夢魔
MIN:作

■ 第20章 恋慕21

 絵美は狂に哀願の目を向け、狂おしそうに身体を一度くねらせる。
 狂は身体を元に戻しながら
「綺麗になったぞ…」
 ニヤリと笑って、絵美に告げた。
(あ、あぁ〜…意地悪だ…狂君の…意地悪なんだ…うく〜ん…。でも、これも良い…あぁ〜ん…)
 絵美は唇を突き出し、眉根に皺を寄せ、恨めしそうに狂を見詰める。
 絵美は狂のペースに完全に嵌ってしまっていた。
 本来なら、いくらマゾ気が強くとも、こんな風には成らないが、狂の独特な雰囲気と絶妙のコントロールで、羞恥を感じさせ快感に変えさせる。
 絵美のように、自分自身で露出の快感を知ってしまったタイプには、特に効くのが狂の調教なのだ。

 生殺し状態になった絵美に、狂は更に追い打ちを掛けて行く。
「ところで、話は聞いたけど、相談事まで行って無かったな…何だ?」
 狂は絵美の快感に震える目を無視して、絵美の相談に対する質問をする。
(ああ〜ん…狂君…本当に? …もう…もう…お終いなの…ええ〜ん…意地悪すぎる〜…)
 絵美は火照りきった身体を、持て余しながら、泣きそうな目で狂を見詰めた。
 狂はそんな絵美を見下ろし
「何だ? 不満か? 俺はお前が汚した所を綺麗にしただけだぞ…そんな目で見られる筋合いじゃねぇ」
 絵美に表情を引き締め告げると、絵美は床にチョコンと正座して、そのままの目線で項垂れ、上目遣いに純を見る。

 狂は堪らなかった。
 その絵美の表情、仕草、そして反応。
 全てが狂の求める物だった。
 だが、狂は自分に必死にブレーキを掛ける。
(ここで押し倒したら駄目だ! ここで押し倒したら、こいつに逃げ場を作る…。あくまでこいつが懇願して、奴隷になる事を認めさせるんだ!)
 狂は自分の欲望を、グッと飲み込み、言葉を続ける。
「まさか、興奮して続きをして欲しいのか? 俺はサディストだって言ったよな…。続きを望むお前は、俺の性癖を理解して、奴隷になるって言うのか…?」
 狂は絵美に対して、奴隷になるのを認めるのかと問い掛けた。

 絵美は狂の問いに、ビクリと震え俯く。
 しかし、直ぐに俯いた絵美の口から
「成るもん…」
 小声で囁きが洩れる。
「成るもん…私…狂君の…奴隷になるもん…」
 絵美は顔を上げ、狂を見詰めると涙を湛えながら、言い切った。
 その言葉を言った絵美は、タガが外れたように狂に捲し立てる。
「私、狂君が好き…純君も好き…それに、自分がエッチだって知ってるし、狂君がエッチだって解った。自分が、恥ずかしい事が好きなのも、変態な事が好きなのも全部解ったもん…。だから…だから、エッチな狂君の奴隷になるもん…狂君の側から…純君の側から…離れたくないもん! 絵美奴隷になるもん!」
 絵美は狂に躙り寄り、足下に縋り付きながら涙を流し、必死な顔で誓った。

 狂は絵美の顔を見詰め、自分の中で有る感情が沸き上がっている事に気が付いた。
 純が良く浮かべる感情。
 自分が表に出ている時には、一度も感じた事のない感情。
 それが、心の奥底から、沸き上がり、今自分の心の大部分を占めている。
 その感情は[可愛い]だった。
 狂は初めて、自分の中に表れた感情に戸惑いながら、絵美に手を伸ばす。
(何だ…クソ…手が震えてる…。違う手だけじゃねぇ、身体もだ…)
 狂は狂おしいまでの感情に、驚き戸惑いながら絵美の顔を、両手で捧げ持つ。

 絵美の目を真っ直ぐ見詰めながら、狂が口を開く。
「俺は…」
(くそ…声が掠れてる…喉が上手く動かねぇ…)
「意地悪だぞ…。嫉妬深いし…。変態だ…」
(何を言ってる…馬鹿か俺は…)
「それでも、良いんだな…」
(あ〜…台無しだ…もっと、クールに決めろよ!)
 狂は自分の思いと、実際に口にする言葉が、掛け離れている事に苛立ちを感じながら、同時にとても満たされた気持ちに成る。

 絵美は狂の掌に頬を包まれたまま、コクリと頷いた。
 狂は絵美の顔を引き上げながら、自分の顔を近づけ口吻をした。
 その口吻は、優しい物では無く、激しくお互いの舌を絡める物だった。
 狂が求め絵美が応え、絵美が求め狂が応える。
 いつの間にか2人は抱き合い、激しくお互いを求め合う。
 狂は口吻をしたまま
「絵美は俺の奴隷だ…」
 絵美の口の中に囁くと
「絵美は奴隷です…」
 絵美が直ぐさま狂の口の中に返す。

 狂が唇を離すと絵美は甘えるようにいつまでも、狂の唇を追い、唇をついばもうとする。
「絵美、離れろ…。お前は俺の奴隷になったんだ、甘えるような真似はするな。俺の行動や命令には絶対服従だ」
 絵美は狂を追うのを止め、切なそうな表様で狂を見詰め
「うん…」
 小さく頷く。
「絵美…俺の奴隷なら、そこは[はい]だ…中途半端な気持ちなら、奴隷は務まりゃしねぇぞ。自分自身で考え、俺をお前の上位者と思え、俺はお前の飼い主だ、俺はお前の主人だ!」
 狂がそう言った時、絵美はドキリとする。
(上位者…飼い主…主人………ご主人様…)
 絵美は狂の言葉を自分の心で反芻し、ゾクゾクと震え出す。
 そして、絵美の中で、モヤモヤしていたラインが繋がる。
(神田に無かった物…狂君にある物…私の感じてる物…信頼、愛情、尊敬…これだわ…だから、命令を受けても気持ち良いの…だから、感じたいと思うの…だから幸せなの…狂君…狂君…あ、ああぁ〜私のご主人様…)
 絵美は泣き笑いの表情を狂に向け、足下に踞り顔を押しつけた。

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