夢魔
MIN:作

■ 第19章 出張28

 しかし、その抵抗を始めた男が動き出した瞬間、梓の右手が閃き血だらけのタオルが、大男の顔面を捉える。
 大男は一瞬何が起きたか理解できなかった、身体を捻り始めた瞬間、自分の鼻頭で爆発が起き、眼の中でチカチカと花火が上がる。
 過去に山のように経験した事がある感触だと、直ぐに身体が反応し、ファイティングポーズを取ろうとするが、自分の両手が動かない。
 それどころか、強く喉を絞められる感覚があり、狼狽えかけたが、その苦しさが、状況を思い出させた。
 大男は両腕で顔を挟み込んでいるため、顔をそらす事が出来ず、鼻梁を結ばれたタオルで打ち付けられた。
 梓の一撃で大男の鼻から、鼻血が吹き上がり、顔面を血で染める。
 大男はこの姿勢の恐ろしさを、その時初めて知った。
(ぐう、喉が、喉が締まる…。鼻血で息が出来ない!)
 大男が暴れる度、首に巻き付いたタオルが喉を締め上げ、口に詰められたタオルのため、鼻だけが頼りの呼吸も鼻血によって極端に減る。
 呼吸を求めるため、梓を振り解こうとするが、骨盤の上に乗られているため、振り払う事も出来ない。
 梓の打擲は大男が動かなくなるまで続けられる。
 勿論打ち付けている間も、梓の妖艶な舞は大男の腰の上で続けられていた。
 大男は顔面を襲う痛みと、股間に走る痛み、呼吸できない恐怖に晒され続ける。

 避けられない攻撃、終わらない痛み、苦しくなる呼吸、朦朧とする意識の中で、稲光のように脳髄を貫く射精の痛み。
 大男は何度も何度もタオルの下で、謝罪し、悲鳴を上げ、哀願した。
 だが、それはくぐもった、呻きにしか成っていなかった。
 梓の責めは止まない、大男の意識が飛んでも、痛みで引き戻す。
 梓の特殊なオ○ンコが有って初めて可能な、男にとっての地獄の拷問である。
 やがて大男の身体が、グッタリと力を無くし、弛緩しきった顔は白目を剥き、梓のオ○ンコの中のチ○ポも勃たなくなった。
 その意味を大男は、生涯掛けて理解するであろう。
 梓は大男の身体から、立ち上がり周りの男達に向かって問い掛ける。
「悪い子は誰? お仕置きが欲しいのは…誰?」
 その言葉と、梓の視線を受けた男達の半分は、顔を引きつらせ一斉に逃げ出し、残りの人間は意識を無くしている3人を抱えて出て行った。
 リーダーの男だけが、凄い目線で睨み付け、クルリと踵を返し歩いて行く。
 後には凍り付いたように、梓を見詰める6対の目が残る。
 その目は一様に大きく見開かれ、様々な色に染まっていた。
 驚愕、尊敬、被虐、淫心そして恐怖。
 溝口達は今目の前で起きた事が、何も理解できない。
 いや、思考回路がそれを拒絶する。
 6人は身動きも出来ず、梓の行動を見守っていた。

 梓は男達が逃げると、直ぐに金田の元に駆け寄り、状態を診察する。
 整形外科医の梓は、打撲による外傷のエキスパートだ。
 じっくりと診察し、金田の傷が派手なだけでそれ程、酷い物ではない事を知り、ホッと胸を撫で下ろす。
 梓は胸を撫で下ろした後、ペタンと石床に座り込み、ガックリと肩を落として、項垂れた。
 その梓の口から、低い嗚咽が漏れ始める。
(やってしまった…あれ程ご主人様に命じられたのに…。あれ程、固く誓ったのに…使ってしまった…)
 梓は稔の[オ○ンコの力を解放してはいけない]と言う命令を守らなかった事に、激しく後悔していた。
 梓にとって、稔の命令は絶対だ。
 稔の命令を守る事が、自分の唯一の存在意義だと梓は思っていたのである。
 梓にとって、稔の命令を、自分の意志で破るという事は、自分の存在の全否定にあたった。
 溝口達が梓の泣き崩れる姿を見て、我に返り近付いてくる。
「どうした…、身体が痛むのか?」
 溝口が梓に声を掛けると、梓は弾かれたように顔を上げ
「あ、あぁ…。違います…、それよりここを納めたのは、私じゃない事にしてください…。私のあの姿を、絶対に人に話さないで!」
 溝口に躙り寄り、必死の表情で懇願した。

 溝口は余りにも必死な梓の態度に
「ああ、良いだろ…俺が話しをでっち上げてやる。だが、俺の質問にも答えてくれよ」
 交換条件を出し、頷いた。
「岩崎、内線電話で女将を呼べ、俺達全員の浴衣の替えを持って、大至急1人で来てくれって!」
 溝口の指示に岩崎が頷き、脱衣所に向かう。
 確かに溝口達の浴衣は、ボロボロに成っていた。
 溝口は梓を見詰め
「もうじき女将が来る。旅館の人間が、騒ぎを収めた事にすれば、問題はないだろ…」
 梓に問い掛けると、梓は俯きながら頷いて、小声で感謝した。
 涙を流し続ける梓は、小さく儚く溝口の目に映る。
(あれだけの事をやってのける事の出来る女が、何故こんな風に泣くんだ…。何が、理由で泣いて居るんだ…)
 溝口は道に迷い込み独りぼっちで泣く少女のような、梓の姿に胸が締め付けられた。
 由美子が浴衣を纏い、戻って来て梓の浴衣を差し出す。
 溝口は、ソッと浴衣を梓の肩に掛け、抱え起こした。

 岩崎からの連絡を受けた縁が、露天風呂に飛び込んできた。
 縁は露天風呂の状態を見て、見る見るまなじりを持ち上げる。
「あいつら! 許さないわ!」
 縁が踵を返すと、それを慌てて溝口が止めた。
「ま、待て縁! あいつらはもうチェックアウトしている筈だ、そこらには居ないだろう。それより話しもあるし、傷の手当てもしたいから救急箱を持って離れまできてくれ。呉々も、他言無用で早急にだ」
 溝口の言葉に縁は渋々頷くと、今度は目的を変え走り出した。
 溝口が全員に目配せして、離れに向かって移動する。

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