの様相を呈していた。
「か、金田…何をして居るんだ…落ち着いて、酒なんか飲んでる場合か」
 金田と梓を見比べながら、溝口はオロオロとしている。
「まあ、見ていろそろそろ帰る時間になるぞ…」
 金田がそう言い、グラスをお膳に置いた時、金田の命令がフィナーレを迎えた。

 梓の真正面で間近に見ていた会長が、その乳房に手を触れようとした瞬間、梓が身を捻り身体を動かした。
 梓の動きでバランスを崩した会長が、両手を突き出したまま、梓に倒れかかる。
 会長の両手が梓のブラウスに掛かると、梓はそのまま後ろに倒れ込む。
 必然会長は梓の上に馬乗りになり、身体を重ねて倒れた。
 会長の顔に暖かく柔らかい感触が拡がり、驚きの中それを確かめるように両手で探る。
 シットリと手に吸い付くような手触りと、柔らかな感触、暖かい温度を感じて会長は顔を起こす。
 目の前には信じられない光景が広がっていた、頭を打ったのか昏倒した梓のブラウスは綺麗にはだけられ、そのたわわな乳房が全員の目に晒されている。
 そして、会長の手はそれを揉みしだく様に、両手でしっかりと包んでいた。
 全員が息を飲み呆けている時に、昏倒から目覚めた梓が、声を上げる。
「きゃ〜〜〜っ! 止めて下さい…! 許して〜〜〜っ」
 絹を裂くような悲鳴に、全員が正気に戻った。
 その時梓を取り囲んだ、輪の後ろから金田が声を掛ける。
「会長! それはいくら何でも、やり過ぎです。森川君、大丈夫だ…落ち着いて…」
 梓は会長から身体を離し、ジャケットとブラウスの前を合わせ、ガタガタと震えていた。
 金田は取り囲んだ人の輪を裂きながら、梓に近付くと肩を抱き立ち上がり
「会長…森川君には、事を大きくしないよう、私の方から言い含めておきます。今日の所はこれで失礼します」
 そう言って真剣な顔で、会長に告げた。
 会長は自分の手と、梓が横に成っていた場所と、梓と、金田を何度も見詰め、ブンブンと青い顔で首を縦に振る。
 金田は梓を連れて、そそくさと宴会場を後にした。

 帰りの通路で俯き両手で肩を抱いて震える梓が、小声で金田に問い掛ける。
「あのような物で、宜しかったでしょうか…」
 金田は梓に寄り添いながら、耳元に囁く。
「ああ、中々良い出来だった…。誰が見ても、あれじゃ強姦未遂だからな…」
 梓に囁いた後、金田はおかしくて堪らないと、含み笑いを噛み殺す。
 梓はソッと目を伏せ、金田に寄り添うが、金田は梓が動いた分、身体を離した。
 梓は顔からスッと表情を消すと、距離を保ったまま旅館の玄関に向かう。
 そんな金田と梓を後ろから、溝口達3人が追い掛けてくる。
「おい、お前達が出て行った後、コンパニオン達が暴れて大変だった…。警察に訴えるって、騒ぎまくってるぞ」
 溝口が金田に後ろから声を掛けると、金田は後ろも見ずに
「知るか…あいつらは、自分の意志でああ成ったんだ、そんな事まで俺は面倒をみれん。あの中では、こいつが一番の被害者なんだからな」
 金田は声を上げて笑い始めた。
 だが、その声はどこか虚しく響き渡っていた。

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