夢魔
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■ 第29章 暗転26

 黒澤は呆気に取られた表情で、視線を京本に向けると、京本は驚きの表情を浮かべて、白井を見詰めている。
 その反応を見て取った黒澤は、この行動の首謀者が、白井だと確信した。
 そして、昨夜黒澤達の元に乱入して来た、光子の言葉が頭を過ぎる。
(光子は、確か[考えがある]そう言ってたな…、これの事だったのか。クソ、こんな事に何の意味がある!)
 黒澤は白井の横に立つ光子に、視線を向け睨み付けるが、光子の目線には強い意志が宿っていた。

 そう、妄執に近い強い嫉妬感が、光子の視線に込められている。
(真さんが原因か…。そう言えば、ウチのグループにいる時から、真さんを妙に薦めていたな…)
 黒澤は溜息を一つ吐いて、他の教師達に視線を向けた。
 迫田と森と小室は、自分達の調教が上手く行かず、焦りからこの行動に出たようだった。
 項垂れ自信なさげに、視線を逸らす3人に、黒澤は怒りすら覚える。
(この馬鹿共…、そんな事で、結託するぐらいなら、調教を優先させろ!)
 黒澤は一瞬で状況を理解し、沸々と怒りがわき上がった。

 12人の調教教師2/3の同意を得るためには、5人結託された時点で無理なのだ。
 白井は5人の協力を得て、黒澤陣営の奴隷教師の首輪を剥奪し、審査を受けさせない手に出たのだった
 白井は次々に声を掛けるつもりで、奴隷教師に手を差し出す。
 一瞬騒然となる廊下に、女の鋭い声が響く。
「何を騒いでるの! 静かになさい!」
 ビンッとキサラの声が全員の動きを止める。
 44人の教師達の視線が、キサラに向けられると、廊下の端に立ち、腰に手を当てて立っていた。

 コツコツとヒールの音を響かせ、騒ぎの中心に来ると
「一体、今度は何?」
 キサラは黒澤に向かって問い掛け、黒澤はその一部始終をキサラに告げる。
 キサラは黒澤の話を聞くと、大きく溜息を吐き
「好きな様にさせなさいよ。どうせ、そんな事をして奴隷を減らしても、困るのはその女なんだから。そんな姑息な手段しか使えない、調教師が連れてきた奴隷なんて、たかが知れてるわ。私は、言ったわよね[お仕置き]するって…? 見て来たでしょ、お仕置きされた女達…。調教教師がああ成らないなんて、勘違いして無い?」
 白井に冷たい目線を向けて、静かに告げた。
 白井はキサラの言葉に、始めて[お仕置き]の意味を理解する。

 黒澤はニヤリと笑うと、奴隷教師達に
「良いぞ、お前達。誰の所にでも行って調教を受けろ…。服従を示せる相手なら、私は何も言わん」
 ハッキリと宣言した。
 白井は黒澤の言葉を聞いて、顔を青くして唇を噛み
「でも、この女は不服従で、首輪剥奪から戻れないからね! 5人の結束は破れないわ」
 黒澤に捲し立てると
「あら、5人居ようと関係ないでしょ? 2/3の意見って、単純な頭数じゃないわよ。ランクBなら2人分、Aなら3人分の意見よ…、それだけ奴隷を持てるんだから、当然じゃない」
 キサラが鼻で笑いながら、白井に告げる。

 黒澤はユックリと、京本に振り返り
「と言う事は、私と誰か2人がランクBに上がり、京本先生を仲間に引き入れれば、2/3は超えるという事ですね…」
 静かにキサラに問い掛けると
「必然そう言う事ね…。貴女もさ、こんな下らない事考える前に、好い加減奴隷を育てたら? 調教教師なんでしょ?」
 キサラは黒澤の質問に頷き、白井に向かって言った。
 白井はキサラの辛辣な言葉に、項垂れながらその場から走り出して逃げようとする。

 走り出す白井の背中に、キサラが追い打ちを掛けた。
「ちょっと、貴女。Aランクの調教道具が返って来てないわよ。Aランクは、貸出期限厳守だからね、無くしたりしたら[お仕置き]よ! 道具を大事にしない者の、見せしめになって貰うからね」
 キサラの言葉に、白井はギクリとして立ち止まり、何か考え込むと
「決まりは解っています! 必ず明日までには返します」
 そう言って、走り出した。

 白井は廊下を走りながら、顔面が蒼白になっていた。
(不味い! 不味い! 不味いわ…。どうしよう…、美由紀を打ってからどこかに行っちゃった何て…、口が裂けても言えない…。あんなの、何処にも売ってなかったし…、どうしよう…)
 白井は、Aランクの調教道具[砂鉄鞭]を紛失していたのだ。
 狂に止められて、苛立ち紛れに飛び出し、生徒指導室に戻った時には、そこにはもう無く成っていたのである。
 必死に成って探しまくり、インターネットなどでも同じ物を探したが、一向に見つからなかった。

 それもその筈、あの鞭に限らずここの調教道具は、全て庵の特別製で、他所では見る事も適わない、特殊な物ばかりなのである。
 特にランクの高い責め具は、その特殊性から、大量生産不可能で数が少なく、貴重な物が多かったのだ。
 庵が管理している時も、規則は厳しかったのだが、キサラが管理する様になって、その罰則は更に厳しくなった。
 これは、庵の責め具を信望しているキサラにとっては当然の事で、キサラ自身はまだまだ管理が甘いとも感じている。

 キサラにとってランクAの責め具は、至宝に近い物なのだった。
 それを無くしたなどと言った日には、どんな目に遭わされるか解った物では無い。
 白井は項垂れて生徒指導室に入り、室内をひっくり返すが見あたらず、溜息を吐く。
 返納期日は明日である。
 白井は途方に暮れ、生徒指導室を後にすると、ブツブツと独り言を言いながら、教室棟を捜し始めた。

 白井が教室棟の2階に着くと、奥の教室から争う様な声が聞こえ、激しい物音も流れてくる。
(全く…。この先の教室は…3年のクラスね…。何暴れてんのよ! 憂さ晴らしに使うわよ!)
 白井は柳眉を吊り上げ、ツカツカと教室に近づく。
 教室の扉に付いている窓ガラスから、中を覗くとそこには、信じられない光景が広がっていた。
 白井はその光景に目を見張り、食い入る様に見詰め始める。

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