夢魔
MIN:作

■ 第20章 恋慕22

 狂は満足そうに笑いながら、絵美に手を伸ばそうとすると、その動きがピタリと止まる。
(狂兄ちゃん、もう良いでしょ! 次は僕)
 純がそう宣言して、主導権を握った。
(あ、ま、待て…これから、なのに…)
 狂は純によって、意識の奥に追いやられてしまう。
 絵美は純と狂が入れ替わった事に、気付いていない。
 純は頬を真っ赤に染め、ドキドキとした表情で、狂が取っていた姿勢のまま、絵美を見下ろしていた。

 絵美は擦り付けていた顔を、ウットリとした表情に変え
「ご主人様!」
 勢い良く頭を持ち上げ、ご主人様を見る。
 その顔が一瞬で、不思議そうに染まった。
「あ、あれ? 純君…。変わっちゃったの…」
 純の顔を見て、思わず問い掛けていた。
 純は絵美のその表情と言葉に、頬を膨らませ
「駄目なの? 僕は、お邪魔? 狂兄ちゃんばっかりで、僕も絵美ちゃんと居たいんだよ!」
 絵美に不満をぶつける。
「えっ…だ、駄目じゃないけど…。駄目じゃないけどさぁ〜…」
 絵美は頬を染め、俯きながら身体をモジモジとさせた。

 純は膨れっ面のまま、絵美の身体に手を伸ばし
「僕じゃ、不満なんだね…、でもこれでも不満?」
 絵美の身体に、その手を這わせる。
「あひゃん〜! うふぅ〜…はん、はぁ〜ん…ひん、くふ〜…」
 絵美の口から鼻に掛かった、甘い声が飛び出す。
(いやん…なに…なにこれ…くぅ〜ん…気持ち…きもちいい〜…)
 絵美は純の指先が生み出す、不思議な快感に身悶えする。
「僕はその気になれば、お兄ちゃんよりタッチは上手だよ…。何せピアニストだから、10本の指は自由自在なんだ」
 純はニコニコ笑いながら、絵美の身体に指を這わせた。

 純の指は、純が宣言したとおり、絵美の身体を強く、弱く、舐めるように、這うように、弾くように、震わせながら正確に性感帯を刺激する。
 絵美の身体は、リズミカルに与えられる、複雑な快感に翻弄され、純の手の間でクネクネと淫らなダンスを踊る。
「いやはぁん、だめ〜〜ん、ひゃん、ひぃ〜…こわ、こわい…あたま…ばちばち…くふ〜〜〜…」
 絵美は涙を湛えた視線を宙に漂わせながら、押し寄せる快楽に飲み込まれそうに成っていた。
 その時純の指が、ピタリと止まる。
(まだ、イカせるんじゃねぇ!)
 狂の声が、純の頭の中に響いた。
 純は邪魔されて怒り掛けたが、思い直してその指示に従った。
 絵美はまたも肝心な所で、お預けを食らう。

 純の腕が離れる事により、絵美の身体は床に投げ出される。
 涙を浮かべ、ハアハアと荒い息を吐きながら、絵美の目は驚きに見開かれていた。
「な、何よ! 純君のその手…何がどう成って…どうして、途中で…」
 絵美は捲し立てながら、途中で冷静になり、最後の言葉を飲み込んだ。
(純君も…意地悪だ〜! …あんなコトして、知らん顔なんて…。あんな顔して…?)
 絵美はそこまで考え、有る事に気が付いた。
(純君のタッチって、確実に私の気持ちの良い所触ってた…。って言うか慣れてる、慣れ過ぎてる!)
 絵美は純の顔をキッと睨み付け
「純君酷い! あんな顔して! 私の事遠ざけてたのに、いっぱい女の子触ったんでしょ! じゃなかったら、今みたいな事できない!」
 ブンと右手を振る。

 絵美の振った右手は、見事に純の左頬を捉えバシ〜ンといい音を立てた。
 純は左頬を真っ赤に染め、驚いた顔のまま固まっていた。
「嘘つき! 純君不潔! か弱いリスみたいな顔して、本当はいっぱい女の子騙してたんでしょ!」
 絵美は純に捲し立てると
「ぼ、僕…そんな事…僕してないよ…」
 項垂れて目を閉じ、狂と入れ替わった。
 目を閉じた狂は、純が受けた痛みの余韻を、そのまま引き継ぎながら
「痛つつ…ったく…、また何の説明もしねぇ…。絵美、勘違いだ…あれは、純の特技だ…。俺には、解らねぇが…あいつには感じるらしい…。快感の流れが…何処を求めているのか、手に取るように解るらしいんだ」
 狂は絵美を見て、左頬を撫でながら告げる。

 突然の狂の登場に、絵美は戸惑い、言葉の意味をユックリ理解する。
「えっ? …勘違い? …快感の流れが解る?」
 絵美はその言葉の意味を、理解しようとしても、中々理解できないで居た。
「俺はお前に言葉や雰囲気で、恥辱を煽ったよな…。純は指先の感覚で、触れた女の身体が、何処にどんな刺激を求めているか、解るらしいんだ。まるで、譜面が有るみたいに純の指は、触れた女の身体の上を動いて、的確に快感を引き出してくる。俺の記憶の中でも、今のタッチをした女は絵美で4人しか居ねぇ…内3人は、アメリカにいた頃の話しだ」
 狂は顎を左右に動かしながら、淡々と絵美に話した。
「う、嘘…じゃ…私、純君に…」
 絵美は愕然としながら、言うと
「そ、勘違いで、かなり酷い事をした…、変わろうにもあいつ、引っ込んで出てこねぇ…」
 狂は溜息を吐きながら、絵美に告げる。

 絵美は狂の言葉に愕然とするが、狂が話を続けないのは、狂自体にもどうする事も出来ないようだった。
 狂は目を閉じ何度か純との連絡を試みるが、思わしくないようで、重い沈黙が続く。
 狂は大きく溜息を吐きながら、ボリボリと頭を掻き、絵美に話し始める。
「まぁ。追々覚えろや…俺達と付き合うなら、機転は早く切り替えろ、思い込みで行動するな、それと俺らの性格をちゃんと把握しろ。俺は、ひねくれ者で我が侭、純は小心者でいじけ虫、2人とも頑固でお調子者…。それが基本的な性格だ」
 狂にボソリとされた説明は、突っ込みどころ満載だったが、絵美は只頷くだけだった。
 だが、頷いた絵美は知らなかった。
 狂が自分達の性格を、今まで人に説明などした事がない事を。
 稔や庵が見ていれば、その場で卒倒しかねない、希有な事だという事を。
 狂自身絵美を特別な存在と見ている。
 絵美の事を自分と主人格にとって、とても大切な存在と、位置づけていた。

■つづき

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