夢魔
MIN:作

■ 第19章 出張31

 金田が手に持った携帯電話から、稔の声が流れる。
『お〜い…もしも〜し…』
 金田はその声に、慌てて携帯電話を耳に付け
「あ、すまん、すまん」
 稔に謝った。
『いえ、盛り上がっていたようですが、結論から言わせて貰います。僕は、病院を欲しいとは思っていません、ですが、施設は魅力的なので、全面協力していただけると嬉しいです』
 稔の言葉に、金田はどこか寂しそうに
「それで良いのか? そんな事で、良いのか?」
 稔に問い返す。
『はい、僕はまだ、学生ですからそれを頂いても、困ってしまいます。気持ちだけ頂きます』
「そうか…それもそうだな…まだ早過ぎるな…」
 金田は、何かを自分の中で納得しながら、呟いた。
『ところで、梓に代わっていただけませんか? そこに居るんでしょ』
 稔がそう言うと、金田は梓に携帯を渡す。
『梓良く頑張っていますね、金田さんの言葉からも、それを感じます。しかし、罪を犯したなら、それは償うべき物では無いですか?』
 梓は携帯を受け取り、稔の言葉に耳を傾け、ビクリと震え小声で[はい]と答える。
『ですが、今回梓が犯した罪の罰は、全て金田さんから頂きました。後は梓がどうするか、自分で考えなさい…。梓の帰りを僕は待っていますよ』
 稔の言葉に梓は涙を流し、携帯電話に向かって、何度も感謝の言葉を告げる。
 稔が梓に金田に変わるように指示すると、梓は金田に携帯電話を差し出した。
『金田さんの携帯電話の番号を教えて下さい。これから、電話を掛ける事が多くなると思います。僕の方の番号は、梓に聞いて下さい』
 稔の言葉で、金田は自分の携帯番号を伝える。
 稔は一度繰り返し、通話を切った。

 梓に携帯電話を返そうと、振り返った金田の直ぐ後ろに、梓が深々と平伏していた。
「おわっ! どうしたんだ梓?」
 金田が驚き梓に問い掛ける。
 梓はそのままの姿勢で、ブルブルと身体を震わせ
「金田様…。私は、どうやって罪を贖えば良いのか解りません。今まで犯して来た金田様に対する罪も贖えていないのに、私の不服従の罪まで背負わせてしまいました…。こんな…こんな大きな罪を…私はどう贖えば許されるのでしょうか…」
 掠れる涙声で、身悶えしながら問い返してきた。
「そんな事か…」
 金田が呟くと、梓はガバリと身体を持ち上げ
「そんな事かでは御座いません! 金田様は、私の不服従の罪の代償に、病院まで差し出すと仰いました。それ程の罪に対して、私は…私は、何も持っておりません…。私の体も、心も、魂も、私はご主人様に捧げてしまいました…こんな何もない私が、どうやって金田様に償えるのでしょうか…」
 縋り付きながら、身も裂けそうな表情で縋り付き、問い掛ける。
「俺は梓が俺に謝罪したいと思ってくれて、俺に尽くしてくれただけで…。それで良い…。俺にはそれで、充分だ…、俺は梓を愛していた…振り向いてくれる筈もないと思っていた…。それが、こんな経緯とは言え、梓の献身的な服従を見せて貰った、俺にはそれでお釣りが来る…。願わくば、俺がそれを理解している状態だったら、どれだけ幸せだったか解らないがな…」
 金田は照れ笑いしながら、梓に告げるとニッコリ微笑んだ。

 梓は涙を湛えた瞳を真っ直ぐ金田に向け、両手で口元を押さえプルプルと震える。
 梓は何度か言葉を返そうと、パクパクと手の奥で口を開くが、言葉が何も出てこない。
 涙が溢れ、その雫が梓の太股に落ちる前、梓の身体が平伏し、梓の口から激情が漏れる。
「金田様! どうか…どうかお願いします! 稔様と…ご主人様とこれからも、最良の関係を結び続けて下さい! そうすれば、ご主人様が唯一梓に委ねられた、権利を使う事が出来ます。ゲストが重複した場合選べる権利[選択]が使用できます…梓は金田様が望まれる限り、いつまででも金田様のお側で、お仕えできます。梓は、誠心誠意、心を込めて金田様に服従いたします、梓の忠誠を示し続ける事が出来ます! どうかお願いいたします。梓に償う道をお開き下さい! 梓に尽くさせて下さい…お願い…致します…」
 梓の激情は、金田を驚かせるには充分だった。
 元より金田は稔に惹かれ、心酔していて稔との関係を切るつもりは、更々なかった。
 更に、その関係を続ける限り、自分の思い続けた梓が、誠心誠意仕えると言い出したのだ。
 これは実質、梓の告白である。
 梓が、自ら身を悶えさせ、金田に側にいさせて下さい、尽くさせて下さいと、懇願したのである。

 金田の身体は小刻みに震え、梓の言葉を何度も何度も繰り返し、自分の中で確かめた。
(梓は…今、俺に言ったよな…[誠心誠意服従する]って、[仕えさせて下さい]って、[尽くさせて下さい]って…言ったよな…間違い無い? 間違い無いよな!)
 金田の頭の中は、事実を受け止めて良い物か、定まらずグルグル回り続ける。
 だが、金田の身体は、現実を早く認識したいと、震える手を梓に伸ばした。
「梓…今の気持ちを…あ、現して…くれ…好きに…動いていいから…」
 自分の意識とは全く別の物が、言葉を発しさせる。
 金田自身何を言ったのか解らなかった。
 金田自信認識していなかった掠れた声は、笛のように高く聞き取りにくかったが、梓を反応させた。
 梓は伏せた体を起こしながら、金田の首にしがみつき、唇を合わせると濃厚な口吻を交わす。
 大胆に重ねられ、激しく合わさる唇、しかしそれに反し、舌使いは繊細で丁寧に金田の舌と口腔を愛撫し、這い回る。
 梓は持てる技術をフルに使い、快感を、思いを、服従を金田に示し、奉仕する。
 梓の真摯な奉仕に、金田の離れていた、喜びを確かめる心と、現実を認識しようとした身体が一つになり、至福の快感を感じ始めた。
(うおっ! 本当だ! 夢じゃない! 現実だ! 梓は俺に本気で服従を示している! 本当に尽くそうとしている! うおおおぉ〜〜〜っ)
 金田は込み上げる喜びで、爆発しそうだった。
 それも、梓自身から示す服従なのである。
 金田は気も狂わんばかりに歓喜した。

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