夢魔
MIN:作

■ 第19章 出張35

 梓は稔の前に奴隷の姿で正座し、この2泊3日の出張の報告を行っていた。
 梓の身体には、この主張中で付いた、生傷が痛々しかったが、適切に処置をされ傷跡は残らないであろう。
 美香と美紀は梓の後ろに控え、その姿を見詰めている。
 女として、奴隷としてまた一つ自分達を置き去りにし、高みに昇ってしまった母の背中は、美姉妹には眩しかった。
「と言う事は、金田さんは梓を完全に許してくれた訳ですね…。梓は大きな代償を、金田さんに支払わなければ成りませんよ…。梓の存在意義を揺るがす行為を、助けてくれたんですからね…恩には、恩で報いなければ成りません」
 稔の言葉に、梓は深々と頭を下げ
「はい、金田様には感謝のしようが有りません…。充分にお応えして行くつもりで御座います」
 稔の言葉に同意した。
「僕の方は、ソロソロ次の用意で忙しくなります。その間梓は、金田さんにご恩返しを思う存分して来なさい。金田さんが喜ぶ事なら、何でもして上げるんですよ」
 稔はニッコリ微笑んで、梓に頷くと
「今の梓なら、もう解っていると思います…その為のモノは、全て梓の中にありますから…」
 梓に向かって囁くように伝える。
 梓もそれに対して、大きく頷き
「はい。解っておりますわ…ご主人様」
 妖しく微笑んで、答えた。

 稔が梓に対して手を伸ばすと、梓はスッと携帯電話を取り出し、コールする。
 コール音が鳴り止まぬうちに、その携帯電話は稔の手に渡った。
『おお、梓どうした?』
 コール音が終わると、携帯電話のスピーカーから、金田の声が流れる。
「もしもし、金田さん僕です」
 稔が答えると、金田は直ぐに緊張した声に変わり
『ど、どうしたんだい、柳井君…。何か、不手際でも起こしてたのかな? 梓の傷が酷かったのは、私のせいだ…だが、不可抗力だったんだ…』
 金田は、稔が電話口に出たため、慌てて言い訳を始めた。
「いえ、そんな事では有りません。これからの事について、2・3お話をしたいと思いまして、お電話を差し上げました」
 稔の声は、笑いを含んで穏やかに響き、金田の緊張を解きほぐす。
『な、何だ…良かった。私は怒られてしまうのかと思ったよ…大切な梓を傷つけてしまった事は、本当に後悔して居るんだ…許してくれ』
 金田が電話口の奥で、頭を下げている気配が伝わった。
「プレイ中これぐらいの傷は付く物です。それより、適切な処置に感謝しますよ、流石お医者様です」
 稔がそう言うと、金田は有頂天になり、大きな声で照れ笑いを始める。

 暫く、笑いが納まるのを待った稔が口を開き、用件を伝えた。
「実はですね、一般では手に入り難い薬物が必要なんです…。手に入り難い物ですから、それなりに毒性は高いのですが、犯罪になるような物では無いので、ご安心下さい。お願いしたいんですが、用立てていただけますか?」
 稔の言葉に、金田は
『はい! 全面協力すると言いましたから、何でも言って下さい。例え、犯罪性があろうと、不詳この金田満夫、どんな事でもやります! モルヒネだろうが、何でも用意します』
 力強く稔に答える。
「いえ、そんな物ではありません。実は○○○○と△△△△を用意して欲しいんです…出来れば、大量に100パックほど用意して貰えますか」
 稔が、薬品名を伝えると、金田は暫く黙り込み
『××××何かも、ウチには有るけど…それも、必要じゃないですか?』
 稔に問い掛ける。
「そうですね、それも欲しい物のリストに、入っています…。ですが、それを用意していただくと、流石に薬剤師の方に感づかれますよ…」
 稔がソッと金田に告げると
『大丈夫です。これらの薬品は、私が管理していますし、誰にもバレません。それに、数が減っても近隣の病院に回したと書類を作れば、何とでも成りますよ』
 金田は自信満々で、稔に答えた。

 稔は金田の協力振りに、梓がこの出張でどれ程の働きをしたか理解し、梓に微笑んだ。
 梓はその微笑みに、言いしれぬ程の幸福感を抱き、身体を震わせ恍惚に浸る。
「あと、医療器具が使えて、人目に付かない場所は有りませんか? 出来れば、簡単な手術が出来る程度の場所が、有ると良いんですが…」
 稔は金田に次の要求をすると
『ああ、有りますよ。この病院と町を挟んで反対側に、2階建ての診療所が有るんですが、そこを使うと良いです。この病院の分院にしようと、買った場所なんですが、余りにも周りに住宅地が少なくて、どうしようかと思っていた所なんです。好きに使って下さい』
 金田はいともあっさり、稔に答えた。
 余りのスムーズな事の運びに、稔は思わず肩透かしを食らった気持ちになる。
(物事が動く時は、タイミング良く行く物ですね…。僕達も少し急ぎましょうか…)
 稔は表情を引き締め、考えを巡らせると、金田に向かって最後の要求を告げた。
「金田さん、3つ目なんですが、これから僕達は、忙しくなりますので、余り梓を構ったり出来なくなります。ですから、信頼の置ける金田さんに、面倒を見ていただきたいんですが…。どうでしょうか?」
 稔の言葉に、金田は言葉を詰まらせる。

 金田は沈黙の後、上擦った声で
『そ、それは…、いつでも梓を呼び出せる…そう取って、良いんですか?』
 稔に問い返す。
「ええ、そう取って頂いて構いません。但し、他の約束。身体の傷と地位の確保はお忘れなく」
 稔が金田に答えた。
『はい! それは、勿論! 必ず、絶対に守ります!』
 金田が返事を返すと、稔は梓に携帯電話を渡し、梓が電話口に出ると
「宜しくお願いいたします。医院長様」
 金田に蕩けるような声で伝える。
 電話口の向こうで、ドタバタと音がして、暫くした後
『ああ、うん解ったぞ梓…だが、今日は疲れたろうから、明日からな…。出勤して来たら、直ぐに部屋に来なさい』
 金田は上擦った声で、梓に答えた。
 どうやら、金田は突然の梓の声で、姿勢を崩し転倒したようだった。
 梓が携帯を切り、稔に向き直って頭を下げる。

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