夢魔
MIN:作

■ 第20章 恋慕7

 絵美は雑多な化粧品の中から数点を選ぶと、鏡の前でイメージする。
 自分の記憶の中で、最も妖艶な同級生の母親の顔。
 自分の顔と梓の顔。
 絵美にとって、今日目に触れた梓の顔は、女の象徴そのものであった。
 梓との邂逅は、絵美の心の中に、強く近付きたいと言う願望を、植え付けたのだ。
 陰影、色つや、雰囲気、それら全ての情報を重ね合わせ、目を開く。
 絵美は自分の顔をキャンバスに、イメージ通りの絵を描き始める。
 類い希な色彩感覚と、描写力はイメージ通りにその顔を変化させた。
 化粧という名の通り、絵美の顔は化け、粧われた。
 1時間後鏡に映る、絵美の顔はどこか梓を思わせる、妖艶さを湛え、成熟した女の物に成っている。
 チラリと時計を見た絵美は、時間を確認し立ち上がった。

 部屋を出て純に告げた公園の側の、公衆電話から隣に住む老婆に電話を入れる。
「お婆ちゃん…ごめんなさい。アルバイトを探しに行きますから、希美達を見て貰えませんか? 少し遅くなるかも知れませんけど、宜しくお願いします…」
 隣の老婆に妹達を託し、絵美は公園に急ぐ。
 自分の身体を投げ出し、生活費を確保するために。
 今の絵美の装いは、完全に売春婦の様だった。
 だが、化粧をし心を隠さなければ、自分が思いを寄せる少年に、身体を委ねる事が出来なかったのだ。
 軽蔑されるための粧い、身を委ねるための粧い、女を示すための粧い。
 様々な思いが絵美の中で渦巻いていた。

 公園に着いた絵美は、中に入る事を躊躇っていた。
 公園の中には、希美の同級生の母親や、その同年代の女性達が、子供を連れて遊ばせていたからだ。
 絵美自身も良く知る母親が、絵美の姿に気付き眉を顰める。
 同時に数人の母親が絵美の姿に気付き、コソコソと集まり始めた。
 その集まった顔は、どれも見た事がある顔で、日常の中ではにこやかに挨拶をする顔ばかりだった。
 その顔が今は、入り口に佇む絵美の姿を見て、ヒソヒソと話し始めている。
 どの顔も、侮蔑の視線で絵美を見下し、高慢な笑顔で噂する。
 ヒソヒソと絵美の耳に卑猥な言葉が届き、次の瞬間高らかに笑い合い、潮が惹くような忍び笑いに変わる。
 絵美はその声と笑いに、耳を塞ぎたい衝動に駆られるが、それは母親達の言葉に屈服した事になる。
 絵美にとって只出来る事は、その言葉を受け止め、耐える事だけだった。

 だが、そんな健気に耐える絵美に、その身体は応えては呉れなかった。
 絵美の身体の奥深くから、チロチロと熾火のように女の部分を炙り始める物が有った。
 それは、侮蔑を、嘲笑を、羞恥を餌に動き始める。
 徐々にその力を強めるそれは、身体に作用し絵美の心を追い立て始めた。
 公園の入り口で佇む絵美の内股を、ツーッと水滴が流れる感触が、絵美を我に返らせる。
(えっ! な、何? い、今のって…)
 絵美は慌てて、水滴を感じた方の足を見詰める。
 絵美のスラリと伸びた膝当たりまで、水滴が流れた後がヌラリと光っていた。
 絵美はそれを見詰め、ドキリと胸を高鳴らせる。
(ど、どうして…)
 慌てる絵美だが、その出所を調べる訳には、いかなかった。
 ここは、日の当たる公衆の面前であり、自分の事を見詰める主婦が、少なくとも4人居る。
 絵美は誤魔化すように、スリスリと内股を合わせ、水気を拭った。

 それを見ていた主婦達には、その行動の意味を見抜く。
 途端に声を大きくして、絵美の行動をあざ笑い、侮蔑し、嘲笑する。
 絵美の身体は、その声を聞き視線に晒され、更に身の内を灼く炎が大きくなる。
 ドクン。
 大きな音を立て、絵美の子宮が収縮する。
 絵美は激しく後悔した。
 どうして、ショーツを履かなかったのかと。
 お気に入りでなくても良い、自分の股間を覆う布を、どうして用意しなかったのかと。
 心の底から、本気で後悔した。
 それと同時に自分の身体の中で、何が起きているのか、理解できなかった。
(なに? どうして…? どうして私の身体熱いの…。馬鹿にされてるのに…。いやらしいって、笑われてるのに…。どうして濡れるの…)
 絵美のオマ○コから、ダラダラと幾筋もの粘りけを帯びた水流が、内股を這って行く。

 絵美は溢れ出るそれを更に、太股を摺り合わせ誤魔化そうとするが、内股はてらてらと光を反射する程、濡れそぼった居た。
 絵美の姿は誰が見ても、欲情している事が直ぐに解る。
 絵美はその場を立ち去ろうかと、考え始めた時、時計は約束の時間を指し示した。
(あぁ〜…3時半に成っちゃった…これで、何処にも行けない…。純君…工藤様と行き違いに成っちゃうかも知れない…)
 絵美は公園の真ん中に、置かれた時計を見詰め、その場を動けなくなる。
 公園の中の主婦達は、突然こちらを向いた、露出狂の女の顔を馬鹿にしようとして、息を飲む。
 そこに晒されていた顔は、主婦達が予想していた、どぎついメイクのブサイクでは無く、キッチリと化粧をした色香漂う美貌であった。
 今の絵美の顔を見ても、誰もそれが絵美だと解らないだろう。
 控えめに見える程、透明感を持った仕上がりは、良く見ると全体にメイクが施されていて、梓の美貌と妖艶さが表現されている。
 絵美と梓両方を知り、尚かつその美貌に目を眩ませず、分析する力が有って初めて絵美だと識別できた。

 完全に美貌もスタイルも負けた主婦達は、その目に嫉妬を浮かべ始め、絵美をあからさまに攻撃し始める。
「本当いやらしい格好だわ、子供が居るのにこんな所で…モゾモゾとみっともない動きは何?」
「そうよ、ちょっと綺麗でスタイルが良いからって、あんなはしたない格好で、公園に来られたら堪らないわ…駅前に行けば良いのよ…そうしたら、みんな見てくれるから…」
「あら、奥さん…そうしたらあの人のアソコが大変な事に成るかも…。だって、ここであの状態でしょ…。私達4人であんな風に成るんだもん、駅前だと足下に水溜まりが出来るわよ…」
「良いじゃない…それ。どうせ、あんな格好をして居るんだから、やってるお仕事も想像つくわ。長蛇の列を作ってお客様が並んでくれるんじゃない?」
 主婦達は絵美の耳にハッキリ聞こえるように、話し始めた。
 その言葉を絵美は聞きながら、身体を縮め公園の入り口で、謂われない罵倒に耐える。

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