夢魔
MIN:作

■ 第29章 暗転6

 4人の教師は頷くと、それぞれの審査を受ける奴隷を決め始めるが
「いや、少し待ってくれ、さっきの話を聞いて、ポイントが足りなくなる恐れが出て来た。ここは、源さんを使って見ようと思う…京本君の話だとかなり、即効性があるらしいんでな」
 黒澤が計画の内容を変更して、その後の行動を指示する。
 黒澤の言葉に、4人は納得し頷くと、直ぐに奴隷達を集めに走った。

 黒澤が携帯電話を取り出し追跡ソフトを起動すると、様々な番号が学校の地図を移動している。
(ふっ…由香の番号が解らなければ、これも意味を成さないな…)
 黒澤が苦笑いを浮かべ、携帯を閉じようとすると、前から志保理を連れた、京本が歩いて来た。
(1番と25番か…。教師の数字は恐らく、合宿の成績だろうな…私が12番なのは、合宿に参加していないためだろう…。んっ、25番? そう言えば以前教頭に見せられた、ファイルで叶は25番だったな…、11番を探してみるか)
 黒澤は直ぐに11番の数字を探し始めると、直ぐ横の職員用トイレの個室に居た。

 黒澤は携帯をダイヤルして由香を呼び出す。
『はい、ご主人様…、あっ、黒澤様…。お呼びでしょうか』
 由香は直ぐに電話に出ると、黒澤の名前を呼んで、問い掛ける。
「ああ、直ぐにトイレから出て来なさい、審査に行くぞ」
 黒澤がカマを掛けてみると
『ええ、どうして私がおトイレに居る事が解ったんですか? 一生懸命、隠れてたのに…』
 由香は驚きながら、移動し始めた。

 携帯電話を片手に、職員用トイレから出て来た由香は、目の前に黒澤が居た事で
「うわ、ビックリした」
 声に出して驚き、不思議そうに黒澤を見詰める。
(これは、中々便利で良いが…。私達に迄、付けて有るという事が問題だな…。完全に行動がバレてしまう…)
 黒澤は携帯電話を仕舞いながら、伸一郎の真意を図りかねていた。
 しかし、黒澤はまたも思い違いをする。
 それはキサラが、完全に伸一郎と考えを同じにしていない事だった。
 キサラは、キサラの思惑の元、この計画に参加していたのである。

◆◆◆◆◆

 地下の調教場に降りたキサラを、狂が待ち構えていた。
「あら、僕ちゃん…、違うか…今は狂ちゃんね…。こんな所で何してるのかな?」
 キサラがコロコロと笑いながら、狂に問い掛けると
「それは、俺の台詞だ…。田口から竹内の闇口座に、7億の入金が有った…。あんた田口の差し金で来たのか?」
 狂はぶっきらぼうに、キサラに問い直す。

 キサラはコロコロと再び笑い
「田〜さんは、私の店の大口出資者よ…。頼まれれば、嫌とは言えないのよね〜…」
 狂の言葉を素直に認め、答えを返すが
「嘘付け…おばさんよ、俺の目は節穴じゃねぇ…。さっき、教師達に配ってたシステム…あれは、俺達の作ったモンじゃねぇ…。間違い無く軍用のシステムの流用だ…、言う気が無いなら俺は本気を出して、おばさんの依頼主を捜す。厄介な事になって、お払い箱になっても、俺は責任とらねぇぜ…」
 狂は直ぐにその答えを否定し、キサラに詰め寄る。

 狂の言葉にキサラは大きく溜息を吐き、諦めると
「わぁ〜ったわよ…、っとに、可愛気が無いんだから…。ビジネスよ、ビジネス。田口の爺から依頼があった時は、正直首を縦に振る気は無かったわ。だって、人身売買にまで手を出しちゃったら、私の商売に傷が付くし、顧客の方にも迷惑が掛かるんだもの。だけど、今度の依頼人からの話は違ったの、正直内容は守秘義務があるから言えないけど、スタンスは狂ちゃん寄りよ…。だから、私の邪魔はしないで、その時は私も本気出さなきゃ成らないし」
 狂の目をジッと見詰め、本当の事を答えた。

 狂はキサラの言葉を黙って聞き、その言動を分析する。
 暫くキサラを見ていた狂の視線から、フッと力が抜けると
「わぁった…、おばさんの言う事信じよう…。取り敢えずは、俺は口出ししねぇし、調査もしない。すまねぇな、要らない詮索しちまってよ…。田口のおっさん程度の資産なら、ぶっ飛ばせるが、それ以上が出て来たら、厄介だったんでな…」
 キサラが狂の前に指を3本立て
「3回言ったわよ…私に対する禁句…。ちゃんと、約束は守って頂戴よ…」
 凍り付くような視線で、狂を見詰める

 狂は少し驚いた表情を浮かべ、それを苦笑に変えながら
「そんなに言っちまったか…、ちっ、しゃあねえだろ。俺は、あんたの実年齢知ってんだし…自分の3倍近い年齢の女は、普通その言葉で呼ぶだろ?」
 キサラに問い掛けた。
 キサラは鬼のような表情に変わり
「きぃ〜っ! 本当に嫌な子。良い、絶対に他人に言っちゃ駄目よ!」
 髪を振り乱しながら、狂に詰め寄る。

 狂はケラケラと笑うと、キサラに向かって
「ああ、約束だからな。言わねぇって…、特に稔にはな」
 ヒラヒラと手を振りながら、確約した。
 キサラは肩で激しく息をすると、呼吸を整え
「今ので、5億分よ! 解ってるわね!」
 髪を手櫛で直して、狂に告げる。
「はい、はい…。今度の奴は、でかいぜ…その3倍は稼がせてやるよ…」
 狂はキサラにそう告げると、スタスタとキサラの前を横切った。

 キサラは狂の言葉を聞いて、一瞬でキラキラと目を輝かせ
「本当! 狂ちゃん? 愛してる〜」
 目の前を横切る狂に腕を伸ばし、抱きついた。
「おい、止めろって…。俺の主義忘れた訳じゃねぇだろ…」
 狂はキサラを邪険に払いのけ、呟くと
「まだ、あの下らない主義貫いてるの? もういい加減止めたら。狂ちゃん程のサディスト、勿体ないわよ」
 キサラは狂の[一穴主義]を批難した。
「うるせぇ、人それぞれだ…。俺は主義を変える気はねぇ…」
 狂はそう言って、エレベーターに飛び込んだ。

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