夢魔
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■ 第29章 暗転19

 黒澤は美由紀に事情を説明し、真に対し何か手伝える事が無いか質問すると、美由紀は表情を引き締め
「それでは、黒澤様の権限で私をお連れ下さい」
 黒澤に依頼すると、黒澤は管理者である東と谷に了解を得ようとする。
 東と谷は美由紀を追い払うように手を振り
「好きにしろ、俺達ゃ暫く横になる…。お前も、どっかに行け…」
 春菜もろとも用務員室から追い出した。
 どうやら、東と谷は何らかの理由で、精根尽き果てているようだった。
 その言動にも容貌にも覇気という物が一切感じられない。

 黒澤は美由紀を伴い第1体育館下の剣道場に向かう。
 大貫達と途中の廊下で合流した黒澤達は、剣道場に入った。
 剣道場に入ると、中は騒然としている。
 黒澤を確認した、奴隷教師の1人が山孝の背後から、黒澤の到着を知らせた。
 山孝がその声に振り返り、黒澤の姿を確認すると、身体を入れ替えて黒澤に向き直る。
「黒澤先生…この教育と言うのは、とんでも有りませんぜ…。取り敢えず、恵美を見て下さい…」
 山孝が黒澤に伝えて、山源のストレッチを受ける恵美を見せた。

 黒澤は恵美の姿を見て、思わず息を飲む。
(うお…、何だこの雰囲気は…。以前から美人だったが、一つ二つ突き抜けた感がある…)
 グッタリと力を抜き、山源に足を持たれ、下半身のストレッチを受ける恵美は、溢れ出す色気で全くの別人のように見えた。
 驚く黒澤に美由紀が近づき
「黒澤先生…驚いてらっしゃる様ですが、真様に教えて頂くと、女はみんなああ成ります…。女は快感を得ると、美しく艶やかに変わります。それが、有り得ない程の快感だと、あんな風に成るのは当然ですわ…」
 ソッと種明かしをする。

 黒澤は美由紀の言葉に半分納得して、半分驚いた。
「いや、理屈は解るが…、それだと私達は、そのレベルの快感を与え続けなければ成らない…。そうしないと、この美貌や雰囲気を維持出来ない理屈に成る…」
 黒澤はいち早くそれに気づき、ボソボソと呟く。
 黒澤の呟きを聞き取った、山孝がそれを理解し、美由紀がニッコリ微笑んで、言葉を補う。
「ええ、そう言う事に成ります。ですが、それは性的な快感だけでは有りません。私達女が感じる快感は、精神的な快感も有ります。性的な快感で、真様を凌駕出来る方は、先ず存在しませんから、精神的な快感を強めるしか御座いませんわ…」
 美由紀の補足説明に、黒澤は納得すると答えを導き出す。
「そうか、そこで私達の関係が問われるんだ…。強固な主従関係…、奴隷達との繋がり方が試される…。諸刃の刃とはよく言った物だ…」
 黒澤は京本の言葉を思い出し、苦笑いした。

 美由紀は黒澤に向かって、真の教育がいつ始まったのか問い掛けると、まだ1時間程余裕がある事を知り
「黒澤先生、私禊ぎに行って参ります。ここから、一番近い水場はどこかに有りますか?」
 体育系の教師でない美由紀にとって、この体育館の付近は、良く理解して居らず黒澤に問い掛ける。
「ああ、ここの直ぐ横に、シャワールームが有る。剣道場を出て、直ぐ右の奥だ…」
 美由紀の問い掛けに、山孝が素早く答えた。
 美由紀は山孝に向き直り、ペコリと頭を下げると踵を返す。
 その時、恵美の姿に一瞬目を止め
(真様…お一人で、無茶を成されていますね…。お待ち下さいませ、今[気]を補充致します。タップリ吸い取って来ましたわ…)
 心配そうに眉を曇らして、直ぐに凄艶な表情で微笑む。

 美由紀は稔の采配で真に預けられてから、2週間毎日[側女]としての修行に励んでいた。
 そのため、基本的な精気の蓄え方をマスターしていたのだ。
 だが短期間の修行で、その制御方法まで身につけていないため、加減が出来ない。
 東と谷はそうとは知らずに美由紀を使い、精気を根こそぎ奪われていた。
 2人から覇気が抜け落ちていたのは、美由紀が原因であったのだ。
 真の治療により、身体のプロポーションを整え、美貌に磨きが掛かり、下半身を自在に使いこなす、今の美由紀は、まるで空想の悪魔、インキュバスのように成っている。

 美由紀はシャワーで冷水を浴びて、東と谷の痕跡を洗い落とし、剣道場に戻ってきた。
 濡れた髪を後ろで1つに束ね、身体には何も身につけていない。
 畳んだ洋服を入り口の直ぐ脇に置くと、部室の前の板の間に正座して、背筋をスッと伸ばす。
 美由紀から、凛とした雰囲気が溢れ出し、皆その姿に目線を奪われる。
 それは、美貌や整ったプロポーションの為ではなく、神々しささえ感じる雰囲気による物だった。

 美由紀が待機を始めて、30分程が経つと部室の戸が開き、中から興奮した奴隷教師が現れ
「あ、あの…、町田先生終わりました。次の方に入るよう、指示を頂いたのですが…」
 黒澤達に報告しながら、目の前の美由紀に驚く。
 美由紀は奴隷教師の驚愕を他所に
「失礼致します」
 深々と頭を下げて、部室の中に滑り込む。

 部室の中に入った美由紀は、真の姿を見て辛そうな表情を見せる。
(真様…無茶を為さらないで下さいませ…。このお変わり様…、[気]を使いすぎですわ…)
 真の身体は、二回り程小さくなり、身体の張りも失われていた。
「あ、美由紀…。どうしてここに…?」
 真は美由紀の姿を認め、問い掛けると
「真様…、[側女]としてのお役目を果たしに参りました。どうか、お使い下さいませ…」
 美由紀は深々と頭を下げ、真に申し出る。

 真はフッと微笑みを浮かべて
「有り難う…。貴女の顔を見て、私は自分の未熟さを理解しました…。どうやら、肩に力が入り過ぎていたようですね…。これしきの事で、心乱しているようでは、修行が足りません…」
 真はボリボリと頭を掻きながら、済まなそうに美由紀に呟いた。
「弥生様の件ですから、真様が心を乱されるのは、仕方がない事で御座います…。私ごときでは、力及びませんが精を集めて参りました。どうか、お使い下さい…」
 美由紀は平伏したまま、真に再度申し出た。

 そのやり取りを、直美を連れに来た黒澤が聞き、問い掛けようとすると
「解りました、存分に使わせて頂きます。黒澤先生、少しの間2人にして頂けますか?」
 真が黒澤に申し出る。
 黒澤が頷いて、直美を連れて部室を出ると、部室から真言が聞こえ始めた。
 部室から出て来た黒澤に、中の様子を奴隷教師から聞いた大貫が問い掛ける。
「黒澤様、源さんがしぼんで行ったと聞いたんですが、どう言う事なんでしょうか?」
 大貫の質問に、黒澤が頷きながら
「私にもよく分からないが、確かに源さんの身体は、二回り程縮んでいた…。顔色も悪く、肌の張りも無くなっていたよ…」
 大貫に真の状態を語った。

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